7.ほかほか、あつあつ、わくわく
「そらー、起きろ! 朝ご飯だぞー」
――朝ごはんなのじゃー!
システーナとお屑さまの明るい声に起こされる。
「水を用意するから、顔を洗いにおいで」
「はーい」
あくびをしながら、ルピタと一緒にジュスタについて行った。
二層目の藁山の部屋には何枚か布が敷かれてて、今はだれも(スーヒも)いないけどみんなここで寝たみたい。窓から斜めに光が射しこんでて朝の雰囲気がある。
三層に降りていくと、二層とは逆にまだヒカリゴケの光がほのかに明るい。大樽から桶に水を薄く移して布を浸し、顔をぬぐう。
「すっきり!」
「泳がないの、変な感じ」
布をジュスタに返しながら、ルピタが掌をぷらぷらと揺する。
「空には水がありません」
「ふふっ! そうだね!」
何かきらっとした気がして、足下を見る。ジュスタがにっこりした。
「おや、おはよう。ペロ」
「お、ペロ?」
ジュスタを追いかけてきたのかな?
「もしかして、水ですか?」
布をしぼったときに落ちた水滴がペロが通るとなくなってる。
ペロが登ろうとして桶をひっくり返さないように、ジュスタが縁を押さえてあげる。桶に収まると、まるでお風呂に入ってるみたい。
「ペロ、何してるの?」
「ペロは水を飲んでます」
のぞき込むと水位がじわじわ下がっていく。
「へー、水なのに水飲むんだ!」
「雫同士はくっつくからね。ここは暗いから、上に戻ろうか」
ジュスタは桶ごとペロを抱えて、移動した。
今朝の食堂にはナシオとハスミンとシステーナがいる。
「おはよー! 船はどうですか?」
「面白いぞ」
「布と縄がしっかりしてるね。作り方、ニーノから聞き出さないと」
言葉少ななナシオと対照的に、ハスミンは繊維のことをあれこれと語ってくれる。
「ジュスタ、おちび二人、台所に飯置いてっぞー」
システーナの腕でぴこん、ぴこんとお屑さまは船の天井を眺めてる。何を見てるのか、一緒になって眺めてみる。
「お屑さま、おはようございます!」
「おはよーございます!」
ルピタを追いかけて、あいさつした。
――おはようなのじゃ! 風が徐々に乾いてきたのじゃ! 砂漠に寄るのかや? 骨がそわそわしておるのじゃ!
お屑さまがゆわんっと疑問符みたいに曲がる。
「お骨さまが行きたいところに行かねーなんてねーよ」
「そうです! 竜さま優先!」
――うむ! 骨が喜ぶのじゃ! ントゥも狩りができるのじゃ!
思わずントゥを探す。向こうに置かれた桶に首を突っ込んでる。すぐさま大きな耳がこっちに気がついて、顔を上げて鼻先をぺろりとする。浸かってたペロは、鉢をキラキラさせながら窓から日差しが注ぐ壁を上ってる。
「ントゥ、お腹空いてますか?」
――エネックは砂漠の獣じゃ。山の座は狩りがやりにくいのじゃ。
「おお」
ントゥはいつも自分で狩りをするから、お腹いっぱいなのか全然わからない。邸では肉をほとんど食べないから、ントゥにあげられる物は植物や魚になっちゃう。
「ントゥ、お腹空いてたら悲しいです!」
――案ずることはない! エネックはちょっと飢えるくらいで元気なのじゃ!
「ほおー!」
私はご飯がなくなったら、すぐに元気がなくなるのに、エネックも人の常識が通じない。
「ほらほらー、飯食えー。交替する奴らが腹ぁ減らしてっぞ」
システーナにせかされて、席についた。
朝ご飯を終えて、甲板へ向かう。
「顔出すよー――!」
大声を出して危なくないことを確認してから外に出た。
「おおおおー!りゅーさまー!」
晴天を受けて真っ青な竜さまが船の右側を滑空してる。甲板をぱたぱた走る。風が強いけど、ハーネスがあれば安心感バッチリ。
――エーヴェ。起きたのじゃな。
「はい、起きました!」
「お山さまー、おはようございます!」
ルピタもハーネスをつけて駆け寄ってくる。
――ルピタ、おはよう。空を楽しんでおるか?
「はい! わくわくです!」
――うむ、何よりである。
遠いから顔が詳しく見えるわけじゃないけど、竜さまはきっと金の目を細めてこっちを見てる。
「今日は砂漠に行きますか?」
――うむ、昼を過ぎたころには着くであろう。
――砂漠なのじゃ! きっとほかほかなのじゃ。
バタバタ羽ばたいて近づいてきたお骨さまに、竜さまがするりと寄り添って、そのまま下に入る。すると、お骨さまが羽を開いたままでスムーズに飛べるようになった。
――ほかほかよりあつあつであろう。
ワンテンポ遅れて、竜さまが茶々を入れる。
……竜さまも砂漠の上だと熱いのかな?
「エーヴェちゃん、砂漠って何?」
「あれ? タタン、知りませんか? 砂がいっぱいあるところですよ」
「じゃあ、泳げるかな?」
……ん?
「なんと、タタンは砂も泳げますか⁉」
「え? 砂がいっぱいなら水もいっぱいあるんじゃないの?」
二人できょとんと顔を見合わせる。
――ルピタの思い描いておるのは「浜」であろう。海の近くにも砂ばかりの土地がある。
「おお、そうか!」
「じゃあ、砂漠は初めてかも!」
――砂漠は砂ばかりなのじゃ。簡単な景色なのじゃ。きれいなのじゃ。
お骨さまが羽をバタバタする。
――今日は久しぶりの砂遊びなのじゃー!
勢いよく側転を決めたお骨さまを、竜さまが慌てて追いかけた。
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