10.まやかしと本物
朝から素晴らしいことに会った。
「エーヴェはーりゅーさまがーだーいすきー! そしてーお骨さまもーだーーいすきーーー!」
ニーノに連れられて、ハッピーでふわふわしながら船に戻り、干し野菜の炒め物をご飯に乗せて食べる。お泥さまの座の調味料のおかげで味噌炒めみたいな味わい。
「エーヴェちゃん、ご機嫌」
「うむ! そうなのです! エーヴェ、竜さまとお骨さまが大好きなのです」
「私も、私もー!」
ルピタがニコニコしながらご飯を口に運ぶ。向こうでぴこんぴこんしてるお屑さまが目に入り、はっとした。
「お屑さまとおどろさまもだーいすきですよー!」
「もちろん、私もだよ!」
――なんじゃ? 呼んだかや?
体ごと首を伸ばしたお屑さまにシステーナが笑う。
「おちびたちがお屑さま大好きだってよー」
――ぽ! ふむ! 当然なのじゃ! もっと好きになると良いのじゃ! ぽはっ! ぽはっ!
ぴこんぴこんのカーブがゆるやかだから、嬉しいのかも?
「明日には邸に着くが、それまでは飛び続ける。準備はいいか?」
ニーノに賛同しかけて、周りを見た。
「スーヒとントゥ、大丈夫ですか?」
「ントゥはお骨さまが言やぁ、こっちに戻っだろ」
確かにシステーナの言う通り。一方、スーヒの行方が分かりそうなガイオは、まだいびきをかいてる。
「エーヴェ、探してくるね」
「私も行ってくるね!」
大人たちに船の準備を任せて、ルピタと外に出た。
「スーヒはきっと穴の中です」
穴掘りでできた砂の山を探して、あちらこちらを向く。
「むー、たくさん掘り返した跡があります」
「エーヴェちゃん! あそこ!」
唸ってたら、ルピタが指さして駆け出す。今まさに、砂が掘り上げられてる。
「スーヒ! 船に乗りますよ!」
声をかけると砂の滝がとまる。砂にはいつくばって中を覗きこむけど、暗くて全然見えない。
「スーヒ、もう飛んでいっちゃうよ」
「むー、藁を持ってくればよかったです」
まさか穴に引きこもるとは。
「どうする? 入ってみる?」
「そうですね。エーヴェが入りますから、声をかけるか足をバタバタしたら引っ張ってください」
力強くうなずくルピタとしっかり目を見交わして、暗い穴の中に潜りこんだ。スーヒが行き来できる穴なので、案外ゆったりしてる。スーヒと砂のにおいがいっぱい。そして、真っ暗。
「スーヒ! 早く外に出ますよー!」
まだお腹の辺りまでしか入ってないけど、ものすごく地下深くにもぐった感じがする。
この砂漠は地面がしっかりしてる。スーヒが中に入ってるから、いきなり天井が落ちてきて生き埋めになることはない、はず。
「スーヒ、どこー?」
伸ばした手が固い毛並みに触れる。
「ぴゃ!」
「ぶはっ!」
スーヒが後足を動かして砂が舞い上がり、目と口に入る。思わず、足をバタバタして、ルピタに思いっきり引っ張り出された。
「ぺっ! ぺっ! 大変なことです!」
「無理に出そうとしてもだめだね。藁持ってくるよ!」
ルピタがさっと駆け出して行った。
「まったく! スーヒ砂漠に一人だったら、生きてけませんよ!」
砂を払ってから、穴の入り口をぺしぺしたたく。
動物と心が通うなんて、まやかしです。
「エーヴェちゃんー!」
思ったより早く、ルピタが戻ってくる。見ると、ニーノが一緒。
「スーヒがこもっているのは、その穴か」
「そうですよ、ニーノ! 厳しく言います!」
両手を上げて主張した。ニーノは膝をついて、穴をのぞき込む。
しばらくルピタと眺めてると、スーヒがとことこ出てきた。しかも、船のほうに勝手に向かっていく。
「なんとー!」
「うわー! ニーノさん、すごーい!」
ルピタは拍手したけど、私は地団駄踏んだ。
スーヒのもたもたで予定より遅れたけど、竜さまの力を借りて砂漠を出発した。
お骨さまは何度も旋回を繰り返して、ゆっくりゆっくり砂漠を離れる。竜さまにつかんでもらった船は、速度が十分になったら帆の向きを変えて、放してもらう。お泥さまの座のみんな、二回目にしてもうコツをつかんだみたい。ジュスタやシステーナが指示しなくても、甲板を走り回って船を飛ばしてる。
私とルピタはントゥと一緒に窓に張りついて、遠く小さくなる砂漠の灌木や草を見つめた。
「砂漠、面白かったねー!」
改めて見た日焼けした顔で、黒曜石の目がきらきら光ってる。
「帰り道、タタンは歩きます。がんばって!」
「うわ、そうだった!」
ルピタは鼻の頭にしわを寄せたけど、すぐににっこりする。
「歩く旅も楽しみ。次にエーヴェちゃんに会うときにまたいっぱい話せるね!」
「うん! いっぱい話します!」
ントゥがぱっと身をひるがえして、反対側の窓に走った。
「ントゥは本当にお骨さま大好きです」
「人間以外も竜さまが好きになるのって、不思議だね」
言われてみれば、確かに。でも、竜さまの魅力が人間以外にも感じられるとしたら、素晴らしいことだ。
「やっぱり、エーヴェ、ここに来て幸せなのです」
「エーヴェちゃんが前いた世界には竜はいたの?」
「いませんでした! でも、みんな竜を知ってます」
ルピタが首をかしげる。
「いないのに、知ってるの?」
「そうですよ! 竜さまは偉大なので、目の前にいなくてもみんないるって信じてます!」
「あっははは! 面白いね!」
ニーノには怒られるけど、やっぱり前の世界の話で分かるようになることもある。
「もうすぐ、お山さまの座だね!」
「はい。タタン、たくさん遊びましょう!」
いつもの場所に、竜さまと友達を招いて遊ぶ。やっぱりとってもハッピーだ。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




