4.夢のあわい
中途半端なエピソードと長さなので、次とつなげていましたが、やはり長いので分割します。
邸に戻って、夕ご飯を食べた。
はれぼったい目蓋の私に、ジュスタもシステーナもいつも通り。ちょっとほっとする。
泣き疲れてぼーっとした頭で、食べ物の味はよく分からない。
「もう寝な」
うとうとした私に、ジュスタが笑い交じりに言う。ぷるぷる首を振った。
「みんなのところにいる」
眠いけれど、部屋に戻るのはいやだ。
「みんなねぇ」
システーナが軽く笑って、私を食堂の長椅子に運んだ。普段は作業するときに使う椅子で、すこし低い。
大人たちは、食事の片付けに移っている。食堂を出たシステーナが、竜さまの鱗を持ってきてくれた。渡すと、台所へ消える。
洗い物の音の合間に、声が聞こえる。ジュスタは工房の、主に菜園のことについて話している。
足りない、または足りなくなる物について。
聞くともなしに聞きながら、ベンチに横になった。竜さまの鱗をうわがけにする。
「シスさんがいる間に、いろいろやっておきたいんですよね」
「今回は何日くらいいるんだ」
「そっちに合わせっけど、長くて十二日?」
片付けが終わったのか、みんな食堂に戻って相談を続ける。
水のこと、食べ物のこと、建物のこと、どれが大事なのか。大事かどうかでなく、今やらなきゃいけないこともある。収穫とか。
半分眠りながら、みんなの声を聞いている。
――懐かしい。
テレビをつけっぱなしにしたり、親戚の集まりで寝ちゃったり、どこかに遠出したあとで親の話し声が聞こえたり。
自分の参加しない世界がある。同時に、自分が寝ても、参加しなくても世界はある。
それは、ほっとするような、さみしいような……。
「――おちびは、優しいな」
眠っていたのに、音を拾った。
おちび――私の話だ。
……でも、眠い。
「――が別のところからここに来た話したら、泣いてさー」
「貴様は、不用意にそういうことを……」
ニーノとシステーナの声だ。ごちゃごちゃ言い争っている。
「――よかったな、ニーノ」
「何の話だ」
「おちびはお前を理解できるぜ。――の話で泣くってのは、身につまされるってことだろ」
んー? すーすーと寝息も聞こえる。
「あたしは人間が世界を滅ぼしたっての、全然信じられねー。ジュスタもそうだ。――でも、お前はそうじゃねーよな」
きぃきぃと椅子が揺れる音。
システーナが傾けているんだな。
「おちびが来て、よかったな」
小さく溜め息が聞こえた。
「――が招く相手に、不満などない。エーヴェが私を理解しようがしまいが――している」
「別に、そーいうかたっ苦しい話じゃねーよ」
きぃきぃきぃ――
不満げな椅子。
「――誰も他者のために生きる必要はない。私は竜さまにお会いできて、心から喜びを感じている。貴様はここに来て、貴様を救ったのだろう」
「あたしだって、竜さまにお会いできて心から喜びを感じてるよ」
「誰も他者のために生きるわけではないが、他者が自分を救う姿を見るのは、十分に生きる喜びだ」
きぃきぃが止んだ。
「――頭をなでるな」
「いや、お前ってほんっといけ好かねーけど、嫌いじゃあねーんだよなぁ」
「ほとんど同じ感想を――」
がたん、と椅子の足が床を叩く。
「んぁ? ……いま、何の話ですー」
「――なぜ貴様は、ジュスタのように育たなかったのか……」
「個体差だろ」
「なんですー?」
あくび交じり。
「ジュスタは態度も中身も嫌いじゃねーって話だよ」
「えー、起きてるときにほめてください」
「ほめてはいない」
「えー?」
なんだか、楽しそう。
幸せな心地で、夢に戻る。
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