4.人見知り組
「おお! そういえば、りゅーさま、エステルさんと会ったことあります!」
ぴょんぴょん跳ねる。
竜さまはニーノと一緒に旅したときに、お泥さまの座に来たことがあるはず。
――うむ。以前のことだ。すっかり緑が濃くなった。
竜さまが首を高く上げて景色を見回す。
竜さまが見た景色はどんな感じだったんだろう。想像しながら、一緒に見回した。
「竜さまのおかげです」
プラシドがエステルに同意を求めるように目配せする。エステルはゆったり頷いた。
「ずいぶん暮らしやすくなりました。お山さまにもお目にかけたい。きっと驚かれます」
……うーん、何だろう。エステルに風格みたいなのを感じる。
ニーノもエステルも座の中心人物なのは間違いないけど、エステルは人をまとめる雰囲気がある。私でも、気がつくと眺めちゃってる。ルピタがエステル大好きになるわけだ。
――エステルもプラシドも、回復したようで何よりじゃ。
二人とも軽く頭を下げる。
「ニーノを貸していただき、ありがとうございました」
竜さまは一つ瞬いてニーノを見た。
――ニーノは物ではない。ニーノの気持ちで動いたのである。わしに感謝することはない。
ニーノがちょっと目を細めた。
うふふー、竜さまは偉大!
――友ー!
お骨さまが竜さまに駆け寄って、首をぶつける。
――やっと歩けるのじゃ。水の上は大変だったのじゃ。
――うむ。友は浮かぶのだから、座って船に引かれると良い。
お骨さまは首をかしげる。
――ぽはっ! 座ってもダメなのじゃ! 骨は骨ばかりゆえ、安定せぬのじゃ! 鳥とは違うのじゃ! ぽはっ!
お屑さまが笑い飛ばす。お骨さまがカモみたいに水の上に浮かんでたら、とっても素敵なのに。
――おお! 船と走るのは楽しかったのじゃ。何もせずとも進むのじゃ。また、遊ぶのじゃ。
お骨さまが尻尾をうねうね動かした。やる気いっぱい。対照的に、頭の上ではントゥが耳の後ろをかいてる。
「賑やかだな。こんなにたくさん来るとは思わなかった」
カジョがントゥを見上げながら歩いてくる。みんな、竜さまたちが仲良くしてる光景に見入ってるみたい。
「あのっ、あのっ、おくずさまの腕輪、私、付けてもいいですか?」
ルピタがたたっとシステーナに駆け寄って、頭を揺らしながら聞いた。
「あー、あたしじゃねーんだよな。お屑さま、いーよな?」
――ぽはっ! もちろんよいのじゃ! 光栄に思うのじゃ!
お屑さまはとっても威張ってる。
腕輪を受け取って、ルピタは目をキラキラさせた。
「よかったね、タタン」
「うん! お屑さま、初めまして! 私、ルピタです。どうして腕輪についてるんですか?」
――うむ! 初めてなのじゃ! わしが身が軽いゆえ、腕輪にかぎ爪をかけ、ここに留まっておるのじゃ! 腕輪をつけることは、たいへんな名誉なのじゃ! 心せよ! およ? なぜ童はタタンと呼ぶのに、名がルピタなのじゃ? じゃが知っておるのじゃ! お主はこの座で二番目に幼いのじゃ! いちばん幼いヒナは、最近言葉をしゃべったところなのじゃ!
お屑さま、とってもいつも通り。
「おおー! ロペ、しゃべりましたか!」
「すごい! なんで知ってるんですか?」
――わしではないが、わしが聞いたのじゃ! わしは世界中におるのじゃ! む? 無礼なのじゃ! お主、質問に答えておらぬのじゃ! 人間の名が二つあるのか?
ルピタが慌てて背筋を伸ばす。
「名前はルピタです。タタンはエーヴェちゃんが呼ぶ名前」
「エーヴェがつけました!」
にこにこ視線を交わす。
「お骨さまがお屑さまをたくさんって呼ぶよーなもんだろ」
システーナが適当に説明した。
――なんじゃと! わしはたくさんではないのじゃ! お屑さまなのじゃ! 童はタタンなどと呼ばぬのじゃ! ルピタはルピタなのじゃ!
「おお……ルピタはタタンはいやですか?」
「いやじゃないよ!」
――なんと!
お屑さまがびっくりして漂う。
「ほーら、お屑さま。たくさんもお屑さまの名前みてーだぜ」
――そんなわけはないのじゃ! シスがわしをたばかっておるのじゃ! むむ! おかしいのじゃ! むむ!
「いやなら名前じゃないですよ、お屑さま」
悩んでるお屑さまに、ルピタがにっこりする。
――おお! そうなのじゃ! 聞いたか、シス! たくさんはわしの名ではないのじゃ!
活気づいて、お屑さまがぴこんぴこんした。
――友、たくさんがまた騒いでおるのじゃ。楽しそうなのじゃ。
間が悪く、お骨さまが首を突っ込む。
――友よ、屑はいつも通りである。
――骨! わしはたくさんではないのじゃ! む! ルピタ、口を閉じるのじゃ!
初めて話が渦を巻くのを見たみんなは、ぽかんとしても仕方ない。
――童も口が開いておるのじゃ! うかつなのじゃ!
慌てて口をむいっと閉じた。
「さて、旧交を温めるのは座に戻ってからにしようか」
エステルの穏やかな声が響いて、みんな顔を上げる。
「おお! おどろさまに早く会いたいです!」
エステルが微笑んで頷く。
「集落までは少し歩く。必要な物があったら出してくれ。運ぶのを手伝う」
ジュスタとシステーナが作業に動き始める。ハスミンが足早にジュスタを追って、隣にならんだ。カジョも続く。
「ねーねー、エーヴェちゃん、あれ何?」
ルピタがぴょんぴょん近づいてきて、囁いた。
「どれですか?」
「なんかね、あの葦原でごそごそしてるよ」
近づいてみると、ペロが葦原を探検してた。葦の穂を飲み込んで、ぶわっと一気に綿毛を吐き出す。
「わ!」
「ペロー!」
――水玉なのじゃ! 奇っ怪な赤子じゃが、何の害もないのじゃ!
「赤子?」
きょとんとしてるルピタにペロを紹介した。水がたくさんあるからか、鉢をかぶらずにのそのそしてる。
「ふわー、変な生き物がいるんだね」
「他にもいますよ!」
周囲をきょろきょろする。スーヒを探したけど、いない。
「――あれ?」
「オサー何やってんだー――?」
素っ頓狂な声に続いて、システーナがげらげら笑うのが聞こえる。
声がする船の入口に向かうと、システーナがガイオとスーヒを引っ張って出てくるところ。
「うおー! やめろやめろ! 俺は出なくていいのだ!」
ぴゃっ! ぴゃ!
スーヒもあわれっぽい声で鳴いてる。
……何事?
――ぽはっ! 滑稽なのじゃ! 巣穴から出たくないのじゃ!
「そうなの?」
「ガイオさん、俺たち以外の人と会うの、初めてなんだと思うよ」
荷物を運んできたジュスタが眉を下げる。岸に置いて船に戻ろうとして、ガイオがシステーナに放り出されるのを見守った。
「――なんと! ガイオサ、人見知り!」
「うるさい!」
ガイオはふくれっ面であぐらをかいた。
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