8.思いがけない使い道
遅くなりました。
ジュスタがペロを探してるのを遠くで見ながら、原っぱに座り込んだガイオの顔をのぞき込む。
「ガイオ! ジュスタ、怒りました! 謝ったほうがいいです!」
ジュスタに怒られたガイオは、見るからにしょんぼりしてる。
「ガイオさんと呼べ。俺はほめたのに、ジュスタは怒ったぞ」
「ジュスタは道具をとっても大事にしてます。りゅーさまのことも大事です。大事なもので大事なものを傷つけられそうだったら、とっても怒ります」
ガイオは怪訝な顔。あんまり響いてないみたい。
「むー、ガイオは何が大事ですか?」
「ガイオさんだ。大事なのはお前たちだ」
「気持ち悪い!」
「何だと!」
思わず、ぴょんぴょんと跳ねのいて、ぴょんぴょんと戻る。
「ガイオはエーヴェのこと全然知らないのに、エーヴェが大事です。気持ち悪い」
「俺は人間だ! 人間が大事なことの何が気持ち悪いのか!」
あ、そういうことか。
「ニーノが来たときもそれはそれは嬉しかったのに、あいつは竜にべったりなのだ!」
「ぎゃ! 嫉妬!」
「何だと!」
ガイオは立ち上がって、だんだん地面を踏む。ぴょんぴょん跳ねのいた。
うーん、でも、まぁ、人間が大好きで仲良くしたいのに、人間は嫌いな竜のところに行っちゃうとしたら、ちょっとかわいそうかな?
「ガイオが大事なニーノとエーヴェが誰かのせいでケンカしたら、どうですか?」
「なんだ、それは! 許さんぞ!」
だむだむ地面を蹴ってる。
「ジュスタも同じ気持ちですよ!」
「あ!?」
ガイオは私をにらみつけて固まる。足を踏ん張って、地面をにらみつけ……考え込んでるのかな?
「……分からん! 分からん分からん!」
両手を振り回して、邸のほうに歩き出す。
ついて行こうかと思ったけど、菜園は案内したから、ジュスタのほうへ行くことにした。
ジュスタと一緒にペロを呼んでると、草むらからペロがのそのそ出てきた。
「おお! ペロよかった」
ペロはジュスタの周りをぐるぐる回ってから、落ち着く。
「ごめんね、ペロ。驚いたよな」
ジュスタがしゃがんでペロをなでてやる。私も隣でなでた。
「ジュスタ、大丈夫ですか? 怒りましたか?」
ジュスタはにっこりする。いつも通りの優しい顔で、ちょっとほっとした。
「心配させたね。……うーん、ガイオさんにも悪いことしたな」
ぽりぽり頭をかくので、首をかしげた。
「そんなことないです! ジュスタの作った道具で竜さまを傷つけるなんてダメですよ!」
「実は――竜の骨を加工できるって聞いたときから、もしかしたら、そういう風に考える人がいるかもしれないって思ったんだ」
びっくりしてジュスタを見つめる。
「俺はそんな気持ちで作ったわけじゃないけど、道具は誰の手にも扱えるものだろ? 誰かがそんな使い方をするかもって、ちょっと怖かった。だから、向きになりすぎたな」
なんと。ジュスタはとっても優しい。
「ジュスタは悪くないですよ! ジュスタが作った道具ですから、ジュスタが使い方を教えるのは当たり前です! エーヴェも教えてもらいました!」
ケガしないように使う方法を教えてくれたのと同じことだ。変な使い方を考えたガイオが悪い。
「その使い方は嫌だって、道具は言えません! エーヴェ、大事に使います!」
鼻息荒く宣言すると、ジュスタがにかっと笑う。
ぐいぐい頭をなでられた。ジュスタにしては荒っぽいけど、いい気分。
ペロがぺっと白い石を吐き出す。竜の骨の粉を固めた石。
「ペロもジュスタを励ましてます!」
得意になってると、ペロはまたその石を飲み込んだ。
「……あれ?」
「あはははは!」
ジュスタが楽しそうに笑った。
お昼になって、邸に戻る。食堂ではシステーナがお昼ご飯を作ってる。
「おー、おちび、戻ったか」
「戻ったよ! ガイオ見ましたか?」
台所を見回しても、ニーノもガイオもいない。
「ニーノが屋上で薬草干してっけど、たぶんそこにいるんじゃねーか。ま、そろそろ飯だかんな。こっち来んだろ」
「お、分かった!」
気になるので、屋上に登る。
屋上に着く前に話し声が聞こえてきた。ガイオのガミガミ声じゃなくて、ニーノの落ち着いた声。薬草について説明してる。
「長い期間保存できること、必要な時にすぐ手に取れること。その二つが重要です」
乾燥台の上に薬草を並べるニーノの隣で、ガイオは動物みたいにそれぞれの薬草をのぞき込んだり、においをかいだりしてる。
「どうした」
こっちに気づいたニーノにぴんと背を伸ばす。
「見にきました!」
ガイオと反対側のニーノの隣に行く。
「何してますか?」
「ガイオさんに説明だ。邸のいろいろなことを管理してもらわなければならない」
ニーノはそう言うけど、ちょっと腑に落ちない。
システーナによると、ガイオはすぐに行き倒れてる。管理なんてできるのかな。
「なんだお前、俺が頼りないとでも思っているのか?!」
おお、考えを読まれた。
「エーヴェはガイオのこと知らないから分かりません! ニーノはガイオが頼りになりますか?」
ガイオさんと呼べ、と怒ってるから、さっきよりは元気になったかもしれない。
「ガイオさんは頼まれたことはやろうと心がける。一つのことを続ける力もある」
「ふーん」
まあ、二百五十年以上、竜さまに挑戦してるなら、継続力はある。
ニーノに誉められて、ガイオは鼻高々。
「おーい、昼飯だぞー!」
一階からシステーナが大声で知らせてきた。
顔を輝かせてガイオは屋上から飛び出して行く。
「あ!」
システーナなら、抱えて飛んでくれるのに!
ムッとしてニーノを仰ぎ見る。
「本当に信用できますか?」
「――ガイオは私たちに悪意はない。何もかも押し付けだが、私たちのためになりたいとは思っている」
何もかも押し付けってところが致命的にダメなのでは?
「頼み事をすれば、互いに悪くない関係になれないかと思う」
ニーノが歩み寄るなんて、すごい。
「でも、ガイオはりゅーさまを攻撃します! ニーノは怒りませんか?」
「当然、腹立たしい」
「おお!」
「ケンカをした時期もあるが、それは竜さまのためにならないと結論した」
ニーノがケンカ! とっても怖い!
「どうしてためになりませんか?」
「私と戦った結果、より戦うのが上手くなり、竜さまにご迷惑をおかけする」
「おお!」
そうか、相手を負かそうとして編み出した技が、大切にしてるものに向かったんだ!
「ジュスタと似てます」
「何がだ?」
さっきのことを話すと、ニーノはちょっと眉をひそめる。
「――貴様は気にするな。ガイオが自分で気づかないと、何も変わらん」
「ガイオがりゅーさまに迷惑かけたらいやですよ!」
「竜さまは特に気にしていない。ここでの暮らし方は教えてやれ。それ以外は不要だ」
確かに、ガイオが挑戦してきても竜さまは怒ったり困ったりしてなかった。こういう人間もいるんだな、くらいなのかも。
「でも、エーヴェ、ガイオがどうしてりゅーさま嫌いか知りたいです!」
ニーノは薬草を広げる手を止めて、こっちを見下ろしてきた。
「好きにしろ。おそらく手こずる」
「分かりました!」
意気揚々と手を上げて、お昼ご飯のために食堂へ走った。
食堂ではお屑さまとガイオの言い争いが始まってる。
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