16．心配しないように心配する
空から夕陽の赤色が消えたので、立ち上がる。
「りゅーさま、また明日ー！」
――エーヴェ、待つのじゃ。
「お？ はい！」
手を振ってたら止められたので、竜さまの前で姿勢を正す。
――わしは明日から少し眠る。声を交わすことが数日できぬが、案ずるでない。
「ほえ！ 話せませんか？」
――むむ？ 友と話せぬのか？
お骨さまもびっくりして洞に首を突っ込んでくる。
――うむ。長旅の準備が必要であろう。
びっくりして、しばらく頭が真っ白になった。
「りゅーさま、ちゃんと起きますか？」
――うむ。もちろんである。
――わしも友と一緒に眠るのじゃ。
お骨さまは頭をからから左右に振る。
――友も眠ってよいが、わしはしばらく起きぬ。友はわしより先に目覚めるであろう。
――一緒に眠れぬのか？
――共に眠れても、共に起きられるわけではない。
お骨さまは首をかしげた。
――おお！ たしかにそうなのじゃ。
なんだか話がかみ合わないけど、竜さまが眠っちゃうのは確か。
「ニーノも知ってますか？」
――知っておる。
……じゃあ、大丈夫なのかも？
「分かりました！ りゅーさまが起きるの待ちます！」
ふわっと鼻息が当たって、ちょっと安心。にこにこ手を振って洞を出た。
「エーヴェちゃん、どうしたの？」
もう洞の外に出てたルピタが側に寄ってくる。
「りゅーさまとお話ししました」
「もう戻っていいの？」
「はい、きっと夕ご飯です！」
みんなで星明かりの道を邸に戻った。
夕ご飯は、トウモロコシパンに甘辛味付けの豆ソースを巻いて食べる。おいしい食事はあっという間。食べ終わると、眠気がやってくる。お泥さまの座のみんなもそんな感じ。鍛錬でいろんなところに行ったもんね。
「また明日ー！」
食堂の前で別れてから、部屋に行こうとしてやっぱり戻った。
台所では、ジュスタとニーノが後片付けをしてる。ガイオは姿が見えない。ご飯を食べて、どこかに行ったみたい。システーナがご機嫌に歌を歌ってて、お屑さまが腕輪の先でふわーっと漂ってる。
「――ん？ おちび、どーしたー？」
「ニーノに質問なのです」
ささっと台所に抜ける。システーナの声が聞こえてたのか、ニーノが迎えてくれた。
「どうした」
「ニーノ、りゅーさま、しばらく話せません。知ってますか？」
「え？」
ジュスタはびっくりするけど、ニーノはただ頷く。
「竜さまから聞いたのか」
「そうです！」
「そうか。竜さまは貴様がうろたえることを見越してお話しくださったのだろう。感謝しろ」
「はい！ りゅーさまは偉大！」
「いや、何の話ですか？」
皿を棚に戻しながら、ジュスタが眉を下げてこっちを見た。
「竜さまは力を分けるために、少し時間がかかる」
「何だー？ 力を分ける？」
――何を話しておるのじゃ！
システーナとお屑さまもやってくる。
ニーノはきちんとお屑さまに向き合った。
「お屑さま、私どもは長く旅をいたします。竜さまの庇護がなくなれば座が荒れる。竜さまは力を分けて、この地に残して下さるのです」
――なるほど、理にかなっておるのじゃ！
「え？ どうやりますか？」
――わしは知らぬぞ！ 山のやり方なのじゃ！
あれ？ お屑さまも知らないのか。
「竜さまそれぞれ、できることがちげーかんな」
――その通りなのじゃ！ 山は、わしのように木の葉の体を持てぬのじゃ！ ぽはっ！
お屑さまはすぐに得意になる。
「え、それで竜さまはどうなるんですか？」
「そーです、そーです！」
ジュスタの心配に乗っかって、叫んだ。
「竜さまが数日話せないとおっしゃられたなら、そうなのだろう。エレメントと同様だ」
ほー、飛ぶ力のエレメントみたいに、庇護のエレメントを作るのかな？
ジュスタが腕を組んで考えこむ。
「じゃあ……、竜さまはすこし長く眠る、ということですか？」
「そうだな」
「寂しいです！」
「そうだな」
「まあ、旅に出るから仕方ねーよ」
「そうだ」
むー、仕方ない。もっと話したかったけど、きっと竜さまはもう眠ってしまってる。それに、竜さまが心配するなと言ったから、心配しないようにしなきゃ！
……でも、やっぱり気になるから、明日から様子を見に行こう。
「――む？ なぜ、お前らは集まってるのだ？ 早く寝ろ！」
「あ、ガイオサ！ ……スーヒ！」
散歩から帰ってきたみたいな顔で二人が食堂に入ってきた。
――ガイオは口うるさいのじゃ！ 己が早く寝ればよいのじゃ！
「なんだ、薄おしゃべりめ！ おしゃべりでうるさいのはお前のほうだ！」
――ぽ！ 無礼者め！ 吹き飛ばすのじゃ！
「はいはい、私はもう寝るぜー。明日から船の修理だろー」
大あくびするシステーナの腕でお屑さまはぴこんぴこんしてたけど、ガイオとお互いにそっぽを向いてケンカにはならなかった。
よしよし。
「エーヴェ、貴様も早く寝ろ」
「はーい。ジュスタ、ニーノおやすみー！」
あいさつしたところで大きなあくびが出た。
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