29.出発はリズムに乗せて
菜園を通り抜ける。
いろんな形の葉っぱ、花。私より背が高いのも低いのもある。どれがどんな味か、全部知ってる。
「エーヴェ、古老の竜さまに会ってきますよ!」
――そうじゃ! 古老に会うのじゃ!
答えるみたいに、風で菜園の葉っぱや草が揺れた。
菜園を抜けた先、道なりに行けば、ジュスタの工房。
でも、今は右手の輝く船が目に飛び込んでくる。白い帆と、竜さまの帆。
白い骨でできた船と、同じくらいまばゆいお骨さま。
お泥さまの座のみんなが楽器を演奏してて、お骨さまは首を揺らしてる。お骨さまの頭できらっとするのは、ペロ。隣ではントゥが首をかしげてる。
「エーヴェちゃん! 早く早くー!」
両手を振ってるのは、ルピタだ。
「タターン!」
――おお、エーヴェとたくさんが来たのじゃ。
お骨さまが口をぱかっと開けた。
「はい! エーヴェ、来ました!」
――たくさんではないのじゃ! あぽぽぽぽ……。
ルピタと手を取ってくるくる踊る。踊りにつれて、お屑さまもはたはたした。
プラシドとドミティラが弦楽器を、ナシオとハスミンが竹琴を弾いてる。
「エーヴェちゃん、愉快に行っておいで」
プラシドとドミティラと手を叩く。
「いっぱい面白い物見つけて来なよ」
ハスミンとナシオとステップを踏む。
「エーヴェちゃん、気をつけてね!」
「タタンも気をつけてね! また元気で会います」
「うん、元気でまた会おうね!」
――元気で、また会うのじゃ!
もう一度、ルピタとくるくる回り、お屑さまもはたはたした。
回転がどんどん速くなって、するっと手が離れたら、誰かにがっしり受け止められた。
「おー? シスー!」
「行くぞー!」
システーナが、ぴょーんと一息に船の甲板へ運んでくれる。
「うっはー!」
体を離されると、頭がぐるんぐるんして甲板に寝そべった。
「だ……、大丈夫かい、エーヴェ?」
舵の近くにいたジュスタが声をかけてくれる。
「大丈夫です!」
ぐるぐるがおさまってえいやっと起き上がった。
「これをつけろ」
どこからともなく甲板に降り立ったニーノにハーネスを渡されて、慌てて体につけると船の端に寄る。
――出発じゃ!
――出発なのじゃ。
お屑さまの声にお骨さまが向きを変えて頭を甲板に寄せた。ペロとントゥが甲板に飛び降りてきて、舳先から船尾へと駆け回る。
まだ演奏してるお泥さまの座のみんなを見る。愉快なリズムがいっぱい。
ガイオが船の扉を閉め、はしごを外した。
「こっちもいいぞー!」
「おお、ガイオサ!」
手を振る。ガイオのくれた藁の輪もひらひら揺れる。
はしごを高木に立てかけたガイオが、ぶんぶん手を振った。
あ、スーヒがうろうろしてる。演奏で落ち着かないのかな?
ルピタと目が合って、わいわいと手を振った。
――では、行くか。
竜さまが船の上に舞い降りてきた。
「りゅーさまー!」
あんまり近いと目も開けてられないから、大分高い位置。青い空を背負い、白銀のたてがみが東からの光を受けてきらきらしてる。
「うっふっふー! りゅーさま、立派です!」
――まったく! 山の羽ばたきでぱたぱたするのじゃ!
ホバリングをしながら、竜さまはゆっくり降りてきた。
羽ばたきで音楽が消えちゃうから、お泥さまの座のみんなも手を止めてこっちを見上げてる。
スーヒが森を見て鳴いてるみたいだけど、声は聞こえない。
「飛び立つぞ。エーヴェ、ントゥ、ペロ。船内に入れ」
「おお、ントゥ、ペロ! 入りましょう!」
ニーノに命令されて、船内に駆け込む。
「帆の準備いーぞー!」
跳ね回ってたシステーナがジュスタに叫ぶ。
「竜さま、お願いします!」
そこまで耳に入れながら、階段を駆け下りた。
――ふむ? 今、何かが背骨を駆けていったのじゃ。
お骨さまの声がする。どうしたのかな?
振り返ったところで、甲板から何かが飛び込んできた。
「ほわー! 何ですか?」
大きな影が船内へと駆け込んでいく。ントゥとペロが追いかけていった。
「何? 何が入りましたか?」
しばらく眺めてると、ことっことっと気持ちいいリズムで何かが近づいてくる。
「なんと!」
軽やかに通り過ぎた。船の低い天井は、あんまり跳ねると頭を打ちそう。
「テーマイ! テーマイも一緒に行きますか!」
「イコは大きくなった。テーマイも来るそうだ」
ニーノが説明だけして、甲板への扉を閉じた。
「お! もう出発です! 窓に行きます」
テーマイが来て喜びのあまり、しばらくペロとントゥとテーマイで走り回ってたけど、船がゆらりとして、気がついた。
ルピタが見える側の窓に張りつく。
「タターン!」
聞こえるかな?
大きく手を振ると、ナシオが気がついてみんなに知らせてくれた。
ルピタが大きく手を振り返してくれる。私もできるだけ大きく手を振った。
船が揺れて、だんだん高くなっていく。竜さまが船を持ち上げてるんだ。
お泥さまの座のみんなもガイオも、だんだん小さくなっていく。森にはスーヒとイコが見える。
お骨さまは最初こっちを見上げてたけど、森の高い木によじ登って、ばたばたと走って飛びだした。
「きゃっ!」
「わ! びっくり!」
ントゥが高音で吠えてる。やっぱり、お骨さまが飛んで嬉しいのかな。
――泥にもよく伝えよ。また会おう。
竜さまの声が聞こえて、船は一気に加速した。
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