17.眠る竜さま
翌日から、お泥さまの座のみんなはジュスタと船の修理に入る。朝ごはんの後でニーノに声をかけられた。水をあげてたペロがすさっと離れたから、ニーノが来るのはすぐに分かる。
「ついてやる大人がいない。鍛錬は休んで、貴様はルピタと遊んでいろ」
「え! 鍛錬休み!」
「エーヴェちゃんと遊んでていいの?」
逃げたペロを不思議そうに見てたルピタが、ぱっと顔を上げる。
「竜さまが眠っていらっしゃるから、邸から離れるな」
「洞の近くはいいですか」
「許す」
「許す!」
ルピタがびっくり眼で復唱する。
「念のため、お屑さまかお骨さまにご一緒していただけ」
「分かった! 聞いてみます!」
ニーノが去ったので、ペロが戻ってくるかなと待ってみたけど、戻らないのでルピタと一緒に邸を出発した。
「ニーノさんって変だね、エーヴェちゃん」
「お? 変ですか」
お骨さまは姿が見えないので、お屑さまを借りにシステーナのところに行く。
「エーヴェちゃんに『許す』だって! 怖くて、変ー!」
確かに、ニーノはいつも命令形。
「はい。ニーノはとってもニーノです」
「プラシドは優しくてやわやわしてるけど、ニーノさんは外から分かんないね」
思わず、ぶふっと笑ってしまう。
「エーヴェにはプラシドのほうが変ですよ! 最初会ったときと、全然違います! うー――ん、きっとエーヴェはタタンよりニーノのことを知ってますから、ニーノがニーノなのはあんまり変じゃないです」
「ほほー、私はエーヴェちゃんよりプラシドを知ってるから、プラシドがプラシドなのは変じゃないのね」
ふむ、なるほど。じゃあ、もっとプラシドとお話しすればいいのかな。
「あ、シスさんみーっけ!」
私が菜園で作業してるガイオを見つけたタイミングで、ルピタはシステーナを見つける。見上げる間もなく、目の前に降り立った。
「ニーノがおちびたちにお屑さま貸せってさ」
――うむ! わしが童どもを教え導いてやるのじゃ!
「わー! ありがとうございます! お屑さま!」
ルピタがにこにこしてシステーナから腕輪を受け取る。
「あたしはジュスタと船のところにいっから」
「シス、お骨さま見ましたか?」
――骨は山のところなのじゃ!
「おお!」
「さっすがお屑さま。竜さまの場所は竜さまが分かんだなー!」
からっと笑って、システーナはぴょーんと跳んで行ってしまった。
お屑さまが加わって、わいわいしながら洞への道を登る。
「お山さまの座は坂道がいっぱいだねー」
――うむ! 泥の座は平ぺったいのじゃ。泥の顎のようなのじゃ。
たぶんルピタも、お泥さまの顎の形を思い出しそうとして黙る。
「エーヴェが前に会ったお九頭さまは頭がなめらかでしたよ」
「うん、お屑さま、なめらか」
ルピタがお屑さまのお腹をなでて、目を輝かせてる。
「平ぺったいのはお屑さまですね」
――ぽ! 確かにわしのほうがなめらかで平ぺったいのじゃ!
お屑さまはご機嫌だ。
「あ、お骨さまのしっぽが見えます!」
洞の入り口から、白く輝く骨の尾がはみ出てゆらゆらしてる。
洞に駆けこむと、お骨さまは竜さまのたてがみの上に首を差しかけてゆったりしてる。肩の骨の上に丸まったントゥが乗っかってた。
「お骨さまー! おはよーございます!」
――おはようなのじゃ。
「何してるんですか?」
お骨さまは竜さまの首の上に首を乗せずに浮かせてる。
――友のたてがみが揺れるのじゃ。こそばゆいのじゃ。
竜さまはいつもと違って体を伸ばしたまま眠ってる。じっと目蓋を閉じて動かないけど、たてがみだけはふわり、ふわりと動いてる。
――たてがみは山の力のうごめきなのじゃ! 眠っていても動くのじゃ!
「風で動いてるんじゃないんですか?」
――もちろん、風でも動くのじゃ!
「ほうー!」
じゃあ、力のうごめきなのか風で揺れてるのか分からない。
――こそばゆいのじゃ。
楽しそうなお骨さまを眺めてると、竜さまの身体の上で何かがきらっと光った。
「エーヴェちゃん、あれ、ペロじゃない?」
「お! そーです! ペロー!」
ペロは竜さまの背中の上をのんびり動いてる。
――なんと! 水玉が山に登っておるのじゃ! 童、山に触ってみるのじゃ!
お屑さまに急かされて、竜さまに駆け寄った。触ってみると、しばらくしてぬるく熱が伝わってくる。
「おわ! ぬるい!」
――おお! やはり体温が下がったのじゃ! 水玉が山に登れるのじゃ!
「なになにー?」
ルピタに、ペロは竜さまに登れなくて、爪に引っついてたことを話す。
「たぶん、ペロは今、初めてりゅーさまの上にいます!」
「おー! ペロ、よかったねー」
ペロはのそのそ歩いて、ときどきキラッとする。
――面白いのじゃ! 山が眠ると体温が下がるのじゃな! 初めて見たのじゃ!
お屑さまは竜さまに、ぴこんぺしっぴこんぺしっと体当たりして、温度を確かめようとしてる。
「いつもはもっとあったかいですよ!」
「そうだね! 竜さまの座で登ったとき、あったかかったね。……ふーむ、確かにちょっと冷たいかな?」
ルピタと話す間にも、竜さまの体温はどんどん下がっていく。
「大丈夫ですか? りゅーさま冷たくなってます!」
――友は大丈夫なのじゃ。わしもいつも冷たいのじゃ。
――阿呆なのじゃ! いつも冷たければいつも通りじゃが、今だけ冷たくなるから珍しいのじゃ。骨とは関係ないのじゃ!
たてがみを満喫してるお骨さまの声に、お屑さまがぷんぷん応える。
――これは力を分けるのと関係あるのじゃ! 何が起こるか分からぬゆえ、楽しみなのじゃ!
お屑さまが愉快そうなので、心配しかけた気持ちがちょっと安心に戻った。
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