28.立派なガイオサ
「ペロ、大丈夫ですか?」
側で見てると、ペロは鉢を持ち上げ洞に向かう。でも、途中で止まった。先に進めないみたいで、左右にうろうろする。挙げ句に何もないところを登り始めた。
「ほわー壁がありますね」
「ふあーぁ、そーゆーことかー」
大あくび混じりの声にびっくりして振り返る。
「シス!」
「よーおちび、なんかすごい気配がしたから、竜さまが気になって目ぇ覚めちまった。りゅーさまー」
システーナはすたすた洞に入っていく。ペロは早足になったけど、見えない壁をはい回るだけで中には入れない。
……とっても気の毒です。
竜さまがシステーナに鼻先を寄せた。
――シス、心配要らぬ。夜も深い。おやすみ。
「はーい、竜さま。おやすみなさーい」
竜さまの胸元にどしんと抱きついてから、システーナは悠々と戻ってくる。
「りゅーさまー! エーヴェもおやすみなさい!」
走って胸に飛びつきに行った。生えそろったばかりの毛は、特別なめらかでふわふわしてる。
「では、私も戻ります、竜さま。おやすみなさい」
――うむ。エーヴェ、ニーノ、おやすみ。
竜さまに手を振って、洞を後にする。
入口を出ざまに、システーナがペロを回収した。
「おめーも寝るぞー」
無理にはがされたペロは鉢の中に戻っていって、しんと静まる。
「ペロ、明日出発です。寝て元気になります!」
一瞬顔を出して、なぜかペロは鉢の中に縮み込んでしまった。
さっとニーノが通り過ぎる。
「ガイオさん」
先に行ったのは、人影を見つけたからみたい。
「おめーも気になって起きたのかー?」
つかんだペロごとシステーナが手を振った。ガイオはいつも通り不機嫌そう。
「洞からどっと何かが伝わってきたが、無事なのか?」
「お騒がせしました。私が少し――」
「ニーノか! しばらくケンカしていないが、お前はやはり強いな!」
ほめられたニーノは、一瞬黙った。
「ある程度は」
うわ! 全然嬉しくなさそう。
「なぜ俺とケンカしなくなったのか!」
「ケンカは得意ではありません」
「ガイオサは、シスとはケンカしませんか?」
「シスはぴょんぴょん跳ねるばかりで腹が立つのだ!」
「よけるほうが面白ぇんだよ」
ケラケラ笑うシステーナにガイオは口をへの字にした。
わいわい話しながら邸へ戻る。ちょっと珍しい取り合わせ。
「ジュスタは起きなかったかー」
「あいつはたくさん働いていたのだ! ぐっすり寝ている」
「はい。ジュスタはよく頑張りました」
逆さまでもこぼれない水になってるペロを眺めてる間、大人たちが話してる。
「すげーよなージュスタは! 何もねーところからあーんな船ぇ作っちまうんだかんな」
「はい! そうです! ジュスタ、すごい!」
ジュスタのおかげで、明日から竜さまと一緒に大冒険。
「ジュスタだけではない、シスもニーノもすごいのだ。菜園も邸も立派だ」
したり顔のガイオにびっくりした。
「うわ! ガイオサ、えらい! みんなをほめてます!」
「何だと! 俺はいつもお前たちをほめているぞ!」
……そうかなー?
屋根にお骨さまが眠ってる邸が見えてきたところで、ニーノがガイオに顔を向けた。
「ガイオさん、きっとこの留守は長くなります。いろいろ伝えはしましたが、ガイオさん自身で決めて、行動することが増えるでしょう。難しいですが、任せます」
ガイオはなぜかふんぞり返った。
「それはお前もして来たことなのだ! 俺にもできる」
「――おお!」
そうです。ニーノ・パイオニア!
「私には竜さまがいました」
「あ、そうです」
竜さまは偉大。
「うむ、俺にはスーヒがいる。それに、邸にはお前たちの跡がたくさんある」
「あと?」
システーナがペロの鉢を頭にのせる。とても危険。
「お前たちが工夫した跡があるのだ。お前たちが帰ってくる頃には、俺も立派になっているぞ!」
「おおー! ガイオサ、すごい! 成長します!」
「そうだ! 立派な俺に会うのを楽しみに帰ってくるがいい!」
システーナと顔を見合わせて、一緒にけらけら笑う。
……立派なガイオサ、楽しみです!
**
「エーヴェ。ほら、起きて」
邸の前に戻って、わくわくしながら星を数えてたはずだけど、なぜか体を揺すられてる。
目を開けると、ジュスタがのぞき込んでる。
――やっと起きたのじゃ! 童はいぎたないのじゃ!
「あれ? 今、いつですか?」
「もう出発だ」
冒険用の服を渡して、ニーノはさっさと行ってしまう。
「なんと!」
見回すと、邸の前はすっかり片付いて、ジュスタとお屑さましかいない。
昨日、遅くまで起きてたせいで、起きられなかったみたい。
「もうみんな船のほうにいるからね。着替えておいで」
「はい!」
――わしが見ておくのじゃ! 童がまた眠っては大変なのじゃ! ぽはっ!
「もう寝ませんよ!」
ぶうとふくれつつ、ジュスタから腕輪を受け取る。
お屑さまにやいやい言われながら着替えて、脱いだ服をひとまとめにしてリュックに押しこむ。
慌てて走り出しかけて、邸を振り返った。
旅立ちにぴったりの青空に、オレンジシャーベットのテーブルマウンテンと、同じ色の邸が映えてる。
しばらく帰ってこない場所。
昨夜、ガイオが言ってた「跡」がふっと頭によみがえった。
私やみんなが暮らした跡がたくさんある。
「エーヴェ、また帰ってきますからね!」
大きな声で邸にあいさつする。
――ぽはっ! ヒトは進みたい方向に行けるのじゃ! 当たり前なのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
「そうなのです。エーヴェは進みたい方向に行けます!」
お屑さまと一緒にぴょんぴょんして、船のほうへ駆け出した。
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