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6.きこりと豆の日

竜さま不足です。

「エーヴェ、ジュスタのひゅん! がやりたいのです」

 豆を選り分けながら、おしゃべりする。虫が食っていたり、黒く変色したりの豆を桶に放り込み、明日まく豆を選ぶ。


**


 今日は朝から森へ行き、木を切り出した。

 竜さまの鱗の保管庫や物置小屋に使う建材と、道具や家具用の材。目星をつけた木に、ジュスタが先導する。

 高木はまっすぐな木が多く、建材用に三本切る。

 ニーノが魔法でびゅん、と切ると思いきや、林業みたいに斧を振るって倒す。


 最初は話し合い。どうやって切るか、どちらに倒すか。次に、勢いよく倒れて他の木を大きく傷つけたり、転がってひいたりを防ぐため、幹に何カ所かロープを掛ける。

 斧を振るうのはジュスタかシステーナ。森の上空で、ニーノが木を倒す方向の指示や調整をする。

 ちょっと斧を振ったけど、斧の重さと木の皮の強さにびっくりした。

「重いね!」

「斧はこの重さも使って、刃を食い込ませるんだよ」

 掌の上下にジュスタが手を置いて、一緒に斧を振るう。ぐん、と振られる力強さに感動する。こんなに強いのに、一回では切れない幹にも感動した。


 後半は、ニーノの背中できこりを眺めた。

「貴様にうろちょろされては目障りだ」

 むー。ニーノは心配性かもしれない。

 でも、空中からの眺めも面白い。

 熱帯雨林だから、ほとんど木の隙間がないのに、できるだけ大きな枝や幹に触らないようゆっくり木を倒す。ロープをゆるゆる伸ばして、ふんわり着地すると拍手したくなる。


 倒したあとは、小枝を払って、運び出しやすい長さに切る。

 枝落としには、のこぎりを渡された。

「使い方、分かるか?」

 引いて切るやり方を教えてくれる。

 比較的見慣れた道具だ。これは行けるぞ。

 でも、ふと気がついた。

「のこぎりもジュスタが作ったのですか?」

「そうだぜ。小さいのはそれしかないから、大事に使ってくれ」

 まじまじとのこぎりを見る。

 だって、ぎざぎざの一つ一つが刃だよ? 一本ののこぎりに何個ぎざ(、、)がある?

「大事にする!」

 大人は()()を使って、細い枝なら一振りで落としていく。なるほど、ケガしないようにのこぎりを渡してくれたんだ。


 長さを切るときは、とっても大きなのこぎりが出てくる。二人がかりで引くやつだ。宮大工の絵で見たことある。

 あれも、いったい何個ぎざ(、、)が……。

「のこぎり、すごーい」

「はい! こっちもほめてー」

 のこぎりの一方をにぎっているシステーナが手を挙げる。

「シスすごーい! ジュスタすごーい!」

 二人が笑う。


 家具材は大きな木の枝を切り落とす。枝と言っても、直径八十センチくらいあるから、材はたっぷりだ。

 ジュスタを先頭に、あっちの木、こっちの木とウォークラリーみたいに森を回る。

「なんでいろんな木?」

 たくさん必要なら、一回だけ切れば簡単なのに。

「木はそれぞれ特徴があるんだ」

「かたいとか、やわらかいとか?」

 ジュスタは頷く。

「軽いとか、重いとか、水に強いとか、割れにくいとか。あとは色や木目が違う」

「だから、いろいろいるんだね」

 蜂蜜色の瞳がとろんと笑う。

「実のとこ、代用は()くんだよ。だけど、まあ、俺はいろいろあると嬉しい」

 感心した後ろから、不満の声が届いた。

「ジュスタのわがままじゃねーかよ。ニーノなんか言え」

 注目が集まったニーノは、小首をかしげる。

「いちばん木を使っているジュスタの意見を尊重する」

「もー、つまんねー!」

 言葉の割に、道具も材もいっぱい持ってるシステーナ。

 うっふっふ、みんななかよし。


 きこりの途中で見つけた果実を、木の上でみんなで食べた。

 ナツメヤシみたいに枝にびっしりの小さな実は、厚い皮をはぐと果汁たっぷりのぷるぷる果肉が出てくる。味は、ちょっとオレンジに似ている。一つ一つが小さいから、みんな黙って、いくつも食べる。

「……あんま食うと鼻血出るからな」

「え?!」

 チョコレートで聞いたことある脅しだ。つまり、これは実質チョコレート?

「こちらも食っておけ」

 ニーノが大きな木の実から切り分けた果肉をくれる。白くてあまり水っぽくない。冬瓜のわた(生)みたいな食感で、微かにあまい。とーっても味の薄い綿菓子って感じ。

「ガスアットって木の実だよ」

「貴様はこれが好きだな」

 大きいのをわたされて、ジュスタがにこにこしている。

 システーナは実質チョコレートのほうが好きそう。手が止まらない。

 あ、そうか、シスが鼻血出したことあるんだな。

「子どものときだぞ」

 システーナが横目でこっちを見る。

 なんと! 心を読まれた。


 切るのが終われば、森から材を運び出す作業が待っている。

 ばらけた細かい材は、システーナがひとまとめにして背負い、跳ぶ。ニーノとジュスタは、建材をロープで引いていく。私は丸太から落とした枝――(たきぎ)になる――を抱えて、建材の上にまたがった。

「ニーノ、ジュスタ、がんばれー!」

 二人の応援と、ときどき通りかかるシステーナの応援もする。

 せーの、と声を合わせる二人が珍しい。

「ニーノはどうして魔法使わないのです?」

 のこぎりや山刀を使わなくても、ニーノならちゃちゃっと木を切れる。

「時間も人手もある。今は、必要ない」

 斜面を登るのはこの二人でもキツそうだ。車がない時代は馬や(いかだ)を使ったはずだから、人間二人は十分けた外れ。でも、気休めに丸太から降りた。

 それで、いちばんはシステーナだ。

 ぴょーんと頭上を越えた影を見送る。


「あれー? 木、いっぱいあるよ」

 たどり着いた先は屋根がある木材置き場だった。丸太が何本も積まれている。家具材らしい短い木もあった。

「生木は建材には使えないからな。あっちは、千二百日くらい置いてる」

「湿度が高いから、乾燥が難しいな」

「そーなんです」

 ジュスタは丸太にもたれかかり、ニーノは手扇で首元をあおいでいる。

「ばらけてたやつはだいたい運んだけど、置く場所どこがいーよ?」

 システーナが合流し、もう一往復して材を運び終えた。


 木材置き場からは、工房前のお花畑に通じる道がある。左に折れたら菜園で、邸に近い方に斜めに入ったところに、高床の倉庫があった。

「おお、初めて!」

 中は麦やイモやトウモロコシ――いろいろな種が保管されている。

 豆の袋を担いで邸に戻り、夕飯の支度と豆の選別が始まった。


**


「やめておけ」

 まっさきに返ってきた声はニーノだ。

「あれは、肩に負担がかかる。貴様の関節は、まだ固まっていない」

「おお……」

 (まめ)(がら)を捨てて、ニーノはちらっとジュスタを見る。

「貴様にもすすめない、ジュスタ。肩は痛めるとこと(、、)だぞ」

「え、俺は大丈夫ですよ」

「あたしの走りもついて来てたぜ、ジュスタ」

 お湯が沸いた気配に、ニーノが腰を上げる。

「スピードが付くと、いっそ危ない。使うなら、改良しろ」

「改良ですか」

 ジュスタが眉を下げた。

 うーん。腕に付いてると、肩に負担がかかるのはその通り。

 いい豆の桶に間違って放った虫食いを、慌てて取り出す。


「ジュスター、身体に巻いたらどうかな?」

 犬のハーネスを思い描いて、身振りで伝える。

 人間用もあったはずだけど、思い出せない。

「なるほど。でも――うーん、強度がなぁ」

 さすがジュスタ、ジェスチャー読み取りの達人。

 そう、確かにベルトの素材が難しい。邸では肉をほぼ食べないから、()()もない。

「あ、そうか。改良できたら、おちびも使えるかもな?」

 自分の分を終えて、立ち上がったシステーナがにやっとする。

 そのまま、台所に入っていった。

「――おお! ジュスタ、一緒にかいりょー作る!」

 期待を込めて見上げる。

 ジュスタがにっこりした。

「そうだな。やってみるか」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニーノが魔法を使わないのが好感度大。 ひゅんひゅんでニーノがひとりで何でもやっちゃうと、みんなで作業感が出ないし、木を伐ったり、運んだりと作業の手間や手間隙かけて成り立つものの尊さを直に感…
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