14.退屈から悪事に走る
次に出会う竜さまのお名前を変更します。第一案のほうがやはりよかった気がしました。
砂浜に打ち上がったフグの気持ちで、床に横たわっている。
ぶー――――
息を吐いて、唇がぶるぶる震えるのを感じる。うまくいくとたくさんぶるぶるして、失敗するとただ「ぶー」と言っているだけだ。
「たーいくつ、エーヴェはーたーいくつー」
残念なお歌。
「はーじめてーたーいくつー」
竜さまの鱗ジャンプも考えたけど、カゴに着地して中身を壊したら大惨事だ。
「貴様をここに連れてきたのは間違いだった」と語る、冷酷な目のニーノが現れるかもしれない。
ん? そうだ。カゴがある!
ぴゃっと顔を上げた。
部屋を見るのを無意味と言われたから、カゴを見るのもきっと無意味だけど、見ても見なくても無意味だから、見ていいよね!
カゴはニーノが積み上げている。いちばん近い、二段重ねのカゴを選んだ。
一つ目のカゴを開ける。ビンがたくさん入っている。小さいの、大きいの。
「この間、エーヴェが作ったのあるかな?」
一個一個取り出して、目の前にかざしてみる。中には液体が入っていたり、砂状の物が入っていたり。
「このカゴは、ビンのカゴでした」
ビンを入れ直して、次のカゴのフタを開ける。
ぐるぐる巻きにされた布。それから、石とビン。幅を取っている布を引っ張り出そうとつかんだら、思ったより重い。かけ声と一緒に外に出す。
巻物みたいにひもが掛けてあるので、ごろごろと広げた。
「おおー!」
中には刃物がたくさん収められていた。
前に、ディーの骨折のときに使っていた道具だ。刃先がぬらりと光ってて、すごく切れそう。
外科手術の道具一式かな?
刃はどれも三センチくらい。それぞれの形がユニークで、曲がってたり、尖ってたり、細かったりする。
刃が付いていない道具もある。へらとか、ピンセットとか、先が曲がった針金とか、U字型の針金とか。
隣の石は砥石だ。ビンには油が入っている。
「はじめて見た!」
転生前は料理でおなじみだった油が、こちらではレアアイテムだ。
私も小刀をといだら、ジュスタに油を塗ってもらう。サビを防ぐために必要なんだって。でも、その時はボロ布に染みた油を塗る。液体の油は初だ。
油以外も手入れ道具みたいだった。
「ニーノはやっぱり、お医者さんだったのかな?」
まだ早いって断られた前世のこと。これだけ医療関係の知識を持っているのは、医者か看護師か――。漢方薬みたいな物も使うから、漢方医や魔女かもしれない。
砥石や油のビンはカゴに戻したけど、刃物一式は重くて、うっかり他の物を押しつぶしそうなので、カゴの隣に置いて終わる。
「このカゴは、道具のカゴでした」
次のカゴの山へ移動。このカゴは、開く前からだいたい予想がつく。
「お薬のカゴー!」
もわっと鼻先に匂いが立ち上ってきた。たくさんの紙の袋だ。それぞれに薬が入ってるんだな。
触りたいけど、これはやばい予感がする。
持ち上げて破れて、散らばったら大変だ。
薬はニーノが集めて準備したものだから、台無しにしてはいけない。
ざっと見ただけでも四十種類は入っている。たとえ、ニーノが中国六千年の仙人だったとしても、この世界で改めて薬の素を探すのは大変だったはずだ。
「ニーノはすごく立派」
うやうやしくカゴにフタを戻す。
その瞬間、周囲が青白く光ってビックリした。
エレメントの表面に斜めの水の線ができている。
「何? 何か光った」
隣の雲の中で、青白い閃光がうねる。
雷だ!
防音室のおかげで、音は全然聞こえない。
エレメントの首の方を見ると、大きな水滴が当たって花のようにはじけている。
上も、右も、左も光る。稲妻なしで雲が照らされていると、なんだかあやしい感じだ。
「エレメント、大丈夫? 雷だよ」
壁をなでて聞いてみる。
答えはないけど、やっぱり話しかけたい。
目のくらむ光が炸裂した。
今のも、雷だよね? 落ちなかった?
ひょー――ん
防音壁を突き抜けて、高い音が聞こえた。
なんだか、絶妙に気が抜ける音だぞ。
雷が落ちる度に、この音が聞こえる。
「何の音かなぁ?」
よく外を見ようと壁にへばりつくと、音が聞こえる前に、エレメントが首を上げている。
「……エレメント、鳴いてる?」
でも、痛くはなさそう。
どちらかというと、楽しい……のかな?
「エレメント、雷好きですか?」
エレメントの首がこちらを向いた。
ひょー――ん
「おお!」
おしゃべりはできなかったけど、意思疎通はできるのかもしれない。
「エレメント! エーヴェだよ!」
両手を振った。
ひょー――ん
「エレメント、エーヴェの声、聞こえますか?」
エレメントはまた、首を前に向けてしまった。
うーん――。やっぱり言葉が分かった気がしたのは、思い込みだったのかな。
また、雷が落ちて、ぎゅっと目をつむった。
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