19.六つの質問
翌日も二人で遊んでいいので、一つの思いつきをルピタに話した。
――ぽはっ! 面白いのじゃ!
もちろん、お屑さまも一緒だ。
「面白そう! でも、どうやったらいいかな?」
「質問するのがいいと思います。どんな人なのか分かる質問をお屑さまとタタンと考えます」
「ほほーう」
――ほう、ほう。
つまり、ルピタはニーノが変だと思って、私はプラシドを変だと思うから、みんながどんな人か分かればいい。みんなに質問してみたらいいのです。
「同じ質問をしたら、みんな答えが違うから、きっと面白いですよ」
「でも、どんな質問をすればいいか分かんないね」
「おおぅ」
考えこむ二人の間で、お屑さまはゆったりぴこんぴこんしてる。
「そうだ! お屑さまはいろんな所に行きます。いろんな物に会います。きっとみんなから質問されます!」
――うむ! わしは皆から招かれるのじゃ! 問いかけられるのじゃ!
「どんな問いかけされますか、お屑さま」
――最も多いのはわしが何者か、なのじゃ!
「おお……」
――次はどこから来たのか、なのじゃ!
「うーむ。それは知ってるねぇ」
今ここにいるみんなは竜さまの付き人で、どこから来たのか分かってる。
「お屑さま、どんな質問したら、相手がどんな人か分かると思いますか?」
――簡単なのじゃ! 経験を尋ねるのじゃ!
「けいけんって何?」
「自分がやったこと全部のことですよ」
――見るもの聞くもの全て経験なのじゃ!
「けいけんを聞くと、どうしていいんですか?」
――何を珍しいと思うかは、何を経験したかによって違うのじゃ! 万物に特別の景色と当たり前の景色があるのじゃ!
おお、確かに。ルピタは大きな木が珍しいけど、私は広い水辺が珍しかった。住んでる場所や経験したことが違えば、価値観が変わる。
ルピタもふむふむと考えてる。
「じゃあ、お屑さまはどんな景色が当たり前ですか?」
――ぽはっ! ヒトには想像もできぬのじゃ! 九百九十九のわしが見る、九百九十九の景色がうわーんと流れるのじゃ! 気持ちを揃えれば一つを眺められ、全部を眺めても良いのじゃ!
ルピタと二人で感心する。
「すごいねー。全然想像できないや」
――当然なのじゃ! ヒトと竜とはまったく違うのじゃ!
全然違う世界を見てるのに、お屑さまの説明はとてもヒト向けだから、やっぱりお屑さまは偉大なのかもしれない。
「じゃあ、今まで見た中で特別な景色と、当たり前の景色を聞きます!」
――良い考えなのじゃ!
「そうだね! あとは、やって難しかったことと簡単だったことを聞いたらどうかな? これって、けいけんだよね」
「面白そうです! そうだ! 好きな食べ物も聞きたいです! エーヴェ、ラオーレ!」
――好きな竜も聞くのじゃ!
「そんなの選べませんよ!」
「どの竜さまもみんな好きですよ!」
――ぽはっ! 当然なのじゃ! ぽはっ! ぽはっ!
一つ浮かぶと次々浮かぶ。わいわいしながら、聞きたい質問をまとめた。
「あのね、エステルが言ってたんだけど、あんまりたくさん質問されるのはみんな好きじゃないんだよ! ちょっとうるさくなるんだって。だから、六つくらいにしよ!」
途中でルピタが言ったことを参考にして、二人の両手指に余るくらいになってた質問を六つにした。
最初に思いついた質問、今まで見た中で、特別な景色と当たり前の景色は残して、他に、得意なこと、苦手なこと、誇らしかったこと。どんなとき寂しいのか。
――なかなかよい問いかけなのじゃ! 皆に聞いて回るのじゃ!
「はい!」
「貴様ら、昼だ」
二人で手分けしようかと思ったけど、ちょうどニーノが来たので、ルピタと目を見交わす。
「ニーノ、質問です!」
「なんだ」
「六つ質問があるんです」
冷たく見下ろされたので、どうして質問するのか説明した。
「そうか」
「じゃ、ニーノ、質問します!」
「待て」
「なんと」
気勢をそがれて思わず頰がふくれた。
「質問するのはいいが、貴様らも同じ質問に答えろ」
「え? エーヴェたちも?」
ルピタも首をかしげる。
「貴様らが私を理解するなら、私も貴様らを理解すべきだ」
「……どうゆうこと?」
お屑さまがぽはぽは笑う。
――ぽはっ! ニーノはケチなのじゃ! 一つ渡すから一つ返せということなのじゃ! ぽはっ! とてもヒトなのじゃ!
……そうか! 聞くことばかり考えてたけど、同じやり方で、私のこともみんなに話せるってことか。
「私たち、まだ子どもだけど、ニーノさん、質問したいんですか?」
「貴様も私と違う一個の他者だ。生きている時間で軽んじることはない」
ルピタはほわーっとなってる。
「これがニーノですよ、タタン」
「なるほど! 分かんないけど、ニーノだね!」
お屑さまはいつも通り、ぴこんぴこんしてる。
「だが、質問よりも昼食だ。来い」
ニーノがくるっと背を向けるので、「お昼!」とはしゃぎながらルピタと追いかけた。
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