8.いつもと違ういつもの音
砂を蹴立てて船が砂漠に降り立った。
――砂漠じゃ!
一足先に降り立ったお骨さまは、大はしゃぎで砂の上を転げ回る。羽布で受ける風も上手に使って、まるで巨大タンブルウィード。ントゥは扉が開くのを待ちきれずに、甲板から船の側面を駆け下りて、お骨さまのもとへ向かった。
「へー! これが砂漠かー!」
「あっつい!」
お泥さまの座のメンバーはプラシド以外、砂漠に来たのは初めて。
「俺もこの砂漠に来たわけじゃないから。初めてとも言えるかなぁ」
「砂漠と一口に言っても様々だからな」
この砂漠は灰色っぽくて、ところどころ水気のない草や灌木の群れが見える。お骨さまが住んでる砂漠みたいに黄色い砂丘が幾重にも連なるのとは違う。
――砂が細かい。
竜さまが目をパチパチして首を振った。砂丘はないけど、風には砂がたくさん含まれてる。その分、ぎゅっとくっつのくか、砂に足がとられることはない。
竜さまが大きく口を開いた。あくびかな?
――わしは少し寝る。皆、よく遊べ。
「はい! りゅーさま!」
竜さまは船の近くの砂地でくるりと身を丸めて、眠ってしまった。
地面がしっかりしてるから大丈夫かと思ったけど、ペロはやっぱり砂漠が苦手みたいで甲板の上で行ったり来たり。でも、ジュスタが船の様子を見るために残るから、一人ぼっちにはならない。スーヒは掘りやすい土に気がついて、さっそく穴掘りを始めた。
私はお泥さまの座のみんなと一緒に遊びに出る。
「ボール! ボール遊びします!」
籐のボールを頭上に掲げた。いろんな人や竜や獣と遊んできたから、ボールは深い光沢が出てる。しなりが強くなったからよく跳ねて、籐のわりに痛くない。
本当はお骨さまにも参加してほしいけど、転がって行っちゃったから、転がり戻るのを待つ。
システーナが見本を見せてくれて、みんながそれぞれボールの扱いを練習する。お屑さまがやんやとはやし立てた。
――素早く走ってボールを打ち上げるのじゃ! えいやっ! おお、うまくいったのじゃ!
「お屑さまにほめてもらえるなんて、うれしいなぁ」
プラシドがにこにこ、みんなの気持ちを代弁した。
みんなでボール遊びをしてるうちに、お骨さまがごろごろ転がり戻ったので、ボール遊びがいっそう賑やかになる。籐のボールは相変わらず小さすぎるけど、今のお骨さまは羽の布を使ってふわりと返せる。
――ボールが飛んで行ってしまうのじゃ。風でふわりと行ってしまうのじゃ。
「風でふわり、いいですよー、お骨さまー」
ルピタが腕を伸ばしてやんわり打ち返す。お骨さまはボールの動きを追いかけて、首を左右に振る。お泥さまの座のみんなは息ぴったりで、自由自在にボールを打ち上げるから、お骨さまはわくわく羽を鳴らす。羽が動いただけでも、軽く風が起こって軌道がそれた。
――骨! バタバタするでないのじゃ! ボールが揺れるのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこん抗議する。
「だいじょーぶだって」
システーナが軽く跳びだしてフォローした。ドミティラやプラシドも、軌道が変わったボールに難なく追いついて打ち上げてくれる。
「踊りがあるからしないけど、こーゆーのもなかなか楽しいね」
ハスミンがにぃっと笑う。
「すぐに踊れるのもすごいですよ!」
「踊るのは簡単だよ」
ルピタがはずんで、ボールが落ちてくるまでその場でくるくると回った。
「うわー、なんだか砂で踊りにくいね」
「え、そうなの?」
どれどれという雰囲気で、お泥さまの座のみんなは踊り始める。
「あれ、楽器は?」
「船において来ちゃった!」
「取ってくる」
ナシオとドミティラが船に戻って、太鼓と弦を持ってきた。
「あれ? なんだか、革のしまりがちがうなぁ」
「音も少し違う」
お泥さまの座のときはまろやかに感じた音が、軽く跳ねるような響きになってる。
「砂漠、乾いてるからかな?」
ぽんぽんっと鳴らした太鼓の音は、遠く広がってからっと消える。
――違っていても、良い波なのじゃ! 打ち鳴らすのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
――愉快なのじゃ。砂漠に楽器が鳴るのじゃ。
お骨さまが喜んで、うぉっほっほを始めた。ントゥはいつの間にかお骨さまの頭の上で尻尾をうねらせてる。
「顔が熱ーい」
夕方、船に戻りながらルピタが叫ぶ。午後いっぱい砂漠で遊んでたから、褐色の肌でも日焼けしてる。
「はー、喉乾いた」
「ニーノちゃーん、お水お水!」
船の陰で待ってるニーノに、プラシドが手を振った。
「水もだが、皆、冷やせ」
船の側にはござが広げてある。座るとニーノからぬれた布を渡された。熱くなった顔や腕に当てるとひんやり気持ちいい。
「少し休め。今夜はここで過ごして、明け方出発する」
「はー――い!」
日が沈んでいき、砂漠はだんだん涼しくなる。深緑色の空に散る星を見ながら、ルピタが両腕と両足を縮めた。
「寒いね! さっきまで暑かったのに」
さっきまで気持ちよかったぬれた布は、今は遠くに置かれてる。
暗くなる前に、システーナが火を起こしてくれた。ニーノとジュスタが台所で作った料理を鍋ごと運んできてくれる。
「砂漠でご飯だー!」
お泥さまの座のみんなは大喜びで、すぐさま楽器を取り出す。
「本当に貴様らは音楽が好きだな」
ニーノのちょっと呆れたような感想に「当然だ」の笑顔を返して、お泥さまの座の音楽が砂漠に響き始めた。
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