9.船、姿を現す
ガイオが大騒動しながら、邸の暮らしを勉強してる間に、ジュスタは材料の加工を終えた。全部で五日。大きさと長さをそろえて、パーツ毎に準備が終わった材の山を見ると、五日でここまでやったジュスタはすごい。
疲れてないかなと見上げるけど、やる気満々できらきら。すごい。
材の山は、近くに寄るとあの匂いが微かにする。竜さまの骨だから、ペロは好きなはずだけど、薬が塗られた材には近づかない。やっぱりみんな嫌いなにおいなんだな。
「今日から、組み上げに入るよ」
朝食を届けに行くと、体のあちこちを伸ばしてたジュスタが明るく笑った。今日はちゃんとヒゲを剃ってる。
そんなに遠くないのに、チガヤの原っぱ横にジュスタは簡単な小屋を作って寝泊まりしてる。特にあの薬を使った後は、間違って動物が口にしないように見張るのも兼ねてるみたい。
ジュスタは船のいちばん底に来る骨を地面に並べた。
「おおー! 大きい!」
ペロと一緒に端から端まで走ってみる。これは竜さまと同じくらいあるかも。
「高さも邸くらいあるから、足場を組まなきゃ」
そこで、ジュスタは顔色を変える。
「しまった、足場の材を用意してない」
「なんと」
大きな物を作るには、周りにも大きなものがたくさん必要だ。
「――仕方ない。足場の材を探すか」
頭をかきながらジュスタが向いたのと一緒に、森を見る。
「お?」
邸のほうから、白い骨を輝かせてお骨さまがひょこひょこ走って来た。
「お骨さまー!」
なんて素敵な光景! ぱあっと心が明るくなる。
――エーヴェ、ジュスタ! おはようなのじゃ。
頭の上でントゥが長い尻尾をうねうねさせてる。
「お骨さま、おはよーございます!」
「おはようございます」
――遊びに来たのじゃ。
今朝、竜さまがご飯を食べに飛んで行ってしまった。それで、お骨さまは朝からこっちに来てくれたんだろう。
「遊びます!」
両手を上げて宣言したけど、はっといいことを思いつく。
「なーにやってんだ、おめーら」
お屑さまの腕輪をつけたシステーナが、様子を見に来る。朝ごはんを届けてから鍛錬に行く予定だったのに、ずっとここにいたから来たみたい。
「船を組み立てますよ!」
――ぽはっ! ぽはっ! 骨が骨をくわえておるのじゃ!
お屑さまの言う通り。お骨さまはジュスタを手伝って骨を運んでくれてる。船を組むときの足場代わりにもなってくれる。
――骨よ、臭くはないか? だいぶマシになったが、まだにおうのじゃ!
――においは分からんのじゃ。骨が少ーしかたかたするのじゃ。
「かたかた!」
大丈夫かな?
「船組んでんのか。あたしも手伝うぜ」
「ありがとうございます。シスさん」
お骨さまとシステーナがいれば百人力。ジュスタの指示も上手で、てきぱき作業が進んでいく。
私も小さい材料を運んだり、ロープで縛ったりして手伝う。ペロとントゥは組み立てられていく船の骨組みの上や周りで追いかけっこ。
……いつの間に仲良くなったのかな?
ときどきお骨さまも追いかけっこに混じるので、お屑さまはぽはぽは大喜びだ。
「貴様ら。昼食だ」
「ニーノ!」
お昼時にはニーノが人数分の葉包み焼きを持って来てくれた。
きょろきょろ周囲を見る。
「ガイオは?」
「ガイオさんはスーヒに干し草をやっている」
「おお」
意外。スーヒはインドア派だからガイオとはタイプが全然違うのに。
「ニーノも一緒に食べますか」
「いや、私は用がある」
さっさと邸に戻るニーノを見送ると、ペロがのそのそ草むらから出て来た。
「ペロ、まだニーノが怖いですか!」
ずっと外にいて、鉢をかぶってるけどちょっと目減りしてるペロに水をかけてあげた。
――すごいのじゃ。ばらばらだったものが一つのかたまりに化けてゆくのじゃ。
お骨さまは船の周りをひょいひょい駆け回りながら、感心してる。
夕方近くになると、もう船の形が分かるほど組み上がってた。丸みを帯びた船体は、ホオの花びらみたい。マストを押し立てると、本当に船だと実感がわく。
こんなに早くできたのは、お骨さまが動く足場になってくれたのと、システーナとジュスタの息の合った動きのおかげ。
――うむ! どうしてこのようにうまく骨を絡ませられるのじゃ? 不思議なのじゃ! そして、これは水に浮かずに空を飛ぶのじゃ! 厚かましいのじゃ! ぽはっ!
お骨さまはシステーナの腕で一部始終を眺められて満足げ。
本当にすごい。骨のカーブはどれ一つ同じじゃない。でも、一つの形にまとまって、白く輝く船になってる。
「ジュスタ、すごいです!」
「ありがとう」
「おちびー! あたしも、あたしも」
「シスもとってもすごい!」
「へっへーん」
――うむ! ジュスタもシスも感心なのじゃ!
胸を反らすシステーナの腕で、お屑さまはぴこんぴこんする。
「まだまだやることはあるけど、今日はひとまずここまでにしようか」
額の汗をぬぐったジュスタは、船を見上げて目を細めた。
――む? まだこのかたまりは化けるのか?
首を傾けたお骨さまに、お屑さまがぴこんぴこんする。
――痴れ者め! まだまだ完成にはほど遠いのじゃ! 雨が入らぬように蓋を作ったり、内側にも歩きやすい板を張るのじゃ! 人間は弱いゆえ面倒くさいのじゃ! ぽはっ!
――おお、たくさんは物知りなのじゃ。
――お屑さまじゃ! じゃが、物知りなのはその通りなのじゃ! すこしは骨も学んだのじゃ!
お屑さまはぽはぽは愉快そう。
――ジュスタ、明日も楽しみじゃ。
お骨さまがぱかっと口を開けた。
「はい。ありがとうございます、お骨さま」
洞に向かおうとしたお骨さまが、きょろきょろ周りを見回す。
――ントゥはどこじゃ?
「そーいや、ペロもいねーな」
みんなでチガヤの原っぱを探す。名前を呼んでみるけど、ペロもントゥも出てこない。
――おお、いたのじゃ。
丈高い草の中に、鉢に収まってるペロと隣にくるんと丸まって眠るントゥがいた。
明日から出張でまた少し、間が開くかもしれません。
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