3.再会
「お骨さまー!」
ぴょんぴょん跳ねると、お骨さまがくわえて岸に降ろしてくれる。慌ててハーネスを外した。簡単着脱、すごい!
ルピタに駆け寄ろうとしたけど、岸の様子に足を止めた。
出迎えのみんなは、お骨さまをほわーっと見上げてる。
「お骨さま、お久しぶりです」
エステルが前に進み出る。お骨さまは頭を傾け、エステルに顔を寄せた。
「――エステルです。これは、プラシド」
歩み出ようとするプラシドの手を取って、隣に立たせる。プラシドはふわーっと笑ってお骨さまを見上げた。
「お骨さま、俺たちの住み処に来てくれるなんて、とても嬉しい」
お骨さまはまた頭を傾ける。ばっと羽を広げた。
――分からぬ! 今、覚えるのじゃ。エステルとプラシドなのじゃ!
「光栄です」
エステルは肩越しに後ろを振り返った。
「竜の座の者です。カジョ、ハスミン、ルピタ」
それぞれちょっと緊張した顔であいさつした。
お骨さまはかぱっと口を開ける。
――カジョ、ハスミン、ルピタ、……エステル、プラシド、初めましてなのじゃ。一、二、三、四、五! 五なのじゃ。エーヴェもおるのじゃ。たくさんなのじゃ。泥は付き人がたくさんなのじゃ。
お骨さまがひょいひょい跳ねたので、一緒にうぉほっほをする。
「あー、うぉほっほだー!」
ルピタの顔が輝く。
「そーだよ!」
両手を上げて同意すると、ルピタの黒曜石の目がキラキラした。
うぉほっほにルピタも加わって、お骨さまが嬉しそうにする。
――うぉっほ、うぉっほ、うぉっほっほー!
カジョとハスミンもいつの間にか加わってる。
「なんだなんだー?」
――また骨が遊んでおるのじゃ! シスも加わるのじゃ!
停泊の作業を終えたシステーナとジュスタも加わる。ペロまでぺちょっとしてて、大うぉっほっほ会だ。
――楽しいのじゃ! 泥の座は賑やかなのじゃ。
お骨さまが尻尾をうねうねさせて、頭をカタカタ揺らす。その上では、ントゥがとーんとーんと跳ねてる。
「わー! かわいい!」
――うむ! そうじゃ。わしの付き人のントゥなのじゃ。
ルピタが手を振ったけど、ントゥはつんとしてる。
「シス! ジュスタ!」
ハスミンが明るい声で叫んで、二人に抱きついた。
「よー、ハスミン」
「久しぶり」
カジョもその輪に加わりに行く。ニーノは冷たい目で、エステルとプラシドを眺めた。
「だいぶ回復したか」
「八割方な」
「ニーノちゃーん!」
抱きつかれそうになって、ニーノがよけた。倒れそうになるプラシドの腕を、エステルがつかんで支える。
――ぽはっ! 皆、仲が良いのじゃ! 良きことなのじゃ!
お屑さまが珍しく普通のことを言った。
エステルが軽く首をかしげた。
「もしや、そちらも竜さまでは?」
「お? お屑さまですよ! 世界中にたくさんいます!」
システーナの腕でぴこんぴこんしてたお屑さまがエステルのほうを見る。
――うむ! わしは美しく軽い身体を持つお屑さまなのじゃ! 是非にと招かれたゆえシスの腕に留まっておるが、本来あまねく世界に漂っておるのじゃ! お主たちの住まいも知っておるぞ! 竹を組んだ中に住んでおるのじゃ! ぽはっ! 珍しいのじゃ! からんからん音をさせておるのじゃ! お主らは音が好きなのじゃ! ぽはっ!
みんなが注目してるから、お屑さまは得意げに話してる。
「素晴らしい。存じ上げずに失礼いたしました」
――ヒトは無知なのじゃ! わしのように世界の全てを知るわけではないゆえ、仕方ないのじゃ! ぽはっ!
頭を下げるエステルに、お屑さまはとっても寛容。
「お屑さまは、どうしてそんなにぴこんぴこんしてるんですか?」
――痴れ者め! 話すときには自然に体が動くのじゃ! む? なんじゃ、お主! 童のように口をぽかんと開けよって! 口を閉じるのじゃ!
ルピタにお屑さまはぴこんぴこん怒る。
「しかたねーよ、お屑さまは珍しーしよ」
うん。初めて会ったらみんなぽかんとしちゃう。
「逗留中はどうぞごゆるりと」
微笑んでるエステルのほうが例外だ。
すごく落ち着いてて、自然に眺めてしまう。
気づいたエステルがこっちに来た。
「やぁ、久しぶりだね、エーヴェ。――キミには助けられた」
手を差し出されて、嬉しくなって握手する。
「エステルさん、元気になりましたか?」
「あのときとは比べようもないくらいに」
紫の瞳がふわりと笑みを含んだ。ルピタがにこにこして隣に寄り添ってくる。
「キミが来ると聞いて、ルピタと楽しみにしていた」
「うっふっふー!」
「ふっふー!」
ルピタとにこにこ笑いかわす。
「エステル、すっごく元気になったよ! あとプラシドも」
「なになにー? 俺の話かなー?」
「プラシドは来なくていーよ」
「えー? 行くよー?」
足を軽く引きながら近づいてくるプラシドに、ルピタが意地悪を言う。でも、エステルは自然と手を差し出す。手を借りるプラシドの周りに、ぱーっと花が散るみたい。
ほわーっと口が開いた。
エステルがしっかり立って、プラシドがぽわぽわしてて、ルピタがにこにこしてる。
「何を呆けている」
ニーノが冷たい目で見てた。
「エステルさん、きらきらしてます! プラシドはぽわぽわしてます!」
これが元々のこの二人だったのかな。
「――だいぶ良くなったようだ。エステルは以前ほどではないが、自信を取り戻したな」
自信? そういう問題なのかな?
「あれは自尊心のかたまりだ」
「キミに言われる筋合いじゃないよ、ニーノ」
エステルが口角を上げて笑う。
「まぁ、今日を迎えられるのはキミのおかげだから大目に見るが……」
エステルが川のほうへ目をやる。
「あ! りゅーさまー!」
ざぶんざぶんと波を立てながら、竜さまがゆっくりとこちらに近づいてくる。
「竜さまの座に、三人も他の竜さまをお迎えできるとは」
「よかったね、エステル」
プラシドとルピタが同時に言って、エステルは笑う。
「まったくだ」
いろんな水草を引っかけて、竜さまが体を岸に持ち上げた。
ぶるんっとふるった首から水が虹になって落ちる。
白銀のたてがみがふわっと広がった。
「ようこそいらっしゃいました、お山さま」
エステルを金の目が見下ろす。
――うむ。ひさしぶりじゃ、エステル。
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