9.銀のたてがみ
ジュスタのお話と一緒に葉包み焼きを完食し、水を飲む。
この分だとやっぱり、みんな他の世界から転生したみたい。しかも、竜やドラゴンに思い入れがあるのかも。
私もドラゴンが好きだ。
日本は十二支や、神社・お寺に龍がいて、龍は身近な存在。
学校では教えないのに小学生が覚えている漢字ナンバーワン、龍。理由は不明だけど、とにかく最強の存在として子どもの頃から根づくんだよな。
でも、好きになったきっかけは『エルマーのぼうけん』かな。とくに続きの『エルマーのりゅう』で、身体が固まっちゃったりゅうをなでて、動けるようにするシーン! あれは、自分のできることでりゅうが助けられるってわくわくした。
『果てしない物語』、『ゲド戦記』、『西遊記』――異世界の竜の話から、『ドラゴンをさがせ』みたいに現実の中のドラゴンの話。
その後、もっとドラゴンの邪悪さや強さを押し出した作品を見ることが増えた。強敵としてのドラゴン。たまに、一緒に戦ってくれる心強い相棒。ライトノベル、マンガ、アニメ、あとゲームだな。
仲間ならバハムートエンチャント、あれはいいゲームだった。ドラゴンがみんな個性的で、可愛らしくて、かっこよくて、おどろおどろしくて。餌やりで進化するのもわくわくしたなぁ。しかも、最終決戦の前に「ダイスキ」って伝えてくれるんだ。思い出し泣く。
それからアクションRPGシャドウゼレクシア。あれは制作陣にぜったいドラゴン好きがいる。蒼古の谷に住むエルダードラゴンのかっこよさが異常だった。
物語の進行上、泣く泣く倒したけど、クリア後入手できる記憶の雫を使うと、全盛期のエルダードラゴンさまと対戦できるんですよ。結局、倒せた話を聞かなかったもんなぁ。DLCでバランス調整されたけど、頑なにダウンロードしなかったもんね。
うーん、システーナやジュスタの竜への思いに比べると、私の思いは見劣りする。
ただドラゴンが好きってだけだもんな……。
そのとき、ばちっとニーノと目が合った。
なぜか、いつにも増して視線が冷たい。
あ、でも、ニーノもきっと別の世界から来てて――。
「ニーノはどんな世界にいたの?」
ニーノの世界にも竜がいたのかな。
「――貴様にはまだ早い」
はぁ?
いや、そんな、子どもにわさびは早い、みたいな。
ニーノはわさびなの? ブラックコーヒーなの?
「貴様は子どもだ。この世界を知ることに集中しろ」
「でも、ニーノもこの世界の人だよ」
ニーノを知ることも、この世界を知ることじゃないのか。
「ならばすでに貴様は、私が何者であるか見知っているだろう。前の世界がどうあれ、今ここにいて、判断し行動している」
ううむ。そうだよね。前世のやり残しじゃなくても、ジュスタの作ったドラゴンモビールは素敵で、システーナの跳躍は最高。
絵を描いたときに分かったけど、身体に技術は残ってない。二人の今の姿は紛れもなく、この世界の二人の姿なんだ。
「でも、エーヴェ聞きたーい。いつなら、まだ早くない?」
それはそれです。
両手を上げて宣言した。
ニーノはしばらく押し黙る。
「二千六百日を超えれば、考えよう」
「おお!」
やった! 約束だ!
それで、今何日なんだっけ?
首をかしげたけど、大人たちは次の仕事に腰を上げた。
「いっぱい働いてるから、昼寝してーよ」
「今日は地面が湿ってるから、いい場所がありませんよ」
先に行った二人を追いかけ、工房の方へ走る。
工房に着く前に、足が止まった。
「ふわー!」
花畑の一面に、銀色の穂が輝いている。
「これ! 見なかった! 銀色!」
指し示して駆け寄り、さっそくごあいさつする。
高さは腰の辺り。銀色のつやつやした穂の根元に黄色いしべが見えている。
たしか、チガヤだ。少なくとも、似ている。
「ああ、久しぶりに見ましたね」
「そうだな」
「ここに生えるのは初めてなんじゃねー?」
感想を口にしながら、大人たちもやってくる。
私は穂を千切って口に入れた。あぎあぎ噛む。
「何やってんだよおちび」
「ちょーっとだけ甘いよ」
隣にしゃがんだシステーナに、あぎあぎしながら説明する。
まだ開かないチガヤの穂は甘くて、ガムみたいに噛んだって聞いたことはあったけど、試すのは初めてだ。
「まあ――、ちょっとは甘いな」
みんな穂をあぎあぎしてる。
ここの大人たちは好奇心が強い。
「――この穂が竜さまのたてがみに似ていると言ったな、システーナ」
ニーノの言葉に、システーナが顎を上げる。
「――へ? いつ?」
「貴様が子どもの頃だ」
「子ども!? はぁん、覚えてねぇけど、さすがあたしだな! 確かに似てるぜ」
光の角度で銀色に輝くと、本当に竜さまのたてがみを思い出す。
「シスさんもだったんですか。俺も思ったことありますよ」
「貴様は、熱心に何か作っていただろう」
「え――。あ、はい!」
何か思い出したみたいに、ジュスタの顔が輝く。
「エーヴェ、ちょっと待っててな」
ジュスタは工房へ走って行った。
戻ってきたジュスタは、謎の道具を手に持っていた。
細かい木が幾重にも連なって、長い縄になっている。木でできた蛇のおもちゃみたい。
「これ、子どものときに作ったんだ」
目の前にあぐらをかき、謎の道具の説明をしてくれる。
「この木が組み手になってて中に物をはさめる。それで……」
穂を折って、茎を木の隙間にさし込んだ。
「あ……あー! わかったー!」
既視感。ネイティブアメリカンの羽根飾り。
つまり、穂をたくさんつけると、竜さまのたてがみになる。
「すっげ、なんだそれ、おもしろい!」
「たくさん穂がいるんですけどね」
「集めようぜ、エーヴェ!」
「はい!」
穂を集めて木の隙間にはさみ、ぎゅっと押さえるとたてがみになる。長さは三メートルくらいだけど、たてがみらしくするにはたくさんの穂が必要だ。
せっせとかき集め、たてがみが完成する。尻尾は先っぽだけ穂を植える。
ジュスタが輪っかをつけてくれたので、かぶると竜さまになれるよ!
「せっかくだから角をつけようか」
輪っかに対して、垂直にカチューシャ状の半円をつける。左右長さの違う角がつく。竜さまと一緒で、右が短い。
「これもつけてみろ」
途中でいなくなってたニーノが戻ってきた。
掌には、くるっと丸まった布が二つ。
「耳だー!」
ジュスタがにやにやしながら、糸で角の隣につけてくれた。
「おちび、来い」
システーナが腕に巻いている紐を解いて、お腹にぐるんと巻いてたてがみを固定してくれる。
振り返ると尻尾。頭には角とぴるぴるする耳。つやつや銀色のたてがみ。
「エーヴェ、りゅーさまだよ!」
興奮して叫ぶ。
「似合ってる」
「似てる似てる」
「貴様は竜さまではない」
誰一人同意してくれないので、ぷうと膨れた。
推しのコスプレは基本です。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




