10.すばらしい相談役
ルピタと広場に駆け込むと、両手を上げて歩く大きな人影に出会う。
「ジュスター!」
振り返ったジュスタが、蜂蜜をとけさせた。
「やあ、幸せちびさんたち」
幸せちびさんと呼ばれた二人で顔を見合わせる。
「ふっふー! りゅーさまたちと遊んで幸せ!」
「しーえー」
頭の上で上がった声に、ジュスタは視線を上げ、にこっとした。
「ロペ!」
ルピタがぴょんっと跳ねる。ロペを肩車して、ジュスタはいつもより大きい。ロペの脇をしっかり抱えてるから、まるで頭を抱えたポーズになってる。
「ントゥが竹に慣れないみたいで、ロペも一緒にお散歩してたよ」
視線をたどると、ントゥが跳ね回ってる。ぽーんと高く上がった後、地面をぐるぐる疾走する。確かに毛がふくれて不機嫌そう。ほやーっと眺めてたら、残照が地面にきらっと映えた。
「お、ペロです」
ペロも地面を走っていて、場所によってきらっと空の明るさを反射する。
「ントゥ、ペロ! そろそろ帰るよ」
声をかけられて、ペロはジュスタの足下までやって来て、ぐるぐる回る。
「う、うわー、速ーい!」
駆け回るペロにルピタが目を白黒させる。触りたいけど、どうしようか迷ってるみたい。
「ントゥー!」
戻って来ないントゥを呼ぶ。ントゥは遠くの赤土の上で、こっちをじっと見たけど、毛づくろいを始めた。
「んー、まだ落ち着かないかな」
「先に戻りますか?」
ジュスタを見上げる。ロペにくるくるの髪を引っ張られても気にしてない。
「あの子――ントゥ? 小さいからワニに食べられないかな?」
「なんと! ワニ!?」
「あ、柵の外に出なかったら大丈夫だよ! でも、柵とか分かるかな?」
確かに、ントゥには柵なんて関係ないかも。
「エーヴェ、お骨さまは?」
「ん? りゅーさまが後で水から出ますから、お骨さまもきっと来るよ」
「じゃ、大丈夫かな」
ジュスタがにこっとした。はっと気がつく。
「そっか、ントゥはお骨さまの側が落ち着きます。柵の外行かないです」
「そーなの?」
「そーです! ントゥはお骨さまの付き人です!」
「へー――! すごーい!」
「じゃ、ントゥ! エーヴェたち行きますからね!」
つんとしてるントゥを置いて、歩き出す。
「みんな丸い屋根の家にいますか?」
「たぶんね! きっとごちそうだね!」
「ほわー!」
ルピタとぴょんぴょん跳ねる。
「るー――!」
「おっと、ルピタのほうに行きたいかな?」
ロペが短い腕をルピタのほうに伸ばしてる。
ルピタが両手を伸ばしたので、ジュスタがロペを手渡した。
「おお、ロペ、大きくなりました」
前も普通に抱っこしてたから、首は座ってたんだろうけど、今は言葉も話してる。「るー」はたぶん「ルピタ」。
「ちょっと歩けるよねー! ロペー!」
「ねー」
「おおー!」
ロペが話せることもだけど、ちゃんと抱っこできるルピタもすごい。
テーマイとかイコとか、子どもには会ったことがあるけど、世話はしたことがない。いかにも弱そうな赤ちゃんは、どう接していいのかよく分からない。
「ロペ、エーヴェだよ!」
あいさつすると、ロペはこっちを見る。
「エーヴェちゃんだよー!」
ルピタも紹介してくれたから、きっと分かったと思うけど、ロペは向こうを向いてしまった。
「ま、まっ!」
上下に体を揺する。
……うん、全然何考えてるか分からない。ペロは何考えてるか分からなくても、世話しなくていいからいいけど、赤ちゃんは世話しなきゃいけないから大変だ。
「エーヴェもこんな感じでしたか?」
ジュスタを見上げる。
「そうだね。最初はよく泣いてたよ」
「へー」
赤ちゃんだから当たり前な気もするけど、ちょっと不思議。転生してもやっぱり赤ん坊は赤ん坊なのか。思い返すと、あんまり記憶がない。自我がなかったのかな? 結局、新しい体になってもう一度成長していくんだから、前世の記憶とか関係ない?
「ジュスタはエーヴェが他の世界から来たの知ってます。変な感じしませんか?」
「どういうこと?」
「うーん、前の世界でエーヴェは大人でした。そして、赤ちゃんとして生まれてます」
どう言えばいいだろう。赤ちゃんの体に大人の記憶が入ってたら、私はちょっと不気味な感じがする。例えば、おむつ交換でも介護するような気まずさを感じそう。
「大人なのに、赤ちゃんとして世話します」
でも、やっぱり赤ちゃんなんだから、世話されるのは当たり前。なんだか混乱してきたぞ。
「ああ、なるほど。確かにそんなふうに考えると変な気分だね。……ルピタ、重いだろ、代わろう」
ジュスタが手を伸ばして、ルピタからロペを受け取って抱っこする。
「でもさ、赤ん坊ってずっと親を見てるもんだよ。そういう意味では中身が何でも変わりないかな」
思わず、首をかしげる。
「うーん、俺たちは前の世界のことをたくさん覚えてて、たまたまこの世界で役立つ知識があるから、一足飛びに進んでるような気持ちでいるけど、前の世界の記憶がない……つまり、前の世界での俺みたいな赤ん坊は、親から世界のことや世界で自分がどういう存在として生きるか学び取っていく。どういう視点にせよ、親――育てるって立場は見られるものじゃないかな」
「なるほど!」
ジュスタは前の世界でも、そんな考え方で子どもを育ててきたのかな?
「前の世界の記憶があるって、だから、いいところも悪いところもあるよね。前の世界とジョーシキが全然違う世界だったら、本当は感じなかった苦痛を感じることもあるかも?」
「お?」
ルピタの言葉にビックリする。そうか、そういえばルピタもどこかから転生してきたんだもんね。
「たとえば、歯を抜くことがすごい名誉な世界に生きてて、そうじゃない世界に記憶があるまま生まれ変わったら、歯を抜かれないことがすごく悲しくて、みんなに大事にされてないって思っちゃうかもしれないもん」
「そうだね!」
「私たちは落っこちるからいいけど、親から生まれたら大変だと思わない? だって、前の世界の両親のことと今の世界の両親のこと、どっちを親だって思うんだろう?」
「ふわー! 確かに!」
とってもややこしい。
もし似たような世界で、役立つ知識をたくさん持ってて、ジュスタが言うみたいに一足飛びに何かができたとして、転生した世界の親に対してどんな気持ちを感じるんだろう。劣った人間だと思う? 新しく生まれ落ちたのに、世界のことも遅れた物だと考えて自分の知識をひけらかすのかな? まるで植民地みたい。
「むー、エーヴェ、ちょっと心配……」
空飛ぶ船や絵を描くことが急に良くないことに思えてくる。
「え? エーヴェちゃん、なんで心配なの?」
「エーヴェ、前の世界のジョーシキ、いっぱい使ってます」
「……あっはははは!」
ジュスタが急に笑って、頭をなでてくれた。
「それを心配するなら、俺のほうが問題だな。――大丈夫。俺たちは竜さまの付き人で、竜さまと相談できる」
「――おお、そうでした!」
みんなで相談して、いろいろなことをやってきた。
問題が起きそうになったら、相談して違うやり方を見つけられるんだ。
その上、竜さまとも相談できる!
エーヴェは、嫌いな人間にはならなくていいのです。
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