6.ゆかいな踊りで足が浮く
竹垣の向こうの高い建物から手を振ってたのはマノリトで、戸を開けたのはナシオ。
「わー――! ナシオ! マノリト! 久しぶりです!」
ナシオは力強く頷き、手すりからひらっと飛び降りたマノリトがにこにこする。
「ひ、久しぶり、エーヴェ」
懐かしい!
みんなの短い髪も、高床式の建物がいくつもつながってるところも、赤土も、鳴り竹の音も。
「エーヴェ、帰ってきた気分!」
「そいつはいいな。だが、ここで止まるな。広場まで行くぞ」
カジョに追い立てられて、ルピタときゃいきゃい広場まで走る。
赤土の上の明るい筋に気づいて顔を上げた。渡り廊下の床越しに光が降り落ちてる。とってもきれい。
ずう……ん
「お! りゅーさま!」
竜さまは竹垣や建物を壊さないように、少し飛んだみたい。地響きとともに、広場に降り立って羽をたたんだ。
足下に駆け寄る。違う景色の中にいる竜さまが見られて、ほくほくだ。
「お、お山さま、大きい」
マノリトが、黄緑色の目をいっぱいに開いてる。ナシオも、ほうっと見上げる顔。
うっふっふー! みんな、竜さま初めて見ます。
――友ー!
「おおー!」
お骨さまがひょいっ、ひょいっと建物の屋根を伝って広場に向かってくる。スケールだけ見ると、お骨さまが建物を踏み潰しちゃいそうだけど、大丈夫。
――うむ。うまく入れたな、友よ。
――うむ! うまくいったのじゃ。
お骨さまが羽を振るから、風で鳴り竹が一斉に鳴った。遅れて広場にやってきたエステルたちも、鳴り竹の音を眺める。
それが合図みたいに、太鼓の音が鳴り始めた。
水色の髪――ドミティラだ!
脇に抱えた太鼓を鳴らしながら、渡り廊下を歩いてくる。たたく間に放ったバチを、プラシドが受け取った。
「おお!」
いつの間にか大きな太鼓が準備されてて、プラシドが打ち鳴らす。
「……あ、あのときと同じです!」
エステルの手術が終わって、ニーノが何かを頑張ってたとき。
プラシドは一定のリズムで、強く太鼓を打ち続ける。
――おお! 良い波なのじゃ! よいぞ! よいぞ!
ぴこんぴこんするお屑さまに、ルピタがぱっと笑った。
次にやってきたのは弦の響き。
カジョとハスミンとカンデが、競うように弓をひく。
マノリトとナシオは竹琴を叩き、琴みたいな大きな弦楽器を演奏してるのはノエミ。隣でフィトが膝の上の子どもを揺らして、手を打つ。
……あ、ロペだ!
すっかり大きくなったロペが、分かったような分からないような笑顔で手を叩いてる。
「お山さま、お骨さま、お屑さま、竜の付き人、それから只人――ようこそ、竜さまの座に」
エステルが言い放つ。
しゃらしゃらじゃらん……
アラセリが貝を連ねた楽器を振った。
散る音までキラキラしてる。
音が一気に熱を帯びた。ルピタが飛び上がって踊り出し、一瞬ぽかんとしたお屑さまがすぐさまぴこん、ぴこんと一緒に動く。
エステルがゆったりとルピタの踊りに加わった。
「うーわー――――!」
エステルの踊りは初めて。軽やかなルピタと対照的に、どっしりしてる。指先から足先まで力がみなぎって、かっこいい。
腰を落とし、地面を浮いた足でなでるように、ゆったりと回転する。
まるで星の真ん中とつながってるみたい。
しばらくすると、他のみんなが踊りの輪に飛び込んできた。エステルは引く。音も変わって、見る踊りから楽しむ踊りになっていく。
嬉しくなって、ぴょんぴょん跳ねた。
「エーヴェちゃん!」
「タタン!」
ルピタに呼ばれて、輪の中に飛び込む。
明るく笑って、システーナが高く飛び上がり、くるくる体をひねって降りてくる。
「わーお!」
「おおー!」
さすが、システーナ!
――ぴょーん、ぴょーん、楽しいのじゃ!
お骨さまが踊り出し、ジュスタもステップを踏む。ペロが足の間を駆け巡って、ントゥも飛び込んできた。
ニーノは竜さまの隣で後ろ手組んでるけど、ちょっと優しい顔。
竜さまは首や尻尾を揺らしてる。
うっふっふー!
「おわ、なんと!」
カジョに手を引かれて、ガイオが輪に引き込まれてきた。
「俺は分からんぞ!」
肩を怒らせるガイオの動きを真似して、カジョはそれをコミカルな踊りに変えていく。
いつの間にか、ガイオは跳ねて、二人は鏡写しのダンスを踊ってるみたいになった。スーヒがぴゃっと鳴く。
二人の動きを真似してみんなが踊るから、なんだか厳つい踊りになってる。
「あははー! 面白いです!」
――ぽはっ! 良い波なのじゃ! 満ちるのじゃ! ぽはっ!
ルピタが伸ばした腕の先で、お屑さまがふわふわしてる。珍しい動きで、びっくり。
――皆、とっても楽しいのじゃ。賑やかなのじゃ。
お骨さまが尻尾を中心にぐるん、と回る。
久しぶりのブレイクダンス!
お泥さまの座のみんなはどよめき、歓声が上がった。
――いや、友よ。皆には足りぬ。
竜さまの声が響いた。細めた金の目が後ろを振り返る。
お泥さまの水脈に続く水辺。
「竜さまー――」
エステルが叫んだ。
「竜さまー――――!」
みんなが一緒に叫ぶ。
しばらく経って、さざ波が立った。岸に近い水面がむわっと盛り上がる。
現れた大きな黒い頭。顔の横の小さな目が、ぱちりと瞬いた。
足からびりびり震える。
「おどろさまー――!」
ぴょんぴょん跳ねたけど、お泥さまはまた、むわんと水の中に潜った。
「あれ?」
「りゅー――さまー――――!」
ルピタがもう一度叫ぶ。
「おどろさまー――――!」
私も叫ぶ。
――ふわふわ。
声が聞こえた。
またお泥さまがむわんと顔を出す。水面が大きく揺れて、お泥さまが岸に上がった。のたのたと体を揺らしながら竜さまのほうに近づいてくる。
「――んぁ?」
お泥さまの足元を見て、声が出た。
水や泥や水草がしたたり落ちる足は、地面に接してない。ちょっと浮いてる。
お泥さまが立派な尾を揺らすと、少し高く浮かぶ。といっても二メートルも飛ばない。
ふわふわっと竜さまの側に寄って、すうーっと地面に降りた。
――ふわふわ。
――ぽはっ! 泥が浮いておるのじゃ! とても愉快なのじゃ!
お屑さまが大興奮でぴこんぴこんする。
――皆、よく来た。
お泥さまは、ゆったり瞬く。
竜さまがばたばたと羽を揺らし、お泥さまの頭の上に頭をのせた。
――泥よ、久しぶりである。
――泥ー! はじめましてなのじゃ。
お骨さまもばたばたして、鳴り竹がからんからん揺れた。
お泥さまの足についた泥が、ほわんっと光る。
――たくさん、よく来た。
お泥さまはもう一度、ふわんと光った。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




