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18.ハイタッチ

 同じ作業を、なんと五回もやった。大変な作業でも繰り返すと案外コツをつかむみたいで、最後には雑になったか心配になるほど早く済む。

 崖になびく帆を眺めた。乾いてないから今はまだ黒っぽく見える。それだけ深い青になった竜さま。

 白い帆布に、くっきりすっきり竜さまの姿が浮かぶ。

 私は歌ってるところだって知ってるけど、他の人が見たら竜さまが空を見上げて飛ぼうとしてるところに見えるかも。

「うふふー」

 喜びが体にむくむく(ふく)れ上がって、しゃがんだり立ったりを繰り返す。

「何をがちゃがちゃしている」

 帆を干して、こちら岸に戻ってきたニーノはいつも通り冷たい顔。

「ニーノ! やりましたよ!」

 右手を高く上げて主張する。

 しばらく、右手を眺めてたニーノが軽くタッチした。

「よくやった」

「うぉっほほー! うぉっほほー!」

 うぉほっほで()ね回り、くるくるしすぎて地面に倒れこんだ。


 うぉほっほテンションは私だけじゃない。

「竜さまに明日、飛ばしてもらうよ」

「おぉー――!!」

 久しぶりに(やしき)でご飯を食べてるジュスタは、にへらっと笑う。さすがにくたびれた感じだけど、目がきらきらしてる。

「初めて飛びます!」

「うまく行くか、試すんだ」

「――私も乗ろう」

 スープに口をつけてたニーノが、視線を上げる。ジュスタが蜂蜜色の目を見張った。

「いいんですか?」

「念のためだ」

 あ、そうか。船が落ちる可能性もあるんだ。

 ジュスタはきらきらしてるけど、内心は緊張もしてる。

「うまく行くよ!」

 一緒に乗りたいけど、きっと心配を増やすだけだから止めとこう。

 ――楽しみなのじゃ! ジュスタの船が飛ぶのは分不相応じゃが、きっときれいなのじゃ! ぽはっ! ぽはっ!

 お屑さまは高速でぴこんぴこんしてる。

「飛ぶのにそーおーも何もねーよ」

 こっちもスープを飲みながらシステーナが茶々を入れた。

「飛びてーやつが飛ぶんだよ」

「おおー! シスー!」

「おおー! おちび!」

 乗りでハイタッチしてくれる。

 システーナが言うと、重みが違うぞ。

「おかわりだ、ニーノ! 今日の飯は鳥が入っているぞ!」

 一心不乱に食べてたガイオが、ばっと顔を上げた。

「自分でついでください、ガイオさん」

「そうですよ、ガイオサ!」

 ガイオは椅子を蹴倒す勢いで、台所へ走って行った。


 翌朝、みんなで船の現場に行く。

 材料がたくさん積み上げてあったのが、きちんと片付けられて広場ができてる。

「ふわー――」

 本当にきれいな船だ。つなげて首飾りにできる丸っこい白い貝殻みたい。そこに四本マストが突き出てる。

 でも、これ、マストって言っていいのかな? 二本は地面にほぼ水平に広がってる。縄がかけられて、畳まれた帆も見えるから、やっぱりマストかな?

 テーブルマウンテン越しに光が原っぱに降ってきた。木材の柔らかい肌色と光沢が、晴れ空に誇らしげ。

「シスさん、お願いします」

 ジュスタが縄をシステーナに投げる。

 ……ちょっと表情が固い。

「ほい」

 軽く応えて、システーナはひとっ飛びで甲板に乗る。

 出航の準備が始まった。

 ジュスタとシステーナが畳まれてた帆を広げていく。近くで見たいから、側面の入口から入って、甲板に出た。

「おおー!」

 (かつ)(しや)にかけた帆をジュスタがぐいぐい引き上げていく。システーナがマストの高いところで縄の動きを助けてる。

 帆は何枚あるんだろう。竜さまの絵を染め抜いた帆くらいの大きさは三枚だけど、それ以外にも十枚くらいの帆があった。

 今は風がなくてだらんとしてるけど、風を受けてぱんぱんにふくらんだら、すごくきれいだろうなぁ。

「これもつけておけ」

 ニーノが青い竜さまの帆を持って来た。

「おー! エーヴェとニーノの()()()()!」

「え、でも……」

 ジュスタが心配そうに眉根を寄せる。

「竜さまの帆は、船の大事な一部ですよ!」

 失敗して破れても、そのときはそのとき。また頑張る。

「……ありがと、エーヴェ」

 ジュスタの大きな掌が、頭をなでた。

「よし。じゃあ、そろそろ竜さまを呼んできてくれるかい?」

「はい! 分かった!」

 返事して、竜さまの洞に走った。


「りゅーさまー! 船を飛ばしますー!」

 洞に駆け込むと、お骨さまを頭に乗せた竜さまがぱちっと目を開けた。

 ――エーヴェ、おはようじゃ。

「お骨さま、おはよーございます!」

 お骨さまと竜さまは本当に仲良しだ。きょうだいみたい。

 ――準備ができたか?

 竜さまは大あくび。ふわーっと風が巻き起こる。

「はい! できました!」

 ――うむ。参ろう。

 竜さまは洞の外に歩み出ると、ばんと羽を一振りして空に飛びだしてしまった。

「あー――、りゅーさまー!」

 ――おおー! 友ー!

 お骨さまと二人で、旋回した竜さまを目で追う。あっという間に、竜さまの姿は原っぱに消えてしまった。

 二人で顔を見合わせる。

 ――おお! エーヴェはわしと走るのじゃ。

「はい! 走ります!」

 お骨さまと走るのも、とっても楽しい。わーっと坂を駆け下りる。

 お骨さまは足が速いけど、ときどきゆっくり走ってくれるから同じタイミングで原っぱに着いた。


「あ! 帆が全部広がってます!」

 ――おお! 少し見ぬ間に羽がついたのじゃ。

 お骨さまが、きょきょきょきょきょと羽を鳴らした。

 船の隣で竜さまは甲板にいるジュスタと話してるみたい。

 並ぶと、船の大きさが身に(せま)ってくる。これを組み立てたジュスタは、本当にすごい。

「ジュスター!」

 ぴょんぴょん()んで手を振ると、竜さまとジュスタがこっちを振り向いた。ジュスタは手を振ってくる。

「エーヴェも乗るかい?」

「ぅえ? いいですか?」

 邪魔になるかなって遠慮したけど。

「ニーノさんがなんとかしてくれるよ」

 ジュスタの隣で、ニーノが後ろ手を組んで見下ろしてる。

「貴様が遠慮など片腹痛い」って顔。どっちにしても、ニーノは笑わない。

「――行きます!」

 駆け出そうとして、腕を組んで船を見上げてるガイオに気がついた。

「あ、ガイオサ! オサは乗りませんか?」

「俺は竜と一緒に旅などせんからな! しかし、船が飛ぶのは見たい!」

 うーん、ガイオは複雑です。

「じゃあ、ガイオサ、見ててねー!」

 ガイオに手を振って、船の側面の扉に急いだ。

いよいよ船出が近づいてきました。


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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよ感が高まってきました。ジュスタの緊張が伝わってきて、読んでいてこっちもピリッとした緊張を感じる。成功を信じているけど、無事に飛んでくれっと祈る気持ちがわいてくる。ジュスタ、とうとうや…
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