7.夢の共演
「おどろさま、飛んでましたよ」
「お――、おお! 竜さまはすごーく怒ったときとすごーく嬉しいときに飛ぶんだよ! エステルが言ってた!」
ルピタがぴょんぴょん跳ね上がる。興奮で、きらっきらしてる。お泥さまの座のみんなも、ほわーっとなってる。
エステルだけが誇らしげ。
「皆さまがお出でになると伝えたとき、水脈が一面輝き、今はハスが咲き乱れています」
「おおー!」
おどろさま、とっても嬉しかったんだ!
――むう。修まらない。
目をパチパチするお泥さまを、お骨さまが頭を傾けてのぞき込む。
――おさめるとはなんじゃ? 賑やかでとっても楽しいのじゃ! 泥の座はとても良いところなのじゃ。
嬉しげにバタバタ羽を振ってから、お骨さまはようやくからんからん音がするのに気がついたみたい。熱心にバタバタしはじめる。
――骨! うるさいのじゃ! 泥は気持ちで周りを変質させてしまうのじゃ! ゆえに、水の底で気を修めておるのじゃ! 殊勝なのじゃ!
お泥さまが薄く口を開く。
――屑もいる。久しぶり。
――久しぶりなのじゃ! 泥は相変わらず、ぬぼーっとしておるのじゃ! じゃが、今回は、お主の飛ぶところが見られたのじゃ! ぬぼーっと飛ぶのじゃ! ぽはっ! とっても珍しいのじゃ! ぽはっ!
ぴこんぴこんするお屑さまをじーっと眺めて、お泥さまはまたゆったりまばたきする。
――うん。こんなにお客、珍しい。嬉しい。
複数の溜め息が重なって、おやっと周りを見る。
お泥さまの座のみんなが、感極まって息をついたみたい。
みんな幸せそう。
――良きことである。変質は竜を傷つけることはない。今は、無理に修めることもなかろう。
首を持ち上げた竜さまを見上げて、おどろさまはまた、ちょっと浮く。
――ふわふわ。
エステルがプラシドに目配せした。
プラシドが太鼓を再開する。
幸せにうっとりしてたみんなの顔が変わる。
弦が誇らしげに、伸びやかに鳴った。
――ぽ! 良い波なのじゃ!
お泥さまの光みたいに、竹琴がやわらかく合わさっていく。
――音じゃ。踊るのじゃー。
お骨さまがひょいひょい跳ねて、一気に広場が活気づいた。
結局、お腹空いて倒れるまで踊りと曲は続いた。笹に巻かれた炊き込みご飯が配られて、みんな休憩。
陽脚をさえぎる草葺き屋根の下で、竹の冷たさを感じながら寝っ転がる。
跳ね回ってくたくたになった足に、竹の固さが気持ちいい。
竜さまたちは水辺で遊んでる。お屑さまも一緒に遊びたかったみたいで、今はお骨さまの羽の先に腕輪でくっついてる。
――山、沈む。
――うむ。
岸からすいーっと離れたお泥さまを追って、竜さまは水に入ったけど、半分くらい体が見えなくなった。
――ぽはっ! ぽはっ! 滑稽なのじゃ!
――わしも行くのじゃ。
お骨さまが、口をぱかっと開けて追いかける。もちろん、足はかしゅかしゅして、滑る。お泥さまが無言で先回りして、止めた。
――おお!
――骨、軽い。乗せる。
――おおお!
お泥さまの背中に乗せられて、お骨さまは水面を颯爽と動き出す。
――ぽはっ! 速いのじゃ! 泥は水の中では速いのじゃ!
お骨さまの羽の先でパタパタしながら、お屑さまはご機嫌。
――ふむ。わしも行くのじゃ。
竜さまも追いかけるけど、ゆっくりどっしりしか進まない。結局、首と羽の先だけになった竜さまの周りを、お泥さまに乗ったお骨さまがぐるぐる回る。
――友ー! 泥はすごいのじゃー! 砂漠を行くようなのじゃ。
お骨さまは尻尾をうねうね揺らし、ばっと羽を広げた。
――なんと! 骨ー! この愚か者!
お屑さまの声とともに、お骨さまは吹き飛ばされて水面に落ちた。
「お骨さまー――!」
思わず叫ぶ。
でも、すぐにお泥さまが助けてくれたみたい。
――骨、うっかり。
――泥は親切なのじゃ!
お骨さま、嬉しそう。羽をまた広げて、ひっくり返りそうになる。
――危ないのじゃ! まったく! 骨は頭が軽いのじゃ! 何度吹き飛べば学ぶのじゃ! 羽を広げるのは飛ぶときだけでよいのじゃ!
お屑さまが怒ってる。
水に沈んだまま、竜さまはばっばっと笑った。
――うむ。なんとも愉快である。
「うふふー」
顔が自然にゆるむ。
「エーヴェちゃん、竜さまたち仲良しだね!」
隣で柵に足を放り出して寝っ転がってるルピタが、顎をあげてこっちを見た。
「はい! とっても仲良しです!」
二人でひっくり返ったまま話す。
「エーヴェちゃんから聞いたとき、骨だけの竜さまって想像できなかったけど、すっごく楽しい竜さまだね!」
「そうなのです! お骨さまは愉快!」
「踊りがとっても上手!」
「うぉほっほを発明したのはお骨さまですよ!」
「お屑さまもいっぱい話してすごいね! 竜さまの十倍くらい速いね!」
「ふっふっふ! そうです! お屑さまはぴこんぴこん!」
特にお泥さまはゆったりだから、お屑さまとは正反対。
「お山さまは素敵だね! すごくきれいでかっこいいけど、うーんと、気持ちが広ーい竜さまだね!」
一瞬、言葉に詰まった。
「そうなのです! りゅーさまは偉大!」
「あっはっは! エーヴェちゃんの口癖!」
ルピタと竜さまのことを話せるのが、とっても嬉しい。
「お泥さまも偉大!」
「そうだよ!」
ルピタ、声が本気。
「竜さまはみんな偉大です!」
「うん! 会えて嬉しいね!」
「うん!」
二人で同時に跳ね起きて、竜さまたちのところへ駆け出した。
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