23.共同制作
またもお待たせしました。
昼ご飯を食べ終えて、布の前にみんな揃う。布を固定する器具を初めて見た何人かが、仕組みをしげしげ調べてる。ニーノと一緒に作ったから、ちょっと誇らしい。
ハスミンは、さっき持って来た甕の中身を浅いたらいに出した。
濃い青と赤に近い茶色と赤身がかった黄色の三色。
「好きな色で跡をつければいいよ」
ハスミンが腰に手を当てて胸を張る。
「泥染めはできないけど、これはできます」
「あたしが先に言っといたんだよ」
「おおー! シスー!」
「おちびー!」
二人でハイタッチする。システーナが帆にみんなの手形をつけようと提案したとき、お泥さまの座のみんなの手形もついたらいいなと思った。その後で、ジュスタが試しに船で遠出をしたいと話して、完璧な計画ができたのだ。
「これで跡をつけてから、上に油をぬれば、水を弾くから消えないはずさ」
「お、ニーノのくさーいやつがありますよ!」
「臭いやつ?」
「水を弾く薬だ」
ニーノは顔色一つ変えない。
「これ、手の跡をつけるの? 足跡?」
帆のそばにしゃがみ込んでるルピタの隣に並ぶ。
「足跡?」
「この上で踊ったら、きっと面白い跡がつくよ!」
ルピタがとーんと帆の上に飛びだして、ひらっと一回転して向こうに抜ける。
「こんな感じ!」
「ふわー!」
すごい! みんなが踊った跡が残るなんて。
「素晴らしいですよ!」
「一人一回ずつ、この上を渡るのでいいかな?」
確認するエステルにこくこくと頷いた。
「念のため、大人は一人ずつにしておけ」
ニーノが釘を刺す。しっかり固定してるけど、地面に落ちたら困るもんね。
「あとは、竜さま方がいらっしゃったら……」
ジュスタが水脈のほうを見たとき、遠くに白銀のたてがみが見えた。
竜さまはずしんずしんとゆっくり広場にやってくる。お骨さまはときどき竜さまを振り返りながら、ントゥと追いかけっこをして走って来た。
「お骨さまー!」
――エーヴェ! 来たのじゃ!
お骨さまは広場に張られた布を、首をかしげてのぞき込む。鼻で軽く押してみても、布は張られたまま。お骨さまは口をぱかっと開ける。感心したのかな? いつの間にかお骨さまの頭の上に登ったントゥは、布に飛び乗ってはお骨さまの頭に戻るのを繰り返してる。すごいジャンプ力。
――楽しいことがあると聞いたぞ。
堂々とたどり着いた竜さまに、ぴょんぴょん跳ねて手を振る。
「この布に、りゅーさまの手の跡をつけてもらいます!」
――跡? 砂ではないが、跡は付くのか?
お骨さまはまた、鼻で布を押す。
――友よ、絵と同じである。色をつけるのじゃ。
甕を見てから、竜さまも布に鼻を近づけた。
「おどろさまも来ますか?」
「うん、マノリトが呼びに行ってる」
後ろからプラシドの声が聞こえる。振り返ると、プラシドとカジョが太鼓を運んできてた。
「――鳴らすのか」
「音があったほうが楽しいじゃん」
ニーノはちょっと呆れてるみたい。
――まったく! 泥はぼんやりしておるのじゃ! もっと急ぐのじゃ!
遠くからお屑さまの声が聞こえる。マノリトと一緒だったのかな。
ぎゃんぎゃんいうお屑さまを腕につけたマノリトが広場にやってきた。
――誰も逃げない。大丈夫。
しばらくして、声が聞こえた。おどろさまが水草を落としながら、のっそり姿を現す。
「竜さまに跡をつけていただくには、この布の位置は高すぎるな」
ニーノが眉間にしわを寄せた。
「竜さまの足跡は、いったいどのような形だろう」
エステルが真顔でお泥さまを見つめてる。
うーん、やっぱり二人は竜さま大好きです。
「じゃ、まずは付き人からつけていこう!」
高らかにプラシドが宣言して、太鼓が打ち鳴らされた。
誰が最初に行くかきょろきょろしたけど、この世界では遠慮する人なんていなかった。
「あたし、これ!」
システーナが赤茶色に左足を浸して、高く飛び上がる。帆の真ん中に一つだけ足跡を刻むと、ぴょーんと向こうの渡り廊下に降り立った。
右足を青く染めたドミティラがスピンを繰り返して踊り抜け、ナシオはバク転三つで跡も三つ。みんな軽業を競うみたいに、帆布の上を渡っていく。
「すごーい! みんなすごーい!」
「エーヴェちゃん!」
戻ってきたルピタと手をつなぐ。私は右足を黄色に、ルピタは左足を赤茶色に染めて、二人でスキップして帆を渡った。
渡り廊下にたどり着いて、帆を振り返る。二人分なのに一人分の足跡が向こうからここまで続いてる。
「面白いね!」
「面白いねー!」
顔を見合わせて、大満足。
――楽しそうなのじゃ。わしらはせぬのか?
お骨さまは通り過ぎる人を追って、顔を左右に向ける。
「申し訳ありません。付き人が終わりましたら布の位置を下げます」
「ントゥもやります!」
ントゥに手を振ったけど、お骨さまの頭の上で毛づくろいをしてて聞いてない。
「鼻ぴこ、お前も行ってこい」
ガイオの声に振り返る。赤茶色に足を染めたガイオが、同じ色のたらいにスーヒを運んだ。スーヒは嫌がってジタバタしてたけど、足に色がつくと駆け出す。帆の上を少し走って、途中でUターンした。
「鼻ぴこ!」
一緒に布の上にいたガイオも追いかけていったので、Uターンの跡が二つできる。
「ジュスタ、ペロも呼びます!」
「あ、そうだね。来てくれるかな?」
ジュスタはペロを呼びに行き、フィトとノエミがロペの手を引いて三人でゆっくり歩いて行った。
ニーノは青に左足を染めて、ふわっと飛んで一か所跡をつけると戻ってくる。
「それだけー?」
「システーナも同じだろう」
頰がふくれた。システーナはぴょーんと飛んでたから、かっこよかったもんね。
その後、ジュスタとペロがやって来て、二人で帆に跡をつけた。ペロはどんな跡になるのか気になってたけど、ジュスタの足下をくるくるしながら進んで行ったから、S字の跡ができる。すぐに透明に戻っちゃったから、一つだけ。
太鼓の打ち手を代わって、プラシドとエステルが跡を残すと今度は竜さまたちの番だ。
布の位置を低くして、竜さまたちが足を乗せやすくする。足全部に塗るには染料が、跡をつけるには帆布の広さが足りないから、指先だけたらいにつけて、ちょいっと布に指をのせてもらう。
竜さまは赤茶色の跡をひょいっとつけてくれる。続いて、お骨さまが骨の跡をつけ、それを見たントゥは、たらいに飛び込んで帆布の上で走り回った。
お泥さまもやもりみたいな指の跡を布に残してくれる。お泥さまの座のみんなが代わる代わる跡をのぞき込んで、にこにこしてる。
――む? 待つのじゃ! わしはどうするのじゃ?
お屑さまがぴこんっと伸び上がった。
「お屑さま、足ねーもんな」
「おお、そーです!」
かぎ爪があるけど、腕輪から離したら飛んで行っちゃう。考えてる間に、システーナはマノリトから腕輪を受け取って、迷いなくお屑さまを染料のたらいにつけた。
「おわ! シス!」
ビックリしてる間に、帆布に近づいて、ぺちょっとお屑さまを押しつける。
はがすと、タツノオトシゴみたいなお屑さまの跡。
「――システーナ、貴様」
ニーノの顔から血の気が引いてる。私もまだ、ビックリが解けない。
でも、システーナはへっちゃらだ。
「ほら、お屑さまの跡だぜー!」
――ぽ! 何事なのじゃ!? 何が起こったのじゃ!
お屑さまが半分黄色いままぴこんぴこんする。
――うむ。屑の跡がついておる。
みんなが行き来した帆の端っこに、小さなお屑さまの跡。
――おお! わしなのじゃ! 美しいわしの形なのじゃ! ぽはっ!
よかった、お屑さま、怒ってません。
ほっとして、改めて見ると、これは素敵だ。
竜さま、人、スーヒ、エネック、水玉! みんなの跡がついた帆。
「すごいです! みんなの帆です!」
うぉほっほをすると、太鼓も合わせてうぉほっほを始めた。
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