4.ルピタのきょうだい竜
低い椅子に腰かけたルピタは、長い足を前に放り出してリズムを取ってる。
「前にいた世界はね、いろんな物がここより育って、人より大きい生き物がたくさんいたんだ。でも、竜さまみたいに大きい生き物は珍しかったけど」
「いろんな物が大きいってことは、木や草も大きかったー?」
作業部屋に転がってた背の低い椅子を引っ張り出して、ルピタの話を聞く。ガイオは口をへの字に曲げて、でも、前のめりだ。
「うん! すっごく大きいシダとか生えてたよー。胞子を飛ばす頃は、近づくと体中真っ白になっちゃうの」
ルピタはけらけら笑う。
「面白ーい!」
ジュラ紀や白亜紀みたいな感じかな?
「あったかかった?」
「あったかかったー! あ、でも、私は行ったことないんだけど、ずーっと遠くには寒い土地もあったみたい」
やっぱり、広い世界だったのかな? 移動の方法があまりなかったのかも?
「どんな竜がいたの?」
「いろんな竜がいたよ! いちばん大きな竜はお山さまの半分くらいかな? でも、お山さまと違って飛べなかったな。大きな竜はシダの林の中で、家族で暮らしてるの。私の住んでたところには、中くらいで種類の違う竜が何頭かいて、畑を作るのを手伝ってくれたり、大きな建物の材料を運んでくれたりしてたよ」
「タタン、竜と暮らしてた!」
ルピタはにーっと笑って、足の指をわきわき動かす。
「そうだよー!」
一転、ルピタは声をひそめた。
「あのね、悪いんだけど、前の世界では人が竜の卵を盗んでくるんだよ」
「なんと」
とっても悪い!
「盗んできた卵を子どもが温めるの! 子どもは卵の親で、孵ったら竜のきょうだいになって育てるんだよ」
「なんと!」
それは、とっても素敵システム!
「じゃあ、タタンも竜のきょうだいがいました!」
ルピタが満面の笑みで頷く。
「私のきょうだいは泳ぐ竜だったんだよ」
「うわー! タタンは前の世界でも泳いでました‼」
二人で水の中にいる気分で腕を動かす。
「私たちが住んでるところの近くには、灰色の大きな川があってそこに竜が住んでるんだよ」
「たくさん?」
「全部の数は知らないけど、三十より多いよ!」
「大きいですか?」
「うーんと、ワニが前後に二匹並んだくらいの大きさかな? 卵は陸に産んで、卵から孵ったヒナは、灰色の川に入って大きくなるの。巣から一つもらったんだ」
ふわー! これまで聞いた世界とはまた全然違う。
ジュラ紀や白亜紀の恐竜イメージでルピタのいた世界について空想してみる。
「どうやって卵を取るんですか? 親竜に怒られたり、噛みつかれたりしない?」
「そうだ! 竜は人を噛む!」
急にガイオが元気になった。
ルピタは体を左右にゆする。
「そうだねー。竜は好きな食べ物がそれぞれ違うんだよね。ほかの動物を食べる竜は、やっぱりお腹が空いてると人を食べることもあったよ」
「おお」
「敵ではないか!」
ガイオはとっても元気になってる。
「でもね、卵を取られても、きょうだいの竜になって生きてるってことが竜にも分かってたんだ。だから、卵一個は許してくれるんだ」
「なんだと!」
「ほおー! 賢い!」
子どもを預けてくれるってことは、その世界で人は竜から信用されてたみたい。
ガイオはすっかり困惑して、ぶつぶつ言ってる。
「卵から出たばっかりのときはねー、手も足もなくて、体の細い魚みたいなんだよー」
「へー!」
「ヒエとかアワのおかゆを食べさせて、世話をするんだよ! そしたら、ある日、ぱちっと大きい目が開くの! 黒っぽくてつやつやだったよ!」
「うわー! タタンみたい!」
ルピタの瞳がきらきらする。同時に、鼻の穴がぷくっとふくらんだ。
「それでね、しばらくしたら足が生えて、またしばらくしたら手が生えて、脱皮したら、立派な背びれがそろった竜になるんだよ!」
おお。途中まではオタマジャクシかと思ったけど、竜になるんだ。
「ふわー! 竜が竜になるとこ、エーヴェも見たーい!」
「ワニみたいに陸にもいられるから一緒に日向ぼっこしたり、川に潜って魚取ったりもしたんだよ」
「すばらしいですね!」
「うん、すばらしいよ!」
この世界とは全然違うけど、竜と人とがなかよくしてた世界だったみたい。
「お前は、人が竜に食われたときに怒らなかったのか?」
しばらくぶりの低い声に、ルピタがびっくりしてガイオを見上げた。
「えーっと、悲しいなぁとは思ったけど、怒らなかったですよ。だって、人も他の動物食べるんです。逃げられなかったなら、仕方ないですよ」
「おお……」
それは私の前にいた世界とは違う考えだ。
「なぜだ! 守ろうとは思わないのか!」
「守るよ! 大きな建物作ったり、みんなで逃げる練習したり!」
ルピタがふくれて応える。
「違う! 戦うのだ!」
ルピタは首を傾げた。
「竜の肉はあんまりおいしくないんだよ」
「……は?」
ガイオが首をかしげてる。
「竜の肉、タタン食べましたか?」
「ううん。おいしくないって知ってるから、みんな狩らなかったよ」
「待て待て! そうではない!」
座ったままでガイオが地団駄を踏んだ。
「ガイオサ、うるさいですよ!」
「なぜ戦う話が、食べる話になるのだ!」
ルピタはきょとんと首をかしげた。
「え、戦いって狩りですよ? 食べないなら、戦わないよ」
「ほおー!」
ルピタの前の世界も独特だ。
黙ってるガイオを見上げる。お屑さまがいたら怒りそうなくらい、ぽかんと口が開いてる。
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