14.その色、何の色?
この人たち、いつ船出するんでしょうか。
お骨さまは全然寂しそうじゃなかったのに、竜さまが戻るとひっついてる。頭の上に頭を乗せようと頑張って、三回に一回くらい竜さまにかわされる。
でも、嬉しそう。
「エーヴェもりゅーさまと遊びます!」
「そうしろ。昼食を持ってくる」
「やったー!」
竜さまの尾っぽに取り付いて、背中へと登っていく。
――おお。エーヴェが友の背中を登っておるのじゃ。
――うむ。幼い頃からエーヴェはわしに登るのが好きである。
背中を駆け抜けて、竜さまの首の上に首を置いてるお骨さまに飛びつく。
――おお。わしにも登るのじゃ。
お骨さまはすかすかだから、登るのがちょっと怖いけど、竜さまの首伝いなら安心だ。
「あれ? ペロ!」
背骨の上に、ペロがほよんとしてる。
さっきは気がつかなかったけど、竜さまに早く会いたくてお骨さまにしがみついたのかな?
「ん? お骨さま、ントゥは?」
お骨さまは、はっとしてキョロキョロ見回す。
――ントゥ、忘れてきたのじゃ!
――うむ。大事ない。
竜さまが邸のほうへ顔を向ける。金色の矢と化したントゥが、こっちに向かって来てた。
竜さまの背中でお昼ご飯。今日の葉包み焼きは、味噌みたいな香ばしさがある。
普段昼ご飯を食べないニーノは、隣で葉包み焼きを味わってる。
「りゅーさま、鉱石いっぱい食べましたか?」
竜さまは金の目を細める。
――うむ。つぶてほどのものをいろいろな場所で食べたのじゃ。それぞれ様子が変わっておった。
竜さまの耳がぴるぴるっと振られる。
「何よりです」
――うむ。皆も変わりないか?
「船の形ができましたよ!」
――バラバラな物が一つのかたまりに化けたのじゃ。面白い遊びなのじゃ。
お骨さまにとっては、何でも遊びだ。
「ガイオさんもよく手伝ってくれます」
――ふむ。ガイオはひたむきである。任せられることも多かろう。
おお、竜さまもガイオのこと、評価してるのか。
「りゅーさま、ガイオのこと嫌じゃありませんか」
――ガイオも古老に招かれたヒトじゃ。エーヴェと変わりない。
竜さまは事もなげ。
「でも、りゅーさまとケンカします! りゅーさまのこと悪く言いますよ」
――うむ。ガイオには強いわだかまりがある。前の世界で、竜と人は良い関係ではなかったようじゃ。幼き頃、ひどく怯えるので記憶を見たことがある。
竜さま、そんなことができるのか。
「ガイオ、前の世界で何がありましたか?」
竜さまは首を傾ける。
――竜と人の記憶は違う。ゆえに何があったかまでは知らぬ。しかし、強い憎しみがあった。重い傷じゃ。
――憎しみは大変なのじゃ。なかなか治らないのじゃ。
背骨で追いかけっこしてるペロとントゥを眺めてたお骨さまが、ぱっと頭を上げる。でもすぐに、かけっこに視線が戻った。
――友の言う通りである。ゆっくり待つのがいいのじゃ。
「おお……」
竜さまは素晴らしく偉大。二百年以上待ってくれるなんて、竜さまくらいだ。
昼ご飯を食べ終わって、名残惜しいけど、作業開始。
「ニーノ、青はありますか?」
見上げたニーノは、あてがある雰囲気。
「染料がある。絵に使うのは初めてだが」
「染料! そうか!」
染めてしまえば、布の表面に描くより消えにくいかも。
ニーノは工房の方角へ向かう。現場前を通ったので、みんなに手を振った。
「りゅーさま、帰ってきたよ!」
「知ってる知ってるー! 作業終わったら、さっそく行くぜー!」
システーナがぶんぶん道具を振り回しながら応えた。
あ、ガイオもいる。ジュスタと熱心に話し込んでる。ということは、スーヒは……木陰で穴掘ってた。
前の世界でガイオに何があったのか、ますます気になる。でも今は、まったく歩調が落ちないニーノを急いで追った。
サーラスの皮を加工した建物よりさらに奥。木で葺いた屋根にはコケや草がいっぱい。もしかしたら、いちばん古いのかもしれない。
「ここが染色を行う工房だ」
「ニーノが作りましたか」
ちらっとこっちを見て、ニーノは改めて建物を見る。
「確かにそうだ。はじめは染色をしていたわけではないが、長く使っているな」
ぽんと柱に触れる仕種に、にっこりした。
物作りと言えばジュスタを思い浮かべるけど、ニーノもたくさん物を作ってきたんだ。
「お! 植物っぽいにおいですよ」
建物の中は独特なにおいが満ちてた。おがくずが発酵したらこんなにおいかな?
「染料はどれも植物から取っている」
大きな甕の一つの蓋を取る。キョロキョロ見回して椅子を見つけ、それに乗ってのぞき込んだ。
「黒です」
液体は真っ黒だ。
「染めて洗えば青になる」
ニーノが胸に手を当てる。
「これがそうだ」
「おおー! いい色!」
深い藍色。黒に見えるくらい濃いけど、日に透けると、はっとするほど青い。
そこで、ホントにはっとした。
「あー――!」
ニーノを指さす。
「ニーノ、りゅーさまの色着てます!!」
何ですか、この人は!
「……ジュスタの服は竜さまの目の色だ」
「えー――!!」
そういえば、ジュスタは明るい黄色――鬱金染めみたいな服を着てる。
「なんと!」
推し色じゃないか!!
「貴様も竜さまのたてがみの色だ」
ばっと自分の服を見る。白――生成りのワンピース。
……物は言いようなのでは?
首をかしげてると、ニーノは大きなヘラで甕の中身をかき混ぜる。
「染めて洗って染めるのを繰り返せば、深い色になる。明るい色がいいなら、回数を少なくする」
奥の棚を指した。
「そこに端切れがある。試してみろ」
「はい! 分かった!」
どんな青ができるのかな? ワクワクする。
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