24.しょんぼり揺れる羽
お泥さまの座の協力のおかげで、船の形はがらりと変わった。
船尾に二枚のヒレみたいな板がついて、地面に着いたときには船を支え、空中では向きを変えたり体勢を支えたりできるようになった。
作業を見てると、ドミティラとシステーナが高い所の作業や荷物の上げ下げをして、ナシオとジュスタが細かい加工、ハスミンとプラシドが組立てに走り回ってる。ここにいないニーノとガイオがみんなのご飯担当! でも、ニーノにはお骨さまの羽布を水に強くする仕事がある。ガイオには菜園とスーヒの世話。
「そうだ、ガイオさん、そろそろイモを掘る時期ですね」
今朝、ジュスタに言われて目を丸くしたガイオに、ルピタと一緒に手を挙げた。
「エーヴェ、手伝うよ!」
「私も手伝うよ!」
「よし、……よし! 今日はイモを掘るのだ! ついてこい」
「はい!」
イモはどちらかと言えばサトイモに似てる。でも、大きさが大違い。私の頭くらいある。小さくても両手で包み込まなきゃいけない。火を通すと少し粘りけが出るけど、サトイモほどじゃない。味はあっさりでバナナとよく合う。
「お泥さまの座にはありますか?」
「んー、似たようなのがあるけど、ピリッとするから食べられないよ」
ルピタが白い歯をむき出しに、いーっとする。この世界でも、イモには毒があるらしい。
「こんなに青々茂っているが、引き抜いてイモを掘るのだ」
ガイオが感慨深い顔。
最近はずっと菜園の仕事だったから、イモに愛着がわいたのかな。
「イモ、ありがとありがと」
サトイモみたいな強い葉っぱをなでて挨拶して、イモを掘り出した。地面が思ったより固くなってて、周りを掘ってからじゃないときれいに芋を掘り出せない。
お昼をはさんで掘り出した一山のイモを、今度はカゴに移して、それぞれ背負って沢に洗いに行く。
ガイオはいつもむっつりしてるけど、沢の途中でむしった葉っぱを唇にはさむと、ぶーっと音を鳴らした。
「おお! ガイオサ! どうやりました?」
「わー! この草、鳴るんだ!」
「口にはさんで強く息を吐け」
ガイオの大ざっぱな説明を受けて、ルピタとあれこれ試してみる。よだれでべとべとになった葉っぱを何度か取り替えて、そのうち、びーっと音が鳴った。葉がぷるぷる震えるのが唇に伝わってきて面白い。ルピタと、びーびー鳴らし合い、沢まで下っていった。
慣れてくると、芋を洗いながら言葉代わりにぶーびー鳴らした。ガイオとは話が合わないけど、ぶーびー鳴らすだけなら平和。なかなかいい遊びなのかも。
イモを洗い終えて、邸の前に敷いたゴザに並べてるところにニーノがやって来た。
「竜さまが目を開けられた」
「おお!」
夕陽には少し早いけど、洞に行っていいってことかな?
「貴様も来るか」
「行きます!」
語尾にかぶせるように返事して、ルピタを振り返る。ルピタも黒曜石の目をキラキラさせた。
「りゅーさまがー起きましたー!」
「お山さまー起きましたー!」
チョウチョみたいに、二人でステップを踏んだ。
「あ! ガイオサ、一緒に行きますか?」
「行くわけがなかろう!」
この間、外で待ってたのに、変なガイオです。
しみじみ見てたら、しっしっと手で払われた。
「むー……。ガイオサは大人です! 放っておきます!」
「行こう行こう!」
足を止めて待ってたニーノも、一緒に洞に向かう。
「シス! ジュスタ!」
「プラシド! ハスミン!」
作業場からきたみんなとも合流して、急ぎ足になる。
洞から出てるお骨さまの尻尾が見えたときは、まだ遠いけど、システーナと一緒にかけだした。
「りゅーさまー! お骨さまー! ――おひゃー!」
――エーヴェ、おひゃー?
お骨さまがこっちを見る。
洞に飛び込んだとき、思わず発した声が気になったみたい。お骨さまはなぜか洞の床に伏せ、尻尾を高く上げてゆらゆらさせてる。
……でも、でも!
「おひゃーですよ! りゅーさま、白い!」
金の目をぱっちり開けた竜さまが、ふわっと鼻息を上げた。
――うむ。白いのじゃ。まだ鱗が生えそろわぬ。
そっか! 光を反射して青く見えてたのはウロコがあったからなんだ!
「鱗がそろわずとも、問題ないのですか?」
後からきたニーノの声。
――鱗があるときよりは弱いが、大事ない。
「……なんか、竜さま、なんつーか……、なんか違ぇなー!」
システーナがその場でぴょんぴょん跳ねる。
今の竜さまは、白銀に輝くたてがみはあるけど、全身ツルツルで白くなってる。シロイルカみたい。しっぽの先の毛もなくて、大きさも一回りは小さい。そのせいか、若返った感じもする。
思い出すと、へなへなさんのときはたてがみがなかった。お屑さまが、竜さまのたてがみは力だって言ってたから、今はいつもの竜さまに戻ったってことかな?
「りゅーさま、触ると痛いですか?」
そーっと近づくと、竜さまが首を下げてくれる。
――皆が触る程度なら、何の変わりもない。
――骨はダメなのじゃ! 鱗が揃ってからにするのじゃ!
お屑さまの声が響く。お骨さまがしょぼしょぼと羽を揺らした。
――おひゃーなのじゃ。友は起きたが、遊べぬのじゃ。
「そりゃー、おひゃーだな」
システーナも繰り返す。
……おひゃーって何ですか!
「ん? あれ、ペロじゃない?」
ルピタが指さす。竜さまから二メートルくらい離れた位置をペロがこっちにのそのそ進んでくる。
「おお、ペロです」
――ペロにはまた熱くなってしまったようじゃ。今は爪もないゆえ、こうやって回っておるのであろう。
そのまま来るかと思ったら、ぴたっと止まって、のそのそ引き返していく。
「あれ」
「ニーノがいるから、こっちには来ねーよ」
システーナがあっけらかんと言い放つ。まだちゃんとニーノが怖いペロです。
「お山さま、触ってもいいですか?」
「お! エーヴェも触りたいです!」
ルピタと一緒に駆け寄って、首をなでる。
さらさらのすべすべで、でもあったかい。
「ふわー! 今までにない手ざわり!」
「あたしも、あたしも!」
システーナやジュスタもやってくる。ニーノも無言で来た。
「ちょっと竜さまみたいだ」
プラシドがふわーっと笑って言う。
お泥さまの座のみんなにもなでられて、竜さまは金の目を細めた。
――ぽはっ! 皆、白い山が珍しいのじゃ! ぽはっ!
お屑さまはぴこんぴこんして、こっちを眺めてる。
――おひゃーなのじゃ。
お骨さまが尻尾で地面を打ち、ントゥが腰椎の上を軽やかに跳ね回った。
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