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20.穴はふさげ

 それからしばらく、船は飛んだ。

 右に旋回し、左に曲がって。高度を上げたり、下げたりも試した。でも、だんだん高く飛ぼうとしても、高度が下がるようになって、竜さまにつかまれる。

 そのまま竜さまに運ばれて、チガヤの原っぱに戻ってきた。

 船が地面にどっしり降りて少し傾く。同時に、ジュスタがその場に崩れて、システーナはひっくり返った。

「おわ!」

 駆けつけてみると、二人とも肩で息をしてるけど、特にジュスタは心底ほっとした顔。

「エーヴェ、飛んだよー……」

「飛んだよー――! ジュスター!」

 頭をぐしゃぐしゃかき回すけど、へにゃへにゃのジュスタはされるがまま。


 ずん、と地響きを立てて、竜さまも地面に降り立った。

 ばさばさ羽を動かして、首をぶるんぶるん振り回し、最後に耳をぴるぴるっとふるわせる。

 竜さまを見上げて、ジュスタは立ち上がった。

 体が重そう。

「ありがとうございました、竜さま。うまく飛べました」

 ――礼は要らぬ。格別であった。

 白銀のたてがみが(ふく)れて、きらきら光ってる。

 おわー! 竜さま、ご機嫌です!

 ――ぽはっ! 面白かったのじゃ! あちらに動いたりこちらに動いたり、走り回っておるのに空におったのじゃ! ぽはっ!

 へとへとのシステーナの腕でお屑さまはにぎやか。

「いろいろあるが――まずは休め」

 隣にニーノが立ったのを合図に、ジュスタがひっくり返った。

「おーい! 無事かー!!」

 ガイオの声が聞こえて、船べりに走る。

「ガイオサー! 大丈夫だよー!」

 むきっと成功のポーズをすると、ガイオは首をかしげて同じポーズを返してきた。


 甲板から動けなくなった二人の襟首をつかんで、ニーノが船から降ろす。

 ――シスともあろう者が情けないのじゃ! ぴょんぴょんするのじゃ!

 お屑さまがシステーナをぎゃんぎゃん(しか)る。

「情けなくねーよ、あたしはいつもサイコー」

 うん、シスはいつも最高です。

 扉からぽてっと落ちた何かが、ジュスタのほうにやってくる。ニーノ(ガイオかも?)が近いから遠巻きだけど、ペロだ。いつの間にか、船に乗り込んでたんだ。

「なんだこれは! 全然大丈夫ではないではないか!」

「少し休ませれば回復します」

 怒るガイオをニーノがなだめる。

 ――たいそうくたびれたようである。

 ひょいっとのぞき込んでくる竜さまに、ガイオが吠えて飛びかかろうとするので、ニーノが何かで止めた。

 ……たぶん見えない壁。

「こら、ニーノ! これをどけろ!!」

 パントマイムみたいになってる。

「だめです」

 ニーノはきっぱり。二人は放っておいて、ぴょんっと竜さまの鼻に飛びついた。

「シスとジュスタはくたびれたけど、一緒に飛ぶのはとっても楽しかったです!」

 ――うむ。愉快であった。

 ふわっふわっと鼻息が上がる。


 ――友ー!

「あ、お骨さま!」

 森の木を伝ってきたお骨さまがひょいっとチガヤの原っぱに降り立ち、駆けつけた。ぼん、と首をぶつけてきたので、すごい迫力。

 ――すごかったのじゃ! 骨が化けて、空を飛んでおったのじゃ!

 きょきょきょ、きょきょきょ

 お骨さまの羽がひっきりなしに動いてる。

 ――うむ。ジュスタはすごい物を作った。

 ――うむ。すごいのじゃ。

 お? ジュスタ、今のちゃんと聞いてたかな?

 誇らしくてにこにこする。

 ――分かったのじゃ。皆は骨が化けたもので、旅に行くのじゃ。わしは全然追いつけぬゆえ、砂漠に戻るのじゃ。

 ()(たん)に、ぐさっと胸に何かが突き刺さった。

「ま……だすぐには旅に出ませんよ! お骨さま、まだ遊びます!」

 慌てて主張する。

 ――もちろんじゃ。まだ遊び足りないのじゃ!

 ばっと羽を広げたお骨さまにちょっとほっとするけど、さっきまでの(こう)(よう)はすっかりしぼんでしまった。

 竜さまはお骨さまの鼻先を噛み、二人はじゃれ始める。

 ううー。二人はこんなに仲良し。

 私もお骨さまが大好き。お別れしたくない。


「お骨さま、ご相談が」

 ガイオを見えない壁に閉じ込めたニーノが、お骨さまの足下に来てた。

 ――なんじゃ? ニーノは賢いのに、相談なのじゃ。

 お骨さまは、ちゃんとニーノのほうに向き直る。

「先ほどのお話ですが、手立てがあれば竜さまと旅をなさりたいということでしょうか?」

 お骨さまはかくんと首をかしげ、しばらくして、ぱっと口を開けた。

 ――うむ。友とおるのは楽しいのじゃ。旅もきっと楽しいのじゃ。

 ――ニーノ。どうしたのじゃ。

 ニーノは少し考えて、竜さまに向き直る。

「単なる思いつきですが、お骨さまの羽を(おぎな)ってはどうかと」

 一瞬、ぽかんとなった。

 ――先日、友を背負って飛んだときのようにか?

「はい。エーヴェとそちらの……竜さまのお姿を写した帆を作ったときに、布をゆるみなく張る装置を作りました」

 竜さまとお骨さまが、今はしぼんだ青い竜の帆を見る。絵じゃ、絵であると、二人が(ささや)きかわした。ちょっと嬉しい。

「羽というのは、結局そういうものでは? お骨さまの羽を、布で代用できるかもしれません」

 お骨さま、口が半開き。

 ――そうなのか?

 ――友がまた飛べるのか。

「元より飛べない人が飛んだのです。竜が飛べないなど、あってはならない」

 うわー! それだー!

「やってみます! お骨さまは軽いから、船よりきっと簡単です!」

 竜さまとお骨さまは顔を見合わせる。

 ――分からぬが、やってみるのじゃ。

 ばっと羽を広げたお骨さまと一緒に両手を上げた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 船が無事に飛んで、無事に着地して先ずはひと安心。シスが疲労困憊しているのを見るのは初めてで予想外だったので船を飛ばす労力の大きさにちょっと心配になりました。大丈夫? 飛ばすごとに慣れてくのか…
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