13.前の話と今のこと
遅くなりました。
エステルの笑顔を見て、思い出す。
「そうだ。エステルさんはニーノの友達です。どうやって友達になりましたか」
「おや? ――そうだな。初めて会ったときは今ほどこの世界のことが分かっていなかったから、いろいろなことを話して少しこの周囲を旅した」
そうか。ニーノは何でも知ってる気がするけど、自分で調べていったんだ。
「あいつは感情が顔に出ないが、面倒見がいいだろう? プラシドはすぐ懐いていたな」
「おお! ニーノちゃん!」
「ふふっ、そうだね。自分より長く生きてて背も高いのに、どうしてちゃん付けしたのか、不思議だ」
思わず、向こうのプラシドを見る。ニーノと離れた場所にいるけど、どう見てもプラシドのほうが背が高い。
「――ああ、当時は今ほど体ができていなかったからな」
エステルもすぐに心を読んでくる。
「プラシド、子どもでしたか?」
「キミの倍は生きてたと思うね」
「聞いてみたらいいよ! プラシドー!」
ルピタがその場で立ち上がって大声を上げる。
「なになにー?」
プラシドがにこにこしながらやってきた。
「プラシドはどうしてニーノをニーノちゃんって呼びますか?」
座りにくそうにするプラシドをマノリトが支えて、あぐらに落ち着く。
「んー? そうだねぇ。あんまり覚えてないけど、ニーノちゃんって呼ぶと、早く仲良くなれそうな気がしたから?」
「そうなの?」
ルピタはプラシドの背中に乗っかってくつろいでる。
エステルが忍び笑いをもらした。
「ニーノちゃんと呼ばれて驚いていたな。あれがなければ、感情があることに気づかなかったかもしれない。あいつは初対面からにこりともしなかった」
「なんと! 無礼です!」
背中のルピタと遊びながら、プラシドはにかっと笑う。
「無礼ってことはないよ。話してはいたもんね、ニーノちゃん」
「必要なことはしゃべるからな、あいつは。何より、竜さまへの態度は丁重だ。人間は二の次なのさ」
うん、まぁ、それは本当。
「エステル以外に人がいるって、俺は初めて知ったもん。嬉しかったなー」
「エステルさんは知ってましたか?」
「私は竜さまにいろいろお話を伺っていたからな。自身で思うこともあった」
「おお、すごい」
エステルの何でも見通せる目を見てると、前にどんな世界にいたのか聞いてみたくなる。
「おおー? なんだー? ニーノの悪口言ってんのかー? あたしもあたしもー!」
システーナがお膳ごとやって来て座る。
「悪口じゃないですよ!」
「そーだよ、ニーノちゃんにはたくさん世話になってるよー」
「病気治してもらったもんね!」
ルピタがきらっきらの笑顔で言う。
「それに、アラセリ。あの子は、ニーノに取り上げてもらった」
「とりあげる?」
首をかしげたルピタに、エステルは微笑む。
「お産の手伝いをしてもらったんだよ。プラシドも手伝ったな」
「うん。ものすごく大変だったよねー。エステル、すごいなぁ」
「キミは純粋だな。どれだけ昔のことだと思ってる」
何やら思い出して、目を潤ませたプラシドの頭をエステルがなでる。
「だってー、俺だったら死んでたよー」
「そうか。キミを守れて何よりだよ」
「エステルー!」
プラシドが大げさに感極まってエステルにすがりつく。
「相変わらず、おっもしれー!」
システーナがゲラゲラ笑い、ルピタも笑ってる。
うーん。何の設備も整っていないこの世界で、子どもを産むのはとっても勇気が必要だと思う。そうじゃなくても、子ども産むなんて痛くて嫌なのに、すごい。
「エステルさんは――」
どうして子どもを産んだのかな?
竜さま以外好きじゃないって言ってたから、プラシドの子どもがほしかったわけじゃない気がする。自分の子どもが欲しかったのかな?
「いつからシスと知り合いですか?」
口から出たのは違う質問だった。
「いつだったかな? ドミティラは生まれていたと思うが」
システーナがにやっとした。
「ドミティラが生まれたばっかりの時だぜ。なー、カジョ?」
「は? なんだ?」
急に話を振られたカジョが、ご飯を食べながらきょとんとする。
「あたしはさー、お泥さまのことをニーノから聞いて、そんで会ってみてーなってこの座まで来たんだよ」
「――え? 一人で?」
頷くシステーナにぽかんとした。
竜さまの座を出て、砂漠を越えて、お泥さまの座に入って、あの裂け目を越えてきた……?
システーナ、すごいな。
「お泥さまの座は竜さまの座と全然違げーだろ? 何が食えるのか分っかんなくてさー」
カジョが声を上げて笑った。
「ああ! そうだったなー! 俺が倒れてるシスを拾ったんだ。それで、慌てて座に連れて帰って」
「私が手当てした」
「おお、シス、行き倒れ!」
「なー? ガイオのこと、笑えねーぜ!」
言いながら、ゲラゲラ笑ってる。
エステルが目を細めた。
「危ないところだったよ。毒のある草を食べていたんだ。カジョの足が速くてよかった」
「見つけたのが俺で幸いだったな。こんなでかいの運べるのは俺くらいだ」
「はっはー、その通りだ!」
こっちに来たカジョの肩を叩いて、システーナは笑う。笑い事じゃない。システーナはお泥さまの座に来てもいちばん大きいから、カジョじゃないと本当に運べなかったはず。
「カジョと、あとはラミラのおかげだなー。感謝してっぜ」
「ラミラ?」
知らない名前に首をかしげた。ルピタも目をぱちぱちしてるから、知らないみたい。
「ラミラはドミティラの母だ。ドミティラを産んでから、なかなか元気が戻らなくてね。あの頃カジョは、ラミラのために毎日のように果物を取りに行っていた」
カジョが優しく笑う。
「座の近くでは取れなくなってたから、遠出するようになってな。そうじゃなければ、シスを拾うこともなかった」
「おお……」
ルピタがまっすぐカジョを見てる。
そうだ。ドミティラのお母さんはなくなってる。ラミラのことを聞くのは、ルピタも初めてなんだ。
「あたしはさー、毒で腹ぁ壊してこの世界に来ていちばんつれーときに、ラミラが隣で寝てて、励ましてくれてたんだよ」
おー、病院の大部屋みたい!
「ラミラさん、どんな人でしたか?」
「めっちゃ明るかった」
おお、意外。
「快活だったよ。冗談が好きで。カジョが果物を持って来てくれるのをとっても喜んでた」
エステルがゆったり笑う。
「そういえば、シスに何か技を教えていただろう?」
「技ってほどじゃねーけど」
「お!」
「わ!」
システーナの腹話術だ!
そんな由来があったなんて!
「げ! シスができるのか! 俺は全然できるようにならん」
「はっはっはー」
悔しがるカジョに、システーナが腹話術で笑って見せた。
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