12.大いなる使命
「すごいですねー! すごいねー!」
こんなに広い布を見たのは初めてかも? そういえば、竜さまの包帯でニーノはすごく長い布を持って来た。
「ニーノはいつの間にか準備します!」
「おわ?! んだこれ?」
――ぽ! 真っ白なのじゃ! 世界が真っ白なのじゃ!
甲板への出口も覆っちゃったから、システーナとお屑さまがつっかえてる。
あ! いいこと思いついた!
端をまくり上げて、帆布の下にもぐった。
「あ、エーヴェ!」
――おぉ? エーヴェがもぐったのじゃ。
うっふっふー! お骨さまがビックリしてる。
帆布の下は、お屑さまが言う通り、光が布に透けて真っ白な世界。かがんで布を持ち上げながら進んでると、足下をキラキラした物が駆け抜けていった。
「ペロ!」
白い光の下をジグザグに走って行く。
「帆はニーノが作ったけど、ペロ怖くないですか?」
にこにこしながら、追いかけた。すると、さっきまでいた場所の布の天井がへこむ。
――ここからエーヴェの声がしたのじゃ。
「お骨さま!」
お骨さまが私を探してるぞ!
嬉しくなって、きゃらきゃら笑いながら逃げる。
――ここでもないのじゃ。エーヴェは動いておるのじゃ。
「こっちですよー! お骨さまー!」
「おー、おちび」
今度は布の下ではいつくばってるシステーナと鉢合わせした。
「シスー! お屑さまー!」
――童よ! この天井は邪魔なのじゃ!
お屑さまのぴこんぴこんが布に邪魔されて、くにんと曲がっちゃう。笑っちゃいけないけど、とってもおかしい。
「たまにはぴこぴこすんの、止めたらどーだ?」
――何を言うのじゃ! 言葉を発するには動かねばならぬのじゃ! シスは口を動かさずにしゃべれるのか?
「お屑さまー、できるぜー」
急にシステーナが高音を出してびっくり。
口は動かずに、息で話してる。
これは……、腹話術!
――な、なんじゃと!
お屑さまは愕然として、しばらくふわーっと漂った。でもすぐに高速でぴこんぴこんし始める。天井お構いなしだ。
――いったい何事なのじゃ! 説明するのじゃ! なにゆえ動かずに声が出るのじゃ!!
「へっへっへー、内緒!」
シス、悪い。
――む、むむ! もう一度やってみせるのじゃ! わしならば分かるのじゃ!
「どーかなー? ……ぅいてっ!」
にやにやするシステーナの後頭部に、突然布が突き刺さってきた。
「おお?」
――ントゥが見つけたのじゃ。シスなのじゃ。
お骨さま、声だけでも嬉しいのが伝わってくる。
私の近くでも、とんっと布が突き刺さった。
「わー! 逃げます!」
――エーヴェもおるのじゃ。ントゥ、見つけるのじゃ。
砂の下のネズミを聞き分けられるントゥにとって、帆布の下の人間を探すなんて朝飯前。
「ぅきゃあ!」
とんっと背中にントゥの鼻の感触。
見つかった!
――エーヴェなのじゃ。ントゥはどんどん見つけるのじゃ。すごいのじゃ。
お骨さま、ひょいひょい跳ねてるに違いない。
「うお?! なんだこれは? お前たち、無事かー!」
うるさいガイオが甲板に出て来たみたい。
「ほら! みんな帆の下から出てください! 破けたらどうするんです!」
ジュスタに怒られて、みんなで帆の下からはい出る。
「ニーノさんがせっかく作ってくれたんですよ。大事にしなきゃ」
「ごめんなさい。とっても楽しくなっちゃいました」
――もう遊びは終わりか?
お骨さまもントゥもまだ遊び足りない様子で尻尾がうねうねしてる。
ガイオは首をかしげた。
「むー? なぜ怒られたのだ?」
ガイオ、とばっちりです。
「帆はどうやって使いますか?」
ぴょんぴょんしながらジュスタに聞く。
「簡単に言うと、棒にくくりつけるんだよ。布だけだったら、風にひるがえっちゃうだろ? 風を捕まえるために、帆桁がいるんだ」
マストに帆がかかるところを想像する。きっとすごく爽快!
帆桁をお骨さまが甲板に持ち上げてくれて、みんなで帆をくくりつける。
帆の結び方はジュスタが教えてくれた。見たことない結び方で最初は難しかったけど、いくつも結んでるうちにすいすい出来るようになる。
「帆というのは、縄がたくさん要るな! 頭がこんがらがるぞ」
帆桁に帆をくくるだけじゃなくて、帆の角度や帆の大きさを変えるためにいろいろな索具が複雑に絡み合ってる。確かにすぐもつれそう。
「動かし方を覚えれば、自然と分かるようになりますよ」
ジュスタはシステーナにマストの上に登ってもらって、縄を投げてはあちらに通して、こちらを引き上げてと指示する。
「ジュスタは前の世界で船にたくさん乗りましたか?」
「そうだね。作るのはダメだったけど、船に乗れない人はいなかったよ」
「ほー――」
システーナの腕にいるお屑さまが、ぽはぽは笑ってる声が聞こえる。知らないことがいっぱいで楽しそう。
「よーし、じゃあ、帆を開くよ」
広がった布を、旗みたいにマストのいちばん上まで引き上げていく。
「三角形!」
「おおー! 大きいのは気分がいいな!」
ガイオも晴れ晴れした顔で見上げてる。
三角帆だ! 白い船に白い帆がかかってとってもきれい。
「空の風のことはよく分からないから、この形にしてみたよ」
「すてきです!」
ぴょんぴょん跳ねてると、ジュスタが蜂蜜色の目をとろけさせた。
「それでね、エーヴェ。この帆に絵を描いたらどうかな?」
ぽかんとして、その場で固まる。
「あー、そりゃーいーぜ。どーんと竜さまの絵ー描けよ」
マストの上からシステーナの声が降ってくる。
……そりゃあ、竜さまは大きいから小さい紙には描けないと思ったけど。
この大きな帆には、ちょっとひるむ。
――絵とは何じゃ?
鼻先を帆に押し当ててたお骨さまがこっちを向いた。
お骨さまも絵を知らない。
どうすればいいか見当もつかないけど、竜さまの絵を描いてお骨さまに見せよう。
「――エーヴェ、描くよ! お骨さまに見せます!」
両手を上げて宣言すると、やる気がむくむくわいてきた。
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