エピローグ
ぐるぐると洞と邸の周りを巡りながら、船は上昇していく。
見える場所が移り変わり、手を振ってるルピタが見える度に小さくなる。両手を腰にあててふんぞり返ってるガイオもすっかり小さい。
……あ、イコとスーヒが追いかけっこしてる。
上から見ると、邸も菜園も工房も洞までみんな箱庭みたい。
物心ついてから、たくさん歩き回って駆け回って仲良くなった。
「ちゃんと待っててね!」
思わず、また手を振る。
十分に高くなって、竜さまはまっすぐ北に飛び始めた。
一気に邸もテーブルマウンテンも遠くなる。
だんだん窓の端っこになる邸を、顔をはり付けて眺める。
首が痛くなって、諦めて前を見た。
広がる森と座の端にそびえる木々。
「そういえば、北に行くのは初めてです」
前の世界で住んでたのは北半球だから、戻るような感じかな? でも、この世界の北がどうなってるかなんて全然知らない。
――日が空の真ん中を通る所じゃ! 古老に会うのじゃ!
「お屑さまは古老の竜さまに会うの、楽しみですか?」
腕輪でぴこんぴこんするお屑さまを眺める。
――うむ! 古老はなかなかこの世界におらぬのじゃ!
いろんな世界を飛び回って、この世界になくなってしまったものを集めてる古老の竜さま。
いちばん長く生きてるのに働き者。
――じゃが、まずは砂漠じゃ! そして海じゃ!
「海!」
とうとうこの世界の海を見るんだ。
「青いですか?」
――青くも黒くも灰でもあるのじゃ! 大変に騒がしい場所なのじゃ!
「騒がしいですか?」
あれ? もしかして、私が知らない海かな?
――うむ。離すぞ。
竜さまの声が聞こえた。
一瞬、今までよりも強い加速に体がこてんと倒れ、向こうの壁に押しつけられた。
テーマイが上手に壁を蹴って立ち直り、びっくりしたみたいに周りを見回す。ントゥは尻尾を振り回して上手にバランスを取るけど、ペロは鉢が傾いただけ。さすがです。
帆や柱がぎいぎいきしむ。
……うまく飛び始めたかな?
ひょいっとのぞいた丸い窓に竜さまが悠々と横切っていく。
「おお! りゅーさま、飛んでます!」
甲板の扉に近づいて、そっと頭を出してみた。
「お、おちびか!」
縄を体に巻き付けて飛び回ってるのに、システーナがいちばんに気がつく。
「シスー!」
声をかける間に、向こうの舷側に跳んで行っちゃった。
「もう少しで安定するよ! 待ってね!」
ジュスタが手許の滑車を勢いよく回しながら、声を投げる。
頭をあんまり出さないように気をつけて、竜さまを探す。
「お? ニーノ、高いところにいます」
帆柱のてっぺんにニーノが立ってた。顔は見えないけど、きっとこちらに気がついてる。
――空は涼しいのじゃー!
風の切る音をたくさん引き連れて、お骨さまがくるくる回って船の前に躍り出る。
――おお! 骨もすっかり飛べるようになったのじゃ!
お屑さまも頭だけ出して様子を見てる。ぴこんと顔が飛び出ると風であおられるから、とっても忙しない。
「おお、りゅーさまです!」
風に乗って、竜さまが舳先のずっと前、お骨さまの近くに現れる。
鱗が生えそろった竜さまは、空と同じ青に輝いてる。
白銀のたてがみが気持ちよさそうに風になびく。
「りゅーさまー――!」
竜さまはゆらっと羽を傾けて、あっと言う間に船の真上に来た。
「おお、すごいです!」
――エーヴェ、楽しんでおるか?
首を傾けた竜さまの、かけた角が見えた。
「エーヴェ、とっても楽しいです! それから、楽しみです!」
竜さまは飛びながら首を軽く持ち上げる。
――うむ! 良きことじゃ!
グォ……クウォー――ン!
甲板に続く階段を転げ落ちて、床にひっくり返った。
びっくりして目をパチパチさせる。
――山の咆哮はうるさいのじゃ! 腹がいっぱいなのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんして怒ってる。
……あれ? 食べたのかな?
階段を駆け上がって、もう一回、竜さまを見る。
ばっばっと笑いながら、竜さまはぐいぐい先に行ってしまう。
――友ー! 速いのじゃー!
お骨さまは羽をバタバタさせて竜さまを追いかける。
「はっはー、二人とも速いなー!」
システーナが笑った。
「竜さまが前を飛んでくれるなんて、幸せだね」
汗をぬぐいながらジュスタがへらっと笑う。
「はい、幸せです!」
ニーノは特等席で、竜さまとお骨さまを見てる。
「うっふっふー! みんなりゅーさま大好き!」
見たこともない世界だけど、竜さまが二人も前を飛んでくれたら、勇気りんりん。元気いっぱい。
騒がしい海や、働き者の竜さまが待ってる北へ――。
「いざー!」
――おぷぷぷぷ!
突き上げた腕の先で、お屑さまがぱたぱたはためいた。
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邸でのハッピーライフ編完結です。お付き合いいただきありがとうございました。
続編もまたお付き合いいただければ幸いです。




