11.歓迎のポーズ
操作する人を入れ替えながら、船の旅は続く。竜さまとお骨さまは船の近くを飛んでることもあれば、空の高いところや低いところを舞ってることもある。お骨さまが雲に突っ込んで羽の布が重くなったときは、竜さまがあったかい息で乾かしてあげたみたい。
竜さまドライヤー、ここでも活躍です。
ントゥ、スーヒ、ペロは船の操作と関係ないから、船内を走り回ったり気ままに寝たりしてる。でもペロは、壁も天井も歩けるから、思いがけない所で会ってびっくり。床の板の隙間を抜けて、下の層に落ちられるみたい。さすが水玉。でも、狭い隙間を通るより階段をぽてぽて降りるほうが速いから、ペロも階段を上り下りしてる。隙間を抜けると、鉢を置いてかなきゃいけないのが嫌なのかも。
ルピタと私はントゥたちに混ざることもあれば、船の操作を手伝うこともある。甲板は風がびょうびょう行き過ぎて楽しいけど、動くのも話すのも大変だから長くはいられない。大人はどうやらテレパシーを使ってやり取りしてるみたい。竜さまが近くにいれば、座が違ってもテレパシーできるってことらしい。
――だいたい、山がおれば問題ないのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんしながら教えてくれた。お屑さまは腕輪にくっついてるから、たいてい甲板でぱたぱたしてる。自分で飛んでるわけじゃないけど、機嫌がいい。やっぱり竜さまはみんな飛ぶのが好きなのかな?
あっちに走ってこっちに走って、竜さまたちを見物して、船の中ならではの濃い味付けのご飯を食べて、ちょっぴりの水で体をきれいにして――。
その繰り返しで二日後のお昼には、見慣れた風景が見えてきた。
舳先の向こうの地平線に大きな木の影が見える
「エーヴェちゃん、なんか、もこもこしてるね。立派なコケみたいだね!」
ルピタの勘違いに、にんまり。
「ふっふっふ、あれは木ですよ! りゅーさまの座の端はとっても大きい木が生えてます」
「おっきい木?」
お泥さまの座にも木はあるけど、竜さまの座に比べたら低い木ばっかりだ。
「竜さまよりも背が高い木ですよ! 木以外も大きいです。この船の材料もそこから少しもらいました。タタン、帰り道に見てきっとびっくりします!」
「木以外も大きい? お花とか?」
うーん、残念ながら、花が咲いてるのは見たことない。
「おっきいムカデがいますよ」
「げー、ムカデ!」
「でも、面白いものもたくさんです。お泥さまの座のみんな、気を付けて楽しみます」
「ふふっ、分かったー」
竜の座の端の高い森を越えて、とうとう竜の座だ。
眼下が緑の木々で染まる。
ルピタはぽかんと口を開けて森に見入ってる。
「全然水が見えないよ! 木がぎゅうぎゅう押し合ってる」
「森です! お泥さまの座でも、森ありますか?」
ルピタがアッティカを取ってきたのは、森からじゃなかったっけ?
「木はあるけど、もっとゆったりしてるよ。沼があるから」
「そっかー」
竜の座の木はみんな背が高いから、近くに行ったらルピタはもっと驚くかも。ちょっとワクワクしてきた。
船の下をお骨さまが通り過ぎて、張りついてる窓からちょうど見える位置に来てくれた。
「お骨さまー!」
二人で手を振る。お骨さまからは見えてないかもしれないけど、関係ない。
「わ!」
後ろから音もなく走ってきたントゥが、ぶつかるような勢いで窓に足をかけて外を眺める。口をしっかり閉じて、お骨さまを見てるからとっても真面目な顔。しっぽだけがゆわんゆわんしてる。
「タタン、そろそろ邸の近くです! 甲板に行ってみましょう!」
着陸の準備を見るために、二人で甲板に上がった。
「あ、見に来たんだね」
舵をにぎってるジュスタが、歯を見せて笑う。
着陸のとき竜さまが側に来るから見においでと、誘ってくれたのはジュスタ。砂漠や水面と違って、船が地面に突っ込まないから、舵取りはあまり緊張しないみたい。
「竜さまも、いいかな?」
ジュスタの視線を追うと、高いところで竜さまが悠々と羽を広げてる。
一つうなずいて、ジュスタが左腕をぐるぐる回した。
左舷と右舷にいたナシオとプラシドが帆の縄を操って帆がしぼみ、船の速度が下がった。ジュスタが舵を押し込み、システーナが甲板を走る。船の両脇に突き出た帆柱がきしみながら角度を変え、竜さまが爪をかける位置がよく分かるようになった。
甲板の大人が竜さまに一斉に手を振るので、ルピタと私も一緒に手を振る。
頭をことっと動かした竜さまが、羽をすぼめてみるみる滑り降りてきた。
「おおー! りゅーさまのお腹―!」
かなり近い。影になってるけど白い毛におおわれたお腹がよく見える。
「竜さまは真っ赤なのに違うねー」
「違いますね」
お泥さまは鱗もないから、全然違う。
さらに近づく竜さまを、ルピタとわくわく見つめる。
竜さまは船の真上に来ると、しばらく船と合わせて飛ぶ。やがて少し後ろに移動し、そのままするりと船に近寄って引っ掛かりに爪をかけた。
一回ぐらっとしただけで、船は竜さまに運んでもらう形に変わる。
「りゅーさま、とってもお上手です!」
お弁当をひったくるトンビみたいに鮮やか!
――うむ。このまま邸の近くに下ろせばよいのじゃな。
「お願いします、竜さま」
ジュスタは気楽な表情になって、システーナやナシオたちが帆をたたみ始める。
「エーヴェたちも何か手伝いますか?」
「大丈夫だよ。それより、舳先に行ってごらん。もう竜さまの洞は見えてるんじゃないかな」
「ほら?」
首をかしげたルピタを手招いて舳先に走る。
「おおー! 見えます!」
「わ! すごい、山が夕陽色だ!」
オレンジシャーベットのテーブルマウンテンと竜さまの洞が見える。そこから下った森の境界を指さした。
「タタン、あそこに邸がありますよ」
「エーヴェちゃんのお家?」
「そうです! エーヴェとニーノとジュスタとシステーナとガイオサとペロとスーヒとントゥのお家!」
ぐいぐい近づいて、洞も洞へ続く道も邸も菜園もはっきりする。一つ一つを指さしてルピタに説明した。
竜さまは徐々に高度を下げ、チガヤの原っぱに船をどしんと下ろしてくれる。砂漠や水面に降りたときよりずっと安全。
止まった船の甲板で、ルピタが空気の匂いをかいだ。
「んんー! 空気が違うよ! いろんなにおいが混ざってる!」
私も匂いをかいでみる。
うーん、よく分からない。まぁ、いいや。
「タタン、いらっしゃいませ! りゅーさまの座なのです!」
両手を上げて歓迎のポーズをした。
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