18.朝焼けの鳥
なんということもないシーンが続きます。
クェー――――クェー――
謎の声で目を開けた。天井が透き通った濃い青で、ビックリする。
そっか、エレメントの中だっけ。
太陽の姿はまだ見えない。でも、空はもう明るさを含んでいる。
声はエレメントのみたい。ちょっと首を上に向けている。
視線を追った。
「あ、鳥さんだ!」
上に黒い鳥の姿。十羽はいる。大きな鳥だ。V字に列を組んでいる。
クェー――――
エレメントが鳴くと、鳥の群れがだんだん降りてくる。もしかしたら、エレメントが上昇しているかも?
聞こえてきた鳥の声は、エレメントと似ている。
「わー! すごーい!」
鳥たちは鳴き交わしながらエレメントの横に並び、後ろにそろって飛び始める。
すりガラス越しでも、いちばん近い鳥の姿はよく見える。目の周りと背中が黒に近い茶色で、首やお腹は白い。オレンジ色の眉毛があって、頭は白と黒のまだらだ。くちばしと足は黒くて、形はサギやツルに似ている。
「ダァルだ」
頭に手が置かれて、同時に声が聞こえた。
「あ、ニーノ、おはよー!」
「おはよう」
「これがダァル! 一緒に飛んでくよ!」
「ああ。珍しい。――おそらく、エレメントが誘ったのだろう」
「え、そうなんだ」
クェー――――
エレメントがまた鳴いている。この声で、ダァルを呼んだのかな。
「複数のほうが飛びやすいが……」
「が?」
ニーノは、ハの字になって後ろに続くダァルを眺めている。
「ダァルが楽になるように、声をかけたように見える」
「――おお! エレメント、優しい!」
「エレメントに意思はない」
ニーノは不思議そうだ。
エレメントはダァルが後ろについた後も、ときどきクェーと鳴いている。後ろのダァルから、応じる声が上がる。
「――きっと楽しいから、ダァル呼んだんだね」
見上げると、ニーノは無言で頷いた。
朝ご飯を食べて、ダァルを眺める。でも、普通なら鍛錬や竜さまの洞に行くのに、ずっと狭いところにいるので、うずうずしてきた。
仕方なく、エレメントの壁沿いでんぐり返し一周や、滑り台をする。
「ニーノー、まだ着かないー?」
ごろんごろんニーノのところに転がった。閉じていた目蓋を上げて、ニーノが見下ろしてくる。
「まだだな。早くても、今日の夜だろう」
「旅のお話が聞きたいのです!」
起き上がって正座したけど、ニーノの眉間にしわが寄る。話したくないのかな。
「いつ旅したのー?」
「――おそらく、竜さまのお側に来て一万日経たない頃だ」
質問すれば、答えてくれるらしい。
「シスはいた?」
「いや。システーナはずっとあとだ」
「じゃあ、竜さまと二人旅?」
ニーノが頷く。
いいなぁ。いいなぁ!
「六の竜さまがたにお会いするだけで、六千日かかった。邸もお泥さまの座も、他の竜さまがたの座から離れている。そうだな……、南の竜さまの星が見えないところだ」
「おおお、遠い」
六千日、ざっと十五年だ。
北半球にたくさんの竜さまがいるってことなら、それくらいかかるのかも。でも、そんなに長く、洞から離れても大丈夫なのかな。
「どんな竜さまがいますか? 炎の竜さま?」
サラマンダー!
「いらっしゃる」
「水の竜さま?」
アイスドラゴン、リヴァイアサン、龍神!
「海においでだ」
「海! 海あるの!」
すごい! 周りは砂漠ばかりだから、海はないと思いこんでた。
「とても大きな竜さまもいらっしゃる」
「え! りゅーさまより大きい?!」
「ゆったりと空を飛んでいらっしゃる。言葉には言い尽くせない壮麗さだ」
ふわー! どんな感じかな? 見たいなー見たいなー!
「あ、古老の竜さまには会った?」
「ああ」
「古老の竜さまがいちばん長生きだよね? 次は誰? 大きい竜さま?」
ニーノは軽く首をかしげる。
「身体の大きさと生きた時間は、必ずしも関係がないそうだ。たしか、竜さまとお骨さまが、古老の竜さまの次に長く生きていらっしゃる。――しかし、私はすべての竜さまにお会いしたわけではない」
じゃあ、竜さまは長生きだけど、もしかしたら、もっともーっと生きてる竜さまがいるかもしれないんだな。
「わくわくするね!」
そして、今からお泥さまに会うんだもんね。
ごろごろ床を転がると、昨日は白かった地面が、緑に覆われている。
近づいてる!
「わくわくするねー!」
湧き上がる興奮に、うぉほっほを始めた。
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