20.隣の友
トマトソースみたいなのを包んだトウモロコシパンを、二人でもぐもぐ。ニーノが目の前でデザートの果物をむいてくれてる。
「タタン、質問する人がたくさんいますから、やっぱり手分けします」
「うん、そうだね。じゃあ、私がお山さまの座のみんなに質問して、エーヴェちゃんが竜さまの座のみんなに質問しよーよ」
「いいですね!」
――では、わしは童と行くのじゃ! 泥の座のほうがよく知らぬヒトが多いのじゃ!
お屑さまはいつも通り、ご飯を見てるだけでゆったりぴこんぴこんしてる。ルピタが慌てて、手をパタパタ振った。
「待って待って! 私もみんなの答えが知りたいから、後で教えて!」
「もちろんです! エーヴェもニーノやシスの答えが知りたいです」
ルピタに報告するからには、ちゃんとみんなの答えを覚えておかなければ。
みんなの答えを一覧にできたら楽しいのに。紙はあるけど文字がないから、こんなときはだいぶ不便。
「今、ニーノがいますから質問しましょう!」
むいた果物をそれぞれの皿に乗せたニーノは、ナイフと指を布でぬぐってる。無言。
「エーヴェちゃん、お互いに練習したらどうかな? ニーノさんには私が聞くよ!」
「おお、そうですね」
分担で考えると、ルピタのほうが人数が少ない。ニーノはルピタに任せたほうがよさそう。
「では、エーヴェちゃん! 当たり前の景色はどんな景色ですか?」
――うむ! 童の当たり前の景色じゃ!
お屑さまも調子をそろえる。
「うーんと、エーヴェは高い木がたくさんで、鳥が飛んで、虫が飛んで、カエルの声がしてる景色です。菜園とか工房とか邸とかりゅーさまの洞とかここ全部ですよ!」
もちろんそこに竜さまやニーノやジュスタがいるんだけど、まず浮かぶのは高い木の森、熱帯雨林。空が青くて、空気が潤ってる。空が深く青いから、竜さまが飛ぶととっても嬉しい。
――なんじゃ! わしも見たことがある景色なのじゃ!
当たり前の景色が特別なのは、お屑さまくらいだもん。
「ここだね! エーヴェちゃんはお山さまの座が好きなんだね」
「はい、そうです! タタンはどうですか?」
「私は竹林とー、竹の根っことー、その向こうに広がった沼地ー!」
……竹林を吹き抜けてゆく風みたい。
「うふふー! 素敵です!」
でも、ルピタには当たり前の景色。不思議。
「じゃあ、特別な景色は?」
どんな答えが来るのかな。わくわく。
「んー……」
ルピタが椅子の上にあぐらをかいてもじもじする。ひょいひょいと手を振られたので、顔を寄せた。
「私ね、変なんだけど、ロペが生まれたあと、急に前にいた世界のお父さんとかお母さんとか……特にきょうだい竜がすっごく懐かしくなっちゃったの!」
「……おお」
ロペが生まれたときだから、エステルとプラシドも病気でいつもと違ったのかな。相談できなかったのかも。
きょうだい竜のことをもっと聞いてみたいけど、ニーノがいるから聞きにくい。
「それでね、ノエミやフィトやロペの側にいるのが嫌になって、でも、それがますますさみしくて泳ぎに行ったんだ」
「はい」
ルピタが寂しくなったときに泳ぎに行ける場所があって、よかった。
「泳いでるうちにだんだん暗くなっていって、いつもなら帰るけど、そのときは真っ暗になってもまだ帰りたくなかったのね」
「はい」
「どんどん景色が見えなくなってくるんだけど、水に住むカエルや鳥の声がいーっぱい。水を動かさないように浮かんでると、水面に星が映るんだよ。頭の上のお星さまがすぐそばにあるの」
「おお!」
とても特別な気分だ。
「そのとき、背中の感触で水が動いてるのが分かったんだ。ゆったりだったから竜さまが来たんだなーって分かったの」
「おどろさま!」
「うん、竜さま!」
――それで、泥はどうしたのじゃ?
顔を近づけてなくても、お屑さまにはよく声が聞こえる。
「お話ししました。私が前の世界が懐かしくてさみしいって話したら、いいことってほめられたよ」
「ほう!」
――ぽはっ! 泥はきっと、ルピタにとって良いことと言ったのじゃ!
「うわ、さすがお屑さまですね! そうなの、前の世界が懐かしくてさみしいって言うのはそれだけ大好きなものがあったってことだからって。大好きなものがあって、それともうお別れしたから、懐かしくてさみしくなるって」
――とってもヒトなのじゃ! 側にないと、前に側にあったものが急に大切に感じるのじゃ! 愚かなのじゃ!
あれかな、失って初めて大切だと思うみたいなやつ? ……懐かしいってそういうのだっけ?
「竜さまが言うにはね、懐かしいのは別れたってこと。でも、お別れしたら、新しい大好きなものに会う準備ができたってことだから、いいことなんだって」
「ほわー!」
――む? そうなのかや? よく分からぬのじゃ!
ルピタがにーっと歯を見せて笑う。
「大好きなものに、もう一度出会う準備もできたってことなんだって」
「おお!」
――む? むむ? むー、泥もなかなか面白いことを言うのじゃ!
お屑さまが感心してる。
ルピタが身を乗り出した。
「それでね! 竜さまがちょっぴり水面の上に顔を出してくれたんだけど、真っ暗で全然分からないのね」
「そうですね、おどろさまはお顔が黒いです」
こんもりした影くらいには見えるかな?
「でもね、すごいんだよ! 竜さまが水にぬれてるから、なんと! お顔にお星さまが映ってたの!」
「おわー――! 素敵ですね!」
「素敵だよ!」
二人で拍手する。
「タタン、とても特別な景色ですね!」
「うん!」
――わしも星を映してみたいのじゃ!
うーん、お屑さまは小さいから難しそうだ。でも、星を映すお屑さまを想像すると、かっこいい。
「タタン、とてもいい話でした。エーヴェもさみしくなったら、また会う準備してると思いますね」
黒曜石の目がきらきらっと輝く。
「うん! 私もそうする! エーヴェちゃん、友よ!」
思わず、口がぽかんと開いた。
「わー! 友ー! タタン、友です!」
――ぽはっ! 山と骨の真似なのじゃ!
「そうですよ! ふっふっふ」
ルピタと笑って、二人でうぉほっほをした。
みんなの質問の答えは番外編にまとめたいと思います。話が進まない!
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