10.床板張り
翌朝も作業は続く。今日は朝ごはんを持って行くときから、システーナが一緒だ。
「お! お骨さま、おはよー!」
「お骨さま、はえーな」
後ろ肢で立って、前肢を船にかけていたお骨さまがくるっとこっちを見る。ぴょんぴょん跳ねながら手を振ると、肩に乗っかったジュスタが手を振り返した。
――エーヴェ、シス、おはようなのじゃ。
「まだ竜さまが戻ってないから、お骨さまは夜明け頃から来て、船の周りをぐるぐる回ってたんだよ」
ジュスタは朝食をとりに、お骨さまの骨伝いに降りてくる。
――もうだいぶ化けたのじゃ。エーヴェは見られなかったのじゃ。
お骨さまは首をかしげて、こっちをのぞき込んでくる。優しい。
「今から見ます! だいじょうぶ!」
船はマストの補強と床板張りが始まってる。床は木材が使ってあるから、いいにおいがいっぱい。
側面に入口が開いてて、そこから中をのぞき込んだ。高い船壁が落とす影の中に、柱と床板が張り巡らされてる。
「そこは二番目に深いところだよ」
ご飯をもぐもぐ食べながら、ジュスタが教えてくれる。
「へー――深ぇなー! 船ってこんなにでかいのか」
システーナは船の中をきょろきょろ見回してる。ジュスタと息がぴったりで分からなかったけど、船を見たことないのかもしれない。
私も竜さまの骨でできた船なんて、初めて見るけど。
――こんなに大きい船は多くないのじゃ! すっかり影になっておるのじゃ!
……ん? こんなに大きい船が他にもあるのかな?
お屑さまの発言にちょっと興味がわいたけど、今は目の前の船がいちばんだ。
サンダルのまま上がるのがもったいなくて、はだしで船に入った。
木の感触が気持ちいい。いいにおいがいっぱいなので、骨に残ってたひどいにおいもあんまり分からない。
興奮して走ってると、後ろからととん、ととんと音がついて来る。
「おぉ、ントゥ!」
大きな耳のントゥは、ちらっとこっちを見上げて、だっと追い抜いて行ってしまう。船の壁をとんとんと駆け上り、船の舳先から、お骨さまの肩の骨に飛び乗った。
とっても身軽。
――ントゥも船が好きなのじゃ。
ントゥはお骨さまの頭の上に乗って、首の後ろをかいてる。
「光栄です」
ジュスタはにっこりだ。
「おお、これが! これが船か!」
床板を張って、船の中に階層を作る。船の壁が作る影がなくなったと思った頃、うるさい声が外から聞こえてきた。
――ふがー! ガイオなのじゃ! 耳障りなのじゃ!
途端にお屑さま、不機嫌。
「おー、ガイオー。飯持って来たのかー?」
システーナが大声で返した。
「ガイオさんと呼べ! そうだ! たくさん持って来てやったぞ」
システーナはにやっとして、私を抱えて船の壁を越えて飛び出す。
「ごはーん!」
「おお、お前もいたのか」
ガイオは誇らしげに右手に持った布包みを持ち上げる。重箱みたい。たっぷりのお昼ご飯だ。
――昼ご飯なのじゃ。
ひょこっと船の向こうからお骨さまが顔を出し、羽に捕まってたジュスタがひょいひょい降りてきた。
「何?! お前もいたのか!」
お骨さまに身構えるガイオに、わしもおるのじゃ! とお屑さまがぴこんぴこんする。
「薄おしゃべりに用はない!」
――なんと無礼な!
憤慨するお屑さまと一緒に、システーナが腰に手を当てて、片眉を上げた。
「ガイオ、おめーこんなところで暴れて、万一船壊してみろ。ジュスタとおちびにむちゃくちゃ怒られっぞ」
ガイオさんと呼べ、と叫んで、ガイオはジュスタと私を交互に見る。
よく分かんないけど、とりあえず怖い顔をしておいた。
「別に壊す気はない!」
「とにかく、お昼ご飯にしましょう」
最後はジュスタが取りなした。
風が通る涼しい木陰で、みんなで一緒にお昼ご飯を食べる。
今日は、炊き込みご飯おにぎりだ。タケノコみたいな食感の植物が入ってて、いい香り。
「へー、今日、気合い入ってんなーニーノ」
システーナがにやっと笑って、ヤシの実みたいな木の実を包みから出す。ぐるっと刃を入れて上下に二つに割った。
「おおー!」
ぶわっとココナッツに似た甘いにおいが広がる。湯気も舞って、とっても豪華。
木の実をくりぬいて、魚とナッツ類と野菜を詰め込んだ蒸し焼き。魚の骨は吐き出さなきゃいけないけど、いろんな味がぎゅっと染みてる。
――色とりどりなのじゃ! 口に入れば見えぬと言うのに、人間は色がいっぱいの食べ物が好きなのじゃ! ぽはっ!
湯気の立つ料理に、ぴこんぴこんしてお屑さまが言う。
「俺の好きな料理だ」
「そうなんですね」
嬉しそうなガイオにジュスタがにっこりした。
「ガイオはきっとどんな料理でも好きですよ」
いつも嬉しそうだもん。
「うむ。よく分かったな! だが、ガイオさんと呼べ」
むー。ガイオはしつこい。
船造りが休憩だと分かったお骨さまは、船の側にくつろいで座る。
――沈めないのは不思議な気分じゃ。
チガヤに鼻先をこすりつけて、お骨さまはパカッと口を開けた。
ントゥは見えない。たぶん食べ物を取りに行ったんだ。ントゥはご飯をもらわずに、ちゃんと自分で狩りに行く。のんびりスーヒとは大違い。
そう思ったところで、邸のほうからスーヒがとことこ走ってきて驚いた。
「スーヒ!」
「おお、鼻ぴこ」
ガイオが手を上げると、スーヒはぴゃっと一声鳴いて、近くでチガヤのにおいをかぎ始める。
「はなぴこ!?」
確かに鼻はぴくぴくしてるけど、いつの間にそんなあだ名をつけたのかな?
「ガイオはスーヒの近くで寝てっかんな」
「そーなの?」
「ガイオさんと呼べ。干し草のほうが寝心地がいいのだ」
「ほー」
ちらっと見ると、ジュスタもへーっという顔をしている。
「干し草で手懐けたってわけだ」
システーナがゲラゲラ笑う。
――まったく! スーヒはこんなガイオに気を許してはいかんのじゃ!
「薄おしゃべりはいちいちうるさいのだ!」
――うるさいとは無礼なのじゃ!
どうでもいいことで言い争ってるから、もしかして二人は仲がいいのかもしれない。
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