13.準備万端
遅くなりました。
「竜さま! 今回は少ないです!!」
昼過ぎに本当にシステーナが帰って来て、前回同様、竜さまお食事タイムが始まる。
システーナが二つの鉱石をひょいひょいっと別方向に投げると、竜さまが素晴らしい速度で二つとも口にくわえる。小ぶりな鉱石だから、二つでも竜さまの口に収まった。口の端からはみ出そうになるのを器用に戻しながら、竜さまはごきごきと石を食べていく。
前回、食事の方法について怒っていたニーノは、仏頂面で見守っている。システーナに鉱石の分け前をもらって、そっちはニーノが準備する権利があるので「今回は許す」顔だ。
それでも、二個一緒に投げるのは不満そうだけど。
竜さまは、鉱石の口中での位置を調整するためか、今回は目を開けている。
おや? なんだか、普段と目の色が違う気がする。
じーっと見つめる。食べ終わったとき、目を覆っていた膜が消えた。
鳥の目蓋みたいな、透明な膜!
「りゅーさま、目蓋が二枚!」
両目で四枚。普段は、目を傷つけないように目蓋を閉じて食べるけど、そうじゃなくても目をガードできる。
「すごーい」
ぱちぱち手を叩いた。
竜さまはシステーナの左右を確認し、耳をぴるぴるする。
――終わりか?
「今は終わりです!」
元気の良いシステーナの答えに、ふむ、と竜さまは残念そうだ。
「りゅーさま、エーヴェ、明日から、遺跡に行ってくるよ!」
――ほう。どこじゃ?
「あたしが見つけました。ここから半竜日も離れてません。ジュスタも一緒に行きます」
――うむ。それはよい、ジュスタ。
はい、とジュスタは背を伸ばす。
「面白い物があったら、お知らせしますね」
――うむ。
「りゅーさまは遺跡、行ったことある?」
竜さまは舌で二度ほど口元をなめている。名残惜しそう……。
――ある。脆いので気をつけよ。
脆いのかー。じゃあ、竜さまと一緒に行くのは難しいだろう。
「出発の準備をしますんで、失礼します、竜さま」
システーナの言葉に、みんなで竜さまにあいさつして、邸に戻った。
「持ち物てんけんするー!」
「三回目じゃないか? エーヴェ」
ジュスタがにやにやして言う。
「三回目でもいいもーん」
「なんだ? あたしも見たい」
首をかしげたシステーナの手を引いて、部屋に連れて行く。
寝台の上でリュックサックをひっくり返した。
「これ、りゅっくー!」
麻布で作られたリュックサック。左右にポケットが付いていて、紐で背負える。ジュスタにもらいました。
「ポンチョと寝るときに敷く布」
寝台の上であぐらをかいているシステーナに見せる。
「ナイフと水筒」
ナイフをしまうベルトも並べる。水筒は竹製だ。もちろん、ジュスタが作った。
「ボール!」
「ボール?」
システーナがボールを取って、軽く投げ上げる。ちり、ちりんと音がする。
「テーマイと会うかもしれないから持って行くんだ!」
「テーマイ? 友達か?」
ゆったり笑うシステーナに力強く頷く。
「子ディーだよ! エーヴェの妹か弟」
システーナに、ここ数日の話を身振り混じりで話した。
「貴様ら、寝台の上でボールを使うな」
話しながらボールを投げ合っているのを、ニーノに見られてしまった。
「はい!」
答えて、ニーノが何か持っているのに気づき、寝台を下りて側に寄る。
「服を用意したぞ」
「おおお!」
長袖、長ズボン、小ぶりな笠と手袋、足の甲を覆えるサンダル――。
「着た!」
着替えて、ニーノの前に飛び出る。
「動いてみろ。窮屈なところはないか」
「――ない! ニーノありがとー!」
「礼はいらん。必要だから用意した」
システーナにも振り返って、見せる。
「よかったなぁ。――本当、器用だな、ニーノ」
手袋をしげしげと眺めて、システーナが言う。
「個体差だ。エーヴェを頼むぞ」
「任せとけ。おちびは、いろいろもらえてご機嫌だな」
そうなのだ。ほぼ全部、遺跡探検のために、ジュスタとニーノが準備してくれた。現在、完全に遠足の前のテンションだ。
リュックを担いで、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「りゅーさまに見せてくるー!」
「明朝、出発のごあいさつに行くから、今は止めなさい」
「じゃ、ジュスタに見せてくるー」
答えを待たずに、キッチンまで走った。
久しぶりに三人で夕食をとり、興奮で寝付けないかと思いきや、リュックサックと竜さまの鱗を抱えて爆睡。
翌朝、昇ったばかりのほの赤い光の中、竜さまに出発を告げた。
――気をつけてな。
金の瞳が細まるのを見て、竜さまから離れたくない気持ちがみるみる膨らむ。
でも、リュックサックや長袖、長ズボンが勇気をくれた。
「帰ったら、いっぱいお話しするね!」
宣言して、初めての遠足に出発した。
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