13.当然の帰結
翌日、朝ごはんの後でニーノに相談に行く。
「ジュスタがね、ニーノが作った帆に絵を描いたらって! ニーノ、いいですか?」
洗い場に積み上げた皿の前で袖をまくりながら、ニーノがこっちを見る。
「ジュスタから聞いている。貴様が描きたいならいい」
「おー」
ぬれた布を渡されたので、テーブルを拭いて、戻る。
システーナはもう現場に行ってしまい、ガイオはスーヒと菜園に行った。……スーヒ、菜園の植物をかじらないといいけど。
「それでね、エーヴェには筆と墨が要ります」
大きな筆かハケと墨が要る。
皿をぬぐいながら、ニーノが冷たい目で見下ろして来た。
「貴様が作るのか」
「一人じゃできないので、ニーノ、手伝ってください」
本当はジュスタと一緒に作るのがいちばんいいけど、ジュスタは船から手が離せない。
「なるほど。仕方ない」
びっくりするくらい少ない水で皿を洗い終えて、ニーノはこちらに向き直る。
「私は何をする?」
「動物の毛がほしいです! ニーノ持ってませんか?」
毛を集めて、糸でぐるぐる縛って、バラバラにならないように押さえて棒につければ、筆になるはず。
「動物の毛と言っても、ウサギの毛とサルの毛とスーヒの毛では全部違う。どれがいい」
「おー……ディーの毛も違います」
とりあえず墨を含んで布につければいいから、きっと何の毛でもいい。でも、帆布はとても大きいから、大きな筆が要る。ってことは長い毛が要る。
「長い毛――ウマの尾だろうが、この辺りにはいない」
「おお……」
「いちばん簡単に手に入るのは、私たちの髪だ」
「おお! そうです!」
髪の毛は柔らかすぎて筆には向かないって聞いた気がするけど、まずは筆がないと始まらない。
「じゃあ、エーヴェの髪を切ります!」
「待て。貴様はもう少し計画を立てろ」
テーブルの椅子を指されて、腰を下ろす。食堂を出たニーノは少しして戻って来た。
「わー! 紙だ!」
墨と付けペンもある。
「帆は風雨にさらされる。そこに絵を描くには何が要る?」
「……あ、雨に流れない墨です!」
「貴様が絵を描く帆は、今のところあの一枚しかない。失敗できない。だが、貴様の言う筆はおそらく墨がぽたぽたと落ちる」
確かに! これは練習が要るぞ。どんな絵を描くか決めて大きい帆に移さないと、失敗したらもうどうにもならない。
「それから――、墨でいいのか?」
きょとんと首をかしげる。
無言で私を眺めて、ニーノは軽く息を吐いた。
「まぁいい。少し練習してみろ」
紙とペンを残して、ニーノは食堂を出て行ってしまった。
紙とペンを前にして、わくわくする。紙は貴重品だから触るのは本当に久しぶり。
さっそく描こうとして、止まった。
椅子から飛び降りて、部屋から砂絵板を持って来る。まずは練習の練習だ。
竜さまを思い浮かべながら絵を描いた。砂絵板の中に収まらなかった竜さまをだんだん小さく描いていく。
「計画が大事」
まずは、帆に竜さまの絵が描いてあるところを思い浮かべてみた。
白い船に大きな帆がかかってて、そこに竜さまが描かれてる。
「むー……」
あんまりリアルな竜さまを描くと、よくないかもしれない。隣に竜さまが飛んでるんだもんね。もともと描けないのもあるけど。
……あ、そうか! 色はつけられないんだ。
線だけで竜さまを描く。
意を決して、紙にペンで竜さまを描いてみる。何とか小さく収まったけど、眺めてみて気がついた。
白地に黒の線。
うーん、大問題! 海賊船みたいになっちゃう。
にらみつけた紙に、影が落ちた。
振り返る。
「ニーノ」
「よく描けている」
おお、ほめられた。
「竜さまが戻られる。来い」
「……はい! 行きます!!」
椅子から飛び降りて、邸を駆け出した。
ニーノと洞に向かうのは久しぶりの気分。
「りゅーさま、お腹いっぱいになったかな?」
竜さまに会うのはえーっと、六日ぶり! 早く会いたくて、つい走り出す。
「エーヴェ」
洞の入口が遠くに見えた辺りで、ニーノに呼ばれた。
体ごと振り向く。ニーノはまっすぐに南の方角を指してる。
わっと顔を向けた。
最初、分からなかったけど、すぐに小さな点に気がつく。
風の音が近づいてくる。
だんだん点じゃなくて、羽を広げて滑空してる竜さまだと分かる。
羽を振る度、ぼぅっと響きが伝わってきた。
「りゅーさまー!」
声が届いたか分からない。けど、きっと届いた。
ぐぉおおぉん
優しい咆哮で、岩の上に立った体がびりびりする。
次の瞬間、後ろにひっくり返った。
体はニーノがキャッチしてくれる。
竜さまが通り過ぎた勢いで、森の木も一斉にしなる。
にこにこしてニーノの腕から転がり出て、ぴょんぴょん跳ねて手を振る。
「りゅーさまー、おかえりー!」
徐々にスピードを落として、竜さまが旋回を始めた。
菜園の方角からは、お骨さまがひょこひょこ走ってきてる。
ずどーんと地響きをさせて、竜さまが降り立った。
「竜さま、おかえりなさい」
ニーノがまっすぐ竜さまを見上げてる。
――うむ。ニーノ、エーヴェ、帰ったのじゃ。
白銀のたてがみは夏の積乱雲みたいに猛って、空の色を受けた鱗が深い青色に輝いてる。
うわー! かっこいー――!
――友ー!
――友よ。
駆けつけたお骨さまと首をぶつけ合って、羽をバサバサご挨拶。
竜さまが二人いると、さらにかっこいー――!
しばらく感動に打ち震えて、はっと顔を上げた。
「ニーノ! ニーノ!」
「なんだ」
一瞬前まで竜さまに向けてた目は何だったのかと思う顔。
「エーヴェ、青がいいです! りゅーさまの絵は青で描きます!」
ニーノはしばらくこちらを見下ろして、頷いた。
「当然だ」
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