3.船の探検
暑くなってきましたね。
そろそろペースを戻したいのですが、ゆるく見守ってください……。
ルピタと一緒に甲板から船内に戻る。
「ふわー! 風、とっても強かったねー!」
体がほかほかだ。
「あ、タタンの髪、風の形になってます!」
くるくるの髪が、いつも以上にあっちこっちを向いてる。
大人が帆を操作してる間、甲板のあっちこっちを走り回って、竜さまやお骨さまが飛ぶ姿を眺めた。お泥さまの座のみんなは帆を扱うのは初めてのはずだけど、ジュスタやニーノの指示で上手に動いてて、さすがだ。ニーノもちょっとびっくりしてた。
「帆がばっとふくらむのすごかったね! エーヴェちゃんが描いた竜さま、かっこいいねー」
「ふっふっふー!」
青い竜さまの帆がひるがえるのは、いつ見てもかっこいい。
「タタン、ちょっと頭下げてください!」
頭を傾けてもらって、すごい向きで固まってる髪を手でなでつけてあげる。
「いいですよ!」
「ありがとー。あ、エーヴェちゃんの髪も跳ねてるよ」
手で髪をすいてくれる。
「おやおやー、仲良し二人だね」
声がした方を見ると、甲板からの階段をプラシドが降りてくる。にこにこ顔の後ろに、銀髪がちらっと見えた。
「さっさと降りろ」
やっぱりニーノだ。階段を降りると、さっと服を整えてこっちを見た。
「食事の用意をする。貴様らはガイオを呼んでこい」
「ガイオサ、どこにいますか?」
「探せ」
「おおー……」
ルピタと目が合った。二人で一緒に船を探すなら、絶対楽しい。
「俺も行きたいー! 船の中、まだ行ってないとこあるもんねー」
ルピタと私が反応する前に、ニーノが口を開く。
「貴様は膝を診せろ」
「えー、別に何ともないよ」
聞く耳持たないニーノは、プラシドを連れて行ってしまった。
「じゃあ、探しに行きましょう!」
ルピタを振り返って宣言する。
まずは船のいちばん深いところに行った。甲板から二層目まではかろうじて窓がついてるけど、ここは窓なしで真っ暗。階段に座ってしばらくじっとしてると、天井辺りのぼんやりした灯りが見えてくる。横から見ると「エ」の形の木材が天井の隅に埋め込まれて、そこはヒカリゴケプランターになってる。
「こんなところにいるかなぁ?」
ルピタは大きな樽の間をのぞき込んだ。
「ガイオサはショックを受けてました。暗いところに引きこもるかもしれません」
お泥さまに会って噛んでもらったけど、ガイオは動揺してたもんね。
「なんでショック受けたの?」
「分かりません。ガイオサは複雑」
「ふーん?」
いろんな食べ物が入った箱を見つけ、燃料や皮が積まれてるのを眺めて、次の層へ行く。
甲板から二層目は寝るところとジュスタの作業部屋と材料を置くための場所がある。数は多くないけど窓がついてるから、さっきよりも探しやすい。材料置き場の端に、スーヒが藁山と一緒に持ち込まれてた。
「スーヒ、ガイオさん知らない?」
ルピタが側に寄って声をかけたけど、藁山は動かない。二人で藁山の様子を眺めてると、後ろで物音がした。
振り返ると、ふわふわにふくらんだ尻尾がちらっと、向こうの角に消えた。
「あ、ントゥだ!」
「あ、待って待って、エーヴェちゃん!」
尻尾を追いかける。角をのぞくと、向こうからすごいスピードでスーヒが走って来て、足下を駆け抜けた。
「わ?!」
「エーヴェちゃん、ントゥも来た!」
どうも二人で追いかけっこしてるみたい。最初に砂漠で追いかけっこしたときと比べると、二人とも遊んでるだけなのが分かる。ントゥは右に左にスーヒの体を跳び越して、スーヒが不満そうに「ぴゃ!」と鳴いた。
「なーんだ、遊んでるだけだね」
「もしかしたら二人とも、初めての場所で緊張してたかもしれません」
「動物でも緊張するの?」
二人が遊んでるのをしばらく眺めて、ガイオの捜索を再開した。
ジュスタの作業部屋はいろいろ危ない物があるから、しっかりした扉がついてる。押し開けると、部屋は明るかった。窓は一つだけど、ガラスの反射を使って部屋全体が明るくなるよう工夫されてる。
「あ、ガイオさん!」
意外なことに、ガイオが部屋の中央の椅子に座ってた。手許をのぞき込んでるので近づくと、ナイフで木を削ってる。
「ガイオサ、何してますか?」
答えがないので、削っている物を見る。
「あ、これ、エーヴェ知ってます。簡単できれいな模様」
前にお泥さまの座に行ったとき、退屈しのぎにニーノが教えてくれた模様――に似ている。
「何それ?」
「ニーノが教えてくれました。……あのときのより、もっと簡単」
もしかして、ガイオの模様が元祖なのかな?
急にガイオは手を止めて、木切れとナイフを台に置いた。
「なんだ、お前ら。どうして来た?」
やっと口を開いたと思ったら、ガイオはぶすっとしてる。
「ガイオサを呼びに来ましたよ」
「ニーノさんがご飯作るんだって」
「そうか」
あれ? ご飯と聞いたのに、ガイオにしてはウキウキしない。
「――ガイオサ、元気がないです!」
「そうなの?」
「そんなことはない!」
「そうなんですか?」
「やっぱり、おどろさまにあいさつしてもらって、ビックリしましたか?」
「そうなの?」
「そんなことはない!」
まったく、ガイオサは頑固です。
「なんで竜さまのあいさつがびっくりなんですか?」
「あんなのは竜ではない!」
「あ!」
ルピタの目がまん丸になった。ガイオも目が丸くなった。
「ダメですよ! ガイオサ、無礼!」
「竜さまが竜じゃないって何ですか?」
ルピタの頭上に、はてながたくさん飛び交ってる。
「お、俺が知ってる竜は、ああいう竜ではないのだ」
「ああ、竜さまはとっても特別ですよね! 私も初めて会ったとき、ビックリしました」
ルピタが納得したように笑顔になった。
「ルピタはいつおどろさまに会いましたか」
「この世界に来たときだよ! 前の世界で知ってる竜とは全然違ったから、びっくりしたんだー」
「なんと! ルピタの前の世界には、竜がいましたか!」
うらやましい!
「うん! 前の世界にはいろんなところにいろんな竜がいて、人が暮らすのを手伝ってくれてたんだよ!」
うわー! とってもいい世界の予感!
ワクワクして口を開くより、ガイオのほうが速かった。
「その竜のこと、詳しく話せ」
きょとんと見上げる。仏頂面で言われて、ルピタも首をかしげた。
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