14.歓迎は片付けまで
お待たせしました。
お泥さまの座だとペースがのんびりしがちです。
「何話してんだー?」
お腹いっぱいになって上気したほっぺたのハスミンがやってくる。
「またろくでもないこと話してるんじゃないの、カジョ?」
水色の髪のドミティラがカジョをにらみつける。ハスミンとドミティラは、雰囲気が明るいところが似てる。
「ラミラの話だよ」
「あたしが世話になったっつー」
ドミティラがカジョの横に無理矢理入り込んでくる。
「ラミラ――私の母さんか」
「かあさん!」
おお、この世界では珍しい響き。
「でも、ドミティラはカジョのこと、カジョって呼びますね」
「そういえば、そうねー、父さん」
視線を向けられて、カジョが肩を跳ねさせる。
「うわっ! 何千日ぶりだ?」
「あっはっは! たまにはいいかも」
「よせよせ。なにやら厄介事を言いつけられそうだ」
しっしっと手を払うけど、カジョはにやにやしてる。
「あんまり父さんって呼ばない?」
「ドミティラが父さんって言うとこ、初めて見たよ!」
首をかしげると、隣からルピタが声を上げる。
「そーねー――。ヒナからもうずっと大きくなっちゃったし。プラシドもエステルもアラセリも親みたいなもんだから、わざわざ父さんって呼ぶことないかって思っちゃった」
「ラミラのことはあんまり覚えてないよな」
カジョがドミティラの頭に手を置く。
「うん。まだ小さいときにお別れだったもんね」
「おお、それは残念です」
ドミティラがにんまりする。
「まあ、ラミラが死んで悲しいのはみんな一緒だよ。たぶん、カジョがいちばん悲しいんじゃない?」
「寂しいこと言うなよ」
カジョは苦笑してる。そうか、恋人(?)が亡くなったってことだもんね。子どものときに親を亡くしてたら悲しいって感情もあまりわかないかも。
うーん、前の世界とは家族の形が全然違うから、不思議。前の世界だったら、他の子どもに親がいるのを見て、自分の親がいないことに寂しさを覚えたかもしれない。でも、この世界は落ちてきた赤ん坊をみんなで育てるから、産んだ人が育てるって形が、むしろ珍しい。きっと家族って呼び方も、当てはまらない。ここにあるのは、お泥さまを中心にした人のまとまり。
「もーおしゃべりはいいだろー! 弾こう!」
ハスミンがドミティラの手を引いて立たせる。
「エステルも!」
エステルが笑って、立ち上がる。
ラミラのことやみんなのこと、まだまだ聞きたかったけど、太鼓と竹琴のリズムが始まったら、もう体がウキウキし出す。
エステルは何を引くのかと思ったけど、前にアラセリが弾いてた大きな琴をゆっくり弾いてる。
「タタン、踊ります!」
「そうだね!」
ルピタと一緒に手をつないだ。竹の床を踏んで、リズムを刻む。
システーナとジュスタも踊りに加わって、とっても嬉しい。
「ニーノは?」
跳ねながら探すと、いつもの無表情でスープを飲んでる。
「ニーノ!」
呼んだけど、無視された。
「むー! ガイオサは?」
おいしいご飯に、にっこにこのガイオを見つける。まれに見る上機嫌。ナシオから太鼓のバチを渡され、叩き始めた。
「お、上手です!」
新たな面白いリズムにハスミンやカジョが目を輝かせて、弦を合わせていく。
「へー、思いがけない才能だね」
ジュスタがにこにこする。二人で手足をむちゃくちゃに動かして変な踊りをするけど、お泥さまの座のみんなは一緒に面白がってくれる。前の世界で上手じゃないと人前で踊れなかったけど、ここでは踊りも音楽も生活の一部みたいで笑われたりしない。
だからニーノも踊ればいいのに。
ぶーっとふくれてる私の傍に来たシステーナが、にやにやする。
「なーるほど、ははっ。あっちもいつも通りの奴がいるな」
システーナが指さした先ではペロが楽器を飲み込んでる。バチを取り込んで、すっかり細長くなってる。
システーナと大笑いして、またわくわく踊った。
システーナはほっほうっと叫びながら弾むだけ。あんまり跳ねないように気をつけてるんだろうな。屋根突き破っちゃうもんね。
――む! 何事じゃ! む? なんじゃ、踊っておるのじゃ。泥の座はいつも踊っておるのじゃ! ふぁふっ。
ぴこんと起きたお屑さまはあくび交じり。
みんなで笑って踊ってへとへとになって、そのまま寝てしまった。
「皆、起きろ。片付けだ」
翌朝、ぐちゃぐちゃになった部屋で起こされる。悠然と微笑むエステルの指示で、雑魚寝してたみんなが起きて宴会の片付けが始まった。
今まで眠っちゃったら誰かが寝床に運んでくれて、次に呼ばれるのは朝ごはんだったから、不思議な気分。
「全員ぶっ倒れるまで踊るのが、いちばんの歓迎だろ」
楽器を乾いた布でぬぐいながらハスミンが言う。
「誰かが片付けをしてやると、片付けがいかに大変で面倒で、同時に大切か、分からなくなる」
「うん、片付けめんどくさーい!」
エステルが皿を集めて積み上げたお膳を、ルピタが頰をふくらませながら運んでいく。
――なんじゃ? 何が違うのじゃ? 人はいつも働いておるのに、あれとこれは違うのかや?
「何かをするための準備はそれしてーから楽しいけど、してーことが終わった後の片付けはしてーことじゃねーからめんどーなんだよ」
――はて? したいことの後にまだ何かすることがあるのか?
「はっはー、言われてみりゃ、そーだよな」
「人は道具を使うせいかもしれませんね」
ジュスタが集めた食器に目を落とす。
「あー変な格好で寝たから、背中が痛い」
「俺もー! 首、変になっちゃった」
背中をさするカジョに、首を左右に曲げるプラシド。でも、二人で太鼓を抱えて移動させ始めた。
ナシオとマノリトが残ったご飯をまとめて、温めてる。朝ごはんになるのかな?
私も藁を散らかしてるスーヒを外に追い出した。
いったん作業の手を止めて、洗われたばかりのお椀を使って、昨日の残りで朝ごはん。スープともっちりご飯と微妙に残ったいろんなおかずだけど、十分お腹いっぱいになる。
最後にみんなで部屋を掃除した。
とってもさっぱり!
「よし! ジュスタ! 工房に行こう!」
「え、あ、そうだね」
意気揚々のハスミンに腕を引かれて、ジュスタは工房に。ペロがジュスタを追いかけていく。
「シス、ガイオさん、田の手伝いに来てくれ」
「おー任せろ」
システーナとガイオはカジョやドミティラと畑作業に行くみたい。でも、システーナの腕でお屑さまがぴこんっと伸びた。
――ガイオは来ずともよいのじゃ! 無礼者なのじゃ!
「なんだ、薄おしゃべりめ!」
「あ、私またお屑さまの腕輪つけたいです!」
ルピタが駆けつける。
「おお、じゃあ、頼むぜ」
――なんと! じゃが、招かれたゆえ、仕方ないのじゃ。ルピタ、光栄に思うのじゃ!
「わーい! 光栄です、お屑さま!」
ルピタがたたん、たんとステップを踏むので、お屑さまはすぐに機嫌が良くなった。
……ガイオ、いつの間にかみんなと馴染んでてびっくり。竜さま嫌いの話をしてないけど、大丈夫かな?
「みんなバラバラ」
私はどこに行こう?
竜さまのところに行きたいけど、みんなが何をするかも興味がある。
「私は今日はカンデの手伝いするんだよ。エーヴェちゃんも来る?」
「お、行きます!」
ルピタに聞かれて、即断した。カンデのところなら、ニーノも来るかもしれない。
案の定、こっちを見たニーノと目が合って、にっこりした。
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