12.ただいまのルーティン
システーナが船をぴょんと飛び降りて、船の側面に当てる器具を動かす。竜さまが頭で船を押して、水平に船が固定された。
――うぉっほー! 友の座なのじゃ。戻ったのじゃーー。
お骨さまが滑空して、森の上をかすめ、そのままばたばた走り始める。
――友、大事ないか?
滑空の勢いのまま森の木を飛び移るお骨さまを、首を巡らせて眺めつつ竜さまが聞く。
――うむ! 大事ないのじゃ。
ようやく勢いが止まったお骨さまが、羽をバタバタ動かしながら方向転換してる。
「ここがお山さまの座……」
「わーすごい。木が増えたねー」
縄をまとめながら、プラシドが辺りを見回す。
「そうか、プラシドは来たことあります」
「変わった?」
ルピタが首をかしげると、プラシドはびっくり眼で大きく頷く。
「変わったよー! もっと岩や地面が見えて、木も細くてまばらだったなぁ」
「へー」
プラシドが来たのはいつのことかな。私が来るよりずっと前なのは間違いない。
うーん、ちょっと複雑。邸のことはいっぱい知ってるはずなのに、プラシドが知ってる景色は知らない。
「エーヴェ、案内するよ!」
気を取り直して宣言する。
「そうだね、まずは積み荷を下ろしちゃおう」
「水や食材は後でいい。楽器だけ持って邸へ来い」
いいタイミングで甲板に顔を出したニーノが、言い放つとさっと船内に戻る。
「ニーノ、早い」
「……まぁ、そうか。暗くなる前に邸に行ったほうがいいよね。じゃあ、エーヴェちゃんにお願いしよう」
「よろしくね、エーヴェ。俺はもう少し船の始末をしてから行くよ」
ジュスタに言われて胸をそらせる。
「はい! お任せです!」
――わしは洞に戻るぞ。
竜さまがほわぁっとあくびをして、大きく羽ばたくと空に舞う。
――おお、友が飛んでゆくのじゃ。……む? ントゥなのじゃ。
チガヤの原っぱに戻ったお骨さまはバタバタ飛ぼうとしたけど、走ってきたントゥに気がついて飛ぶのをやめる。ントゥが登ってくるのを見届けると、わーっと走り始めた。
――ントゥ、友の洞に行くのじゃー。
走るお骨さまの頭の上で、ントゥは上手にぴょんぴょん跳ねてる。
お泥さまの座のみんなを案内して、まずは藁のベッドの層に寄る。みんなの荷物――着替えや楽器を取ってから、船を出た。スーヒは姿が見えないけど、ガイオが世話を焼くはず。地面に降りて振り返った船は、ドックに入ったみたいに木の枠で固定されてる。
「すごいな、こんな風にしてるのか」
ナシオやハスミンがしげしげ見てる。
「はいはい! みんなこっちですよ!」
「みんな、エーヴェちゃんについて来てー!」
ルピタと二人で呼ぶと、ドミティラがにやにやする。
「はーい、ついて行きますよー」
目印にチガヤを一本折って、掲げて歩く。
ドミティラが弦をはじいて、ナシオが太鼓で調子を取ってくれるから、お祭りみたい。
「右に行くと工房、左のほうが邸に近いです」
「工房? ジュスタの?」
ハスミンがすぐに反応する。
「ニーノが作ったのや竜さまの鱗とたてがみの倉庫もありますよ。でも、今はこっちです」
「はーい」
太鼓が元気よく鳴ったので、またみんな歩き出す。
「ここが菜園です。ふつうはいない草がだいぶ生えました」
「あー、これがガイオさんが言ってたやつだね」
「はじめまして、ルピタだよ!」
「俺、プラシドー」
数日離れただけで、いろんな草が入り混じって込み入った菜園で、お泥さまの座のみんなが口々にあいさつする。音楽付きだから、植物たちもびっくりしてるかも。
のんびり菜園を案内して石のくぐり戸を抜けたところで、遠くに邸の姿が見えた。
「え、あれ、何?」
ルピタが伸びあがって、邸を指す。
「あれが邸? 思ったより大きい!」
「そうです。空から見ると何でも小さいよ」
「高さは工房と大体おんなじだけど幅があるね」
ハスミンも小手をかざして、邸を眺める。
「石でできてる?」
太鼓をたたきながら、ナシオが首をかしげる。
「うわー! すごーい、こんなの初めて見たよー!」
「え、前来たとき、なかったの?」
「なかった、なかったー! いつ作ったのー?」
ドミティラと話してたプラシドがこっちを見る。
「えーっと、シスが来てから石を掘ってくるようになって、邸が石造りになりました」
「へー、シスが。すっごいなー!」
ドミティラが感心してて、ちょっと嬉しい。
「そうです、シスはすごいですよ!」
「あれ? 邸の前に、ニーノさんがいるね。何やってるんだろ?」
ルピタが目を細めてるので、私も隣で目を細める。
大きな鍋と火が見える。
……おや? もしかして。
風に乗って、ふわっと鼻に匂いが触れた。
「おわー! お風呂ですよ!」
「お風呂?」
チガヤを振り回して走る。
手伝わなきゃ!
「わ! なんか、変な匂いする!」
後ろから走ってくるルピタが鼻の頭にしわを寄せてる。
「うっふっふー! ニーノのお風呂ですよ! よかったねー!」
「え、何々ー? なんで走るのー?」
プラシドたちも慌てて走ってくる。
「――貴様ら、何をやっている」
息せき切って邸の前にたどり着いたみんなを、ニーノが冷たい目で見る。
腕まくりして、ニーノは風呂桶にお湯を注いでた。
「えー、エーヴェちゃんが走ったから」
「お風呂! 手伝います!」
チガヤを振って宣言する。
興味津々なみんなの視線を浴びながら、ニーノとお風呂を準備する。薬草の香りたっぷりのお湯ができるにつれ、みんなの目の輝きが消えていった。
「何これ、どうすんの?」
「みんな、これに桶に入ります。すると、体がすっきり!」
「えー――?」
む? 信用されない。
「風呂桶の数に限りがある。交替で頭までつかれ」
「はい!」
私以外は、しぶしぶ風呂桶に近寄る。
「本当にこんなくさいのに入って大丈夫なの、エーヴェちゃん」
「大丈夫ですよ。すっきり!」
交替でお風呂に入ったルピタは、くさい、汚いと嫌がってたけど、外に出てびっくりする。
「なんか軽いね! とっても跳べそう!」
たたんたん、とその場でステップを踏む。
「そうです。ニーノはすごいよ!」
しばらくすると、他の風呂桶からも感心する声が聞こえてきた。
「ニーノちゃん、すごい―! 前来たときはこんなのなかったじゃーん!」
「帰りに持たせる。お泥さまの座に着いたときもやれ」
「わー! ありがとー!」
おお、すごい。邸の文化がお泥さまの座に伝わる瞬間です。
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