8.名誉タイム
ずいぶん間が開いて、申し訳ありません。
ルピタが漕ぐ筏で、竜さまたちに近づく。
――お? これは見たことがないのじゃ。
お骨さまが首をかしげて、羽をバタバタする。筏を見るのが初めてなのかも?
よく見せてあげようと思ったのか、お泥さまが近づいてくる。
「竜さま!」
「おどろさま!」
ルピタと一緒に手を振った。
――これは筏なのじゃ! 船と同じで水面を進む物なのじゃ! 砂の上ならば、そりが似ておるのじゃ!
おお、お屑さま、物知り。
――そり?
――友が水面を滑るように、地面の上を滑るのである。
竜さまは水に頭をくぐらせて、持ち上げるのを繰り返しながら答える。水の感触を楽しんでるみたい。
――ルピタもわしの上、滑る。エーヴェも。
「おお!」
おっとり返ってきた言葉ににっこりした。ひなたぼっこしてるお泥さまの上を、ルピタと滑った。
……でも、そりとは違うかな?
――おお! わしも泥の上を滑るのじゃ。
――ぽ! 泥、骨を止めるのじゃ!
お骨さまがつるんと滑って、盛大に水面でひっくり返った。
――友よ、羽の布がぬれておる。動きにくくなるぞ。
お骨さまは首をあげて、口を開ける。
――本当なのじゃ。羽が上がらなくなってしまったのじゃ。
布が水面にひっついてるのか、お骨さまは羽をケガした鳥みたいな動きになってる。
「お骨さま、大丈夫ですか?」
――うぼぼぼ! ぼがぼが!
何か、変な声がする。
「……あ、お屑さま!」
そういえば、お骨さまの羽の先っちょにくっついてたお屑さま、水の中だ。
「大変!」
ルピタが筏から飛び込んだ。ぐいぐい泳いでいって、お骨さまの羽の先から腕輪を取る。
「お屑さま、大丈夫?」
――ぽはっ! ルピタ、誉めてやるのじゃ! よくやったのじゃ!
「えへへー」
お屑さまがぴこんぴこんして、水しぶきを振りまいた。
「お骨さま、失礼いたします」
「わ! ニーノ」
さっきまで気配もなかったのに、ニーノが空中にいる。
縄の結び目に手を掛けると、一瞬でほどいた。ぬれててもほどけるなんて、優秀。
――軽くなったのじゃ。さすがニーノなのじゃ。
「いえ、早く気がつくべきでした」
ぬれた布を巻き取ると、さっと飛んで行ってしまった。
……乾かすのかな。
――泥、うっかり。面白い。
すいーっとお骨さまの下に戻ってきたお泥さまが言う。
――わしは骨ゆえ、うっかりなのじゃ。
きょきょきょきょきょ……
あの音が響き渡る。今度はひっくり返らずに済んで、お骨さまはぱかんと口を開けた。
――うっかり、うっかり。
――おおー! 速いのじゃー!
お泥さまの背に乗って、お骨さまが水面を動き始める。水しぶきを上げて楽しそう。
――うむ、やはり水の中では泥にかなわぬ。
ずんっと動いた竜さまが、金の目をパチパチした。
――皆、得手不得手があるのじゃ! 泥は水が得意で、山は沈むのが得意なのじゃ。ぽはっ!
――沈むのが得意なわけではない。
竜さまは耳をぴるぴるっと振るわせた。
「お屑さまは水が苦手ですか?」
ルピタが筏に戻ってきたので、腕のお屑さまに聞いてみる。
――痴れ者め! わしには苦手なものなどないのじゃ!
「え? でも、ぼがぼがしてましたよ」
――水の中では何者もうまくしゃべれぬのじゃ! 当たり前なのじゃ!
――我らの話し方は、水の中でも支障ないであろう。
鼻をあげて、竜さまは目を細めてる。なんだか珍しい顔。
「なんと、お屑さま遊んでます」
――何を言うか! 皆、水の中ではボコボコ言うのじゃ!
お屑さまはぷりぷりしてる。
もしかしたら、お屑さまは雰囲気重視なのかな?
――友ー! 遊ぶのじゃ。
すばーっと波を立てながら、お骨さまが戻ってくる。
――皆、何してる? 泳がない。
お泥さまがゆったりまばたきした。
「竜さま! 泳ぎます!」
ルピタは叫んで、軽やかに筏から水中に飛び込んだ。
お泥さまの側に行きかけて、振り向く。
「あ、エーヴェちゃん! ちゃんと泳げるよね?」
「ふっふー!」
ぴょーんと飛び込んで、二、三回腕を動かし、ルピタを振り返る。
ルピタがにーっと笑って、手で〝むきっ〟とポーズを取った。
私も同じポーズを返す。
――おお。エーヴェ、泳げるのか。
竜さまがびっくりしてる。
「そうですよ! りゅーさま、見てみてー!」
竜さまを一周する。金の目がじっとこっちを見てくれるから、嬉しい。最後に、竜さまの首にしがみついた。
「どうですか! エーヴェ、すごい!」
――うむ。うむ。すごいのじゃ。泳げるとは大した物である。
「おお! エーヴェ、大した物!」
とっても嬉しい!
「エーヴェに泳ぎを教えたのは、タタンなのです!」
――うむ。良き友を得たのじゃ。
竜さまに見られて、ルピタがちょっと緊張した顔になる。
「りゅーさまも泳ぎを習うといいです!」
竜さまは首を傾けて、耳をぴるぴるする。
――ふむ。しかし、ヒトと竜は形が違うので泳ぎも違うであろう。
――ぽはっ! 山は沈むゆえ、無駄なのじゃ! ぽはっ! 歩くだけなのじゃ!
首に登ろうとしたけど、鱗がつるつるして意外と難しい。たてがみをつかんで何とか体を持ち上げた。
「え、エーヴェちゃん! お山さまに登っていいの?」
そうか。ルピタがお泥さまに登るのは泥がついてるときだけだもんね。
「いいですよ! エーヴェはりゅーさまに登って、強くなりました!」
「ほえー!」
――うむ。ルピタも登ると良い。
ルピタは恐る恐るって感じで竜さまの首に登る。
「おおー! 高ーい!」
上手に竜さまの頭の上に来て、ルピタは歓声を上げる。半分水中に沈んでるから、そんなに高くないけど、ルピタは竜さまの角をしっかりつかんでる。
「エーヴェちゃんが言ってたの、本当だね! お山さまは大きいね」
「そーだよ!」
誇らしくて、竜さまの頭の上で「りゅーさまは偉大」を歌った。
書いてる途中でPCが強制終了して、今日の更新もできないかと心配しました。
全然なにも進んでませんが、竜さまとしばらく遊びます。
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