21.竜を治す
次の日には、システーナとジュスタが筋肉痛になってしまった。
「うわぁ、いてぇ、何やってもいてぇあっははは……たたっ」
システーナはぎゃーぎゃー騒いで、ちょっと楽しそう。
「だいじょうぶ、シス?」
「めっちゃいてー。久しぶりすぎて忘れてたぜー」
筋肉痛があるなんて、システーナも人間なんだなぁ。
――体があると、ときどきこうなるのじゃ! わしも本体はときどき痛くなったのじゃ!
ぴこんぴこんしながら、お屑さまはシステーナの様子を眺めてる。
「お屑さまも体が痛くなったりしますか!」
――わしはならぬ! 本体のときはときどき痛くなったのじゃ! 動くたびに痛いので難儀なのじゃ!
すごい、竜さまにも筋肉痛があるのか。
ジュスタは騒がないけど、動くときはぎくしゃくしてる。
ニーノの目が冷たい。
「貴様らがいなければ飛ばないようでは、飛べるとは言えん」
「はい……、そう思います」
ダメ出ししながら、ニーノは一応、手当てしてるみたい。ジュスタの腕や体に何かを塗りつけてる。システーナからも酸っぱいような辛いような匂いがするから、きっと手当てしてもらったんだ。
「もう少し作業が減るようにしないと――」
「ま、でも、一回やってみて、勝手が分かったなーいちちっ」
食堂のテーブルにみんな集まる。
朝食後、ガイオはスーヒと菜園に行ってる。スーヒはガイオの何が気に入ったのかよく分からない。干し草と食べるの好きで話が合ったのかな。
「舵の操作と帆の角度、高度の確認を、貴様一人でするのは無理だ。ジュスタ」
「高度はニーノが見てたじゃねーか」
ニーノは私の確保だけで何もしてないと思ったけど、いろいろ確認してたのか。
「いつも三人甲板にいられると思うのか」
「はい、これじゃだめですよね。船の中で暮らして、昼も夜も船を飛ばすんだから」
「おお、夜も飛びますか!」
――世界は広いのじゃ! 眠りながら飛ばねば、いつまで経っても古老に会えぬぞ!
……そういえば、古老の竜さまに会うのが目的だったっけ。
「お屑さまのおっしゃる通りです。竜さまが見守ってくださいますが、夜は竜さまも眠られるから自力で飛ばないと」
「りゅーさま、眠りながら飛べますか?」
――ぽはっ! 眠りながら飛ぶ者はたくさんおるのじゃ! 鳥も虫もやっておるのじゃ! 竜も、もちろんできるのじゃ!
お屑さまが得意げにぴこんぴこんする。
「おお! すごいです!」
そうかー。船を動かすのに全員が動いてたら、ご飯を作ることも食べることも休むこともできない。トイレだって大変だ。
――もっと回転を使うのじゃ! あれはとてもいい動きなのじゃ!
「回転ですか?」
「貴様は舵を上下、左右の動作で連動させているが、あれを回転にするとずいぶんマシになる」
……何の話?
――ぽはっ! ニーノは話が早いのじゃ! 帆に使っている滑車は面白いのじゃ! いっぱい回すと、自分でしばらく回るのじゃ! 滑車は回るのが好きなのじゃ! ぽはっ! ぽはっ!
ジュスタの目がきらきらし始める。考えを巡らすために手を動かして、顔がゆがんだ。
筋肉痛、本当に大変だ。
「まったく何言ってっか分かんねーけど、ジュスタ、お屑さまの話聞くときらきらすんだよなー」
「え、そうなんですか?」
「そーそー。船作ってっとき、お屑さまはこんな感じでうっせーだろ? けど、さんざん質問されてっジュスタは、なんか嬉しそーになんだぜ。さっぱり分かんねー」
痛そうに体を伸ばしたシステーナに、お屑さまが怒ってる。
――無礼なのじゃ! わしはジュスタに知恵を授けておるのじゃ! うるさくなぞないのじゃ!
「お屑さまの言葉はたくさん助けになってます」
にっこりするジュスタに、お屑さまはほれ見たことかって雰囲気。
うーん、わやわや言って、たくさんインスピレーションを与えてたんだな。
「――ともかく、私が気がついた点は伝えておく」
黙って様子を眺めてたニーノが、船について話し始める。
食堂の隅で、鉢を下にまったりしてたペロが動き出した。どうしたのかなと思ったら、入口からふわっふわの砂色ントゥが駆け込んでくる。
二人は瞬く間に追いかけっこを始めた。
「貴様ら、外でやれ」
ニーノの言葉が伝わったのか、二人はぴゃっと外に駆け出す。
「エーヴェも行きます!」
追いかけて走り出る。
――ばぁ! なのじゃ!
「うわっ!」
邸から出た途端、頭上から声が降ってきて飛び上がる。
「お骨さまー!」
ペロとントゥが、お骨さまに駆け上っていく。ビックリさせるのに成功して、お骨さまは嬉しそうにひょいひょい跳ねた。
「お骨さま、おはよーございます!」
――おはようじゃ。羽を取りに来たのじゃ。
きょきょきょきょきょ
羽を動かしたお骨さまにはっとする。まだ、大きな布は準備できてない。
「おはようございます、お骨さま」
ニーノやみんなも邸の前に出て来た。お骨さまは一人一人にあいさつを返す。
「聞いたぜ、お骨さま、飛ぶかもしれねーって?」
――そうなのじゃ。分からぬが、羽があるかもしれぬのじゃ。
にやにやしてるシステーナに、お骨さまは首をかしげる。
――ぽはっ! 骨には羽があるのじゃ! ニーノは補うだけなのじゃ!
お屑さまの言葉に、やっぱりお骨さまは首をかしげてる。
「申し訳ありません、まだ布が……」
「ニーノさん」
準備がないことを謝るニーノを、ジュスタがさえぎった。
「試すだけなら、良い物がありますよ」
歩こうとしてジュスタはギクシャクする。しばらく不思議そうに見ていたお骨さまが、ひょいっとくわえて持ち上げた。
――ジュスタは動きがおかしいのじゃ。どこに行けばよいのじゃ?
結局、みんなお骨さまに乗せてもらった。向かったのは船の近くの小屋。もともとポップコーンが積んであった場所だ。今はトウモロコシの皮製コンテナが、解体されて残ってる。
「――あ! もしかして!」
お骨さまにくわえられてるジュスタを見る。ぶらぶらしてるジュスタが、頷いてトウモロコシの皮を指した。
植物の葉っぱで布を作ることもある。このトウモロコシは大きくて軽くてしっかりしてるから、ぴったりだ。
「確かに実験にはちょうどいい」
ニーノが飛び降りてトウモロコシの皮を手に取る。
「何枚か重ねて使えばちょうどいいでしょう? 穴を開けるのも簡単です」
「ジュスタ、賢い!」
拍手で誉めたたえて、お骨さまを振り仰いだ。
お骨さまは何が起きるのかな? って顔できょろきょろしてる。
尾っぽがうねうねして楽しそう。
――ぽはっ! 変なのじゃ! ぽはっ! 山の付き人はたいそう面白いのじゃ! いろいろなことを考えつくのじゃ! 竜の羽を治すなぞ、竜以外は考えないのじゃ! ぽはっ!
お屑さまが不思議そうに、面白そうにぴこんぴこんした。
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