2.乗り遅れなし
大変期間が空いてしまい、申し訳ありません!
ちょっとぺちょんとなっており、執筆できませんでした。
まだ続きますので、これからもよろしくお願いいたします。
ニーノとジュスタがつけた羽を、お骨さまが試しにバタバタする。ふわっと地面から浮かび上がって、お骨さまはぱかっと口を開けた。
――友、楽しいのじゃ。
――水に濡らすでないぞ、友よ。
――うむ! 濡らしてはならぬのじゃ。
お骨さまがひょいひょいと跳ねた。ントゥも、ぴょんぴょん足下で跳ねてる。久しぶりに飛んでるお骨さまを見て、嬉しいのかな?
竜さまが目を細めてお骨さまを眺め、水平に羽を広げた。
――では、壮健であれ、泥よ。泥の付き人よ。
打ち下ろした羽でぶわっと土煙が起こった。鳴り竹の音が一斉に響く。二度、三度と羽を振るうと高度を上げ、竜さまはさっと飛んで行ってしまった。
――またね。
のんびりお泥さまの声が返ってくる。
――またねなのじゃ!
お骨さまもばたばたして浮き上がり、地面や座の建物の屋根を蹴って空に舞った。ントゥもぶんぶん尻尾を振りながら、矢のように地面を駆けていく。
「おわー! やっぱりすごいねー!」
黒曜石の目がきらきら輝いてる。二人が空に飛ぶのを眺めてから、ルピタと一緒に船へと駆け出した。
背後に向けて手を振る。
「また来るねー! エステルさん、アラセリ!」
「気をつけて行っておいでー」
アラセリとエステルが手を振り返す。ニーノとジュスタ以外のみんなは、もう船で待機してるから、ここにはお泥さまとこの二人だけ。
「おどろさまー、またねー!」
もう水面は見えなかったけど、大声で叫んだ。
座と外を隔てる扉を開けて、ルピタを追って船に向かう。六日前に座まで案内してもらったときは、がいがい賑やかであっという間だったけど、今は二人でおしゃべりして、あっという間だ。船が近づくとみんなの声が賑やか。
「おー、来たな。おちび」
――骨も来たのじゃ!
船の側でシステーナが手を振ってる。お屑さまも一緒に揺れてる。
確かにお骨さまは向こうの竹林の上を滑空してる。竜さまはすっかり遠くまで行ってしまった。
「さっさと乗りな。もう準備終わってっぞ」
「ントゥは?」
――さっき船に飛び込んでいったのじゃ!
おお、賢い。
「プラシドは?」
「ルピター! こっちだよー!」
見上げると、船の柵の向こうでプラシドが両手を振ってる。
「おお! 行きます、タタン!」
「行こー!」
二人で板を渡るとき、ルピタが足を止めた。
「これ、このままでいいの?」
一緒に立ち止まって考える。すると、下から声が届いた。
「俺たちが上がるから、そのままでいいよー」
ジュスタだ。ニーノとお骨さまの羽布をまとめてたロープや細かな物を持ってきてる。
「あれ?」
でも、思いがけない物も一緒に来てる。藁のかたまりだ。
「なんだろ? 藁で寝るのかな?」
ルピタがちょっと嬉しそう。
「ジュスタ、藁、どうしましたか?」
登ってきたジュスタが脇に抱えた藁を指さす。
「エステルが用意した」
藁で見えないけど、ニーノの声。
「これで寝るんですか?」
ルピタも藁を指さした。ジュスタが苦笑ぎみに口を開こうとしたとき、藁のかたまりがゆさゆさ揺れた。
「ぴゃ!」
「わ!」
藁の間にスーヒの湿った鼻先が見えてる。
「ふっふ。かわいいね!」
「スーヒが藁から出たがらなかった」
「なんと」
だから、藁山ごと持って行けってエステルが言ったのかな?
「ガイオサは?」
さっきショックを受けてたけど、大丈夫かな? みんなで船に入って、周りを見る。
「もう乗ってるはずだよ。隠れてるんじゃないかな?」
「ぴゃ!」
なぜかスーヒが鳴く。
「あとで探しておく」
……じゃ、大丈夫かな?
ルピタを振り返った。
「甲板に行きましょう! 帆が見られるよ!」
「うん! プラシドもいるよね?」
「俺も藁とスーヒを置いてから行くよ」
ジュスタとニーノと別れて、階段を上る。
「この階段、しっかりだよね!」
ルピタの言葉に一瞬首をひねったけど、納得した。
「座の階段は魚の骨みたいだもんね」
手すりがなくても一段一段板が渡されてるから、ルピタにはしっかりに見えるみたい。
「でもエーヴェ、おどろさまの座の階段、好きですよ」
太い竹に竹の板や細い竹が刺されただけ。簡単な作りだけど、アスレチックみたいで楽しくなる。
ハーネスをつけて、二人で甲板に上がったときには、システーナも甲板の上にいた。ハーネスつけてないから、直接跳んできたんだな。
優しい風に下ろされた帆が少し揺れてる。かすみがかった青空は帆の白と馴染んで見えた。
「あ、ペロが舳先にいるよ!」
ルピタが指さす。舳先で何かがきらきらしてると思ったら、鉢をかぶったペロだ。
「ふふっ、ペロ、なんだか嬉しそうです!」
「おおー、なんかワクワクするね!」
ルピタの褐色の頰が明るい色に染まってる。
「じゃあ、そろそろ、岸のみんなにあいさつしてね」
甲板に顔を出したジュスタが言う。でも、甲板の上のみんなが岸のほうに行くので、ちょっと心配になった。
「問題ない。すでに水や食料を積んでいる」
いつの間にか甲板に出てたニーノに心を読まれる。
「おお、傾きません!」
「エーヴェちゃんー!」
プラシドのそばに向かってるルピタに呼ばれた。
「タターン!」
応えて駆け寄る。
岸には、座に残る付き人の中でエステルとアラセリ以外、みんないた。
「わー! みんなー、また来まーす!」
カジョとマノリトとカンデとフィトとノエミとロペ。ノエミに抱っこされたロペは、しきりと何かを指さしてる。指さした先を見ると、きらきらするペロがいた。
「きっとロペ、ペロのこと覚えたね」
ルピタに言われてちょっと誇らしい。
手を振ったり叫んだりしてたみんなが、何かに目を奪われたように急に黙る。
ごおっとすごい風が吹き抜けて、竜さまが戻ってきた。
――友ー!
滑空してたお骨さまもこっちに戻ってくる。
「では、お願いします、竜さま」
ジュスタがホバリングしてる竜さまを見上げる。
「これから飛びますよ!」
ぽかんと竜さまを見上げたルピタに声をかけた。
竜さまは慎重に船のでっぱりに爪を掛けて、船を持ち上げる。
「重くはないでしょうか」
ニーノが聞いた。
――ふむ。よく分からぬ。
来る時より物は増えてるはずだけど、竜さまにとっては大差ないのかな?
だんだん小さくなる岸のみんなに目を戻す。
「わー、すごーい! 高ーい!」
ルピタだけじゃなく、おどろさまの座のみんな目をまん丸にしてる。空を飛ぶなんて、初めてだもんね!
――さあ、名残は尽きぬが、参るぞ。
言葉を合図に、竜さまは強く羽を振るって、空を進み始めた。
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