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7.ガイオの大騒ぎ

思いのほか、話のペースが遅いです……。

 翌朝もガイオはうるさい。お屑さまとさっそくケンカになる。

 ――なにゆえ、ガイオがここにおるのじゃ! どこか遠くに吹き飛ばすのじゃ!

 お屑さま的に、吹き飛ばすのがいちばん重い(ばつ)なのかな?

「薄おしゃべりめ! お前こそ、人間の家に居座るな!」

 ――ぽはっ! わしは皆から招かれたゆえ、ここにおるのじゃ!

「それなら、俺もニーノに招かれたぞ!」

 ――なんじゃと! ニーノ、なぜこのような()(もの)を招いたのじゃ!

「申し訳ありません。少し手伝ってもらいたいことがあったので」

 謝るニーノに、ガイオが(げき)(こう)する。

「なぜお前が謝るのだ、ニーノ! 薄おしゃべりめ! ニーノが謝ることではない!」

 ――そうじゃー! そもそも、お主がここにおるのが不愉快なのじゃ!

 話が渦を巻いてる。

「もー! ガイオ! 菜園に行きますよ!」

 地団駄踏むと、ガイオが振り返った。

「ガイオさんと呼べ! ふん! 薄おしゃべりになぞ、かかずらっておれん!」

 ――ふがー! どこまでも無礼なのじゃ! 吹き飛ばすのじゃ!

 お屑さまは高速でぴこんぴこんしてる。


「ガイオはどうして竜さまたちと仲良くしませんか?」

 菜園へ案内しながら、頰をふくらませて聞く。

「お前はどうして仲良くする?」

「りゅーさまは偉大! 立派! エーヴェは大好きですよ!」

 ガイオは大げさに鼻を鳴らした。

「愚かな! 感情だけではないか!」

「ガイオも感情だけです」

「ガイオさんと呼べ。感情だけではない。竜は人を食うのだ」

 きょとんとなる。深刻そうな横顔を見上げた。

「りゅーさまは鉱石を食べます。お屑さまは波を食べます。おどろさまは泥を食べます。お骨さまは何も食べません! ガイオの勘違い」

 ガイオが憎々しげに見下ろして来て、舌打ちした。

「勘違いではない。しかし、お前に話す気はない」

「むー! ガイオは無礼!」

 ガイオが怒り出す前に、菜園に着いたので、紹介する。

「ここが菜園ですよ! ジュスタが世話してます」

 水をくんできて、植物にかけながらあいさつだ。

「はい、ガイオもどうぞ」

「ガイオさんと呼べ。何がどうぞだ」

「名前を言って、あいさつしますよ。ガイオは初めてここに来ました」

 ぽかんとしたガイオは、いつもの台詞も忘れてる。

「相手は草だぞ? なぜ名乗る必要がある」

 おお、ある意味まともな反応。

「礼儀です! エーヴェたちの都合でここに来てもらいました。あいさつは当たり前」

 ガイオは分かったような分からないような顔で、バショウに向き合う。

「……ガイオだ。初めまして」

 あいさつしても、分かったような分からないような顔。

「どんどんみんなと仲良くなります!」

 ガイオを引っ張り回して、いろんな植物を紹介した。


「お前、俺をだましていないか?」

 全部の植物にあいさつを終えて、なんだかガイオはぐったりしてる。

「エーヴェ、だましません! 菜園で採れたものがエーヴェたちの食べ物になりますよ」

「おお、それはすごいな」

 ちょっと元気が出たみたい。ガイオは食べ物には熱心みたい。

「じゃあ、次は工房に行きます!」

 走ると、ガイオも追いかけてきた。


 工房に着く前に、チガヤの原っぱに出る。

「あ、ジュスター!」

 骨の加工をしてたジュスタが顔を上げた。

「あ! ヒゲ!」

 ジュスタは目を円くして、顎をなでつつ、苦笑した。

「はい。ちゃんとそります。――ガイオさん、来たんですね」

「まあな」

 ガイオ、胸を張って、偉そう。

「お前は何をやってるんだ?」

「竜の骨の大きさをだいたいそろえてるところですね。――あ、ペロ」

 軽い鉢をかぶったペロが、ジュスタの足下にのそのそやってくる。

「あれ? ペロは何を食べてますか?」

 ペロの中に、白い丸いものが浮いてる。

 ……石かな? でも周りに似た石はない。

「ああ、これ。すごいんだぜ」

 ジュスタがしゃがんでペロの前に掌を差し出すと、ペロは白い丸石をぺっと吐き出す。

 手渡されてびっくりした。紙粘土細工みたいに軽い。

「竜さまの骨の粉を固めて、ペロが作ったんだ」

「おおぉー――! ペロ! すごい!」

 鉢をぺちぺちたたくと、ペロはすささっと向こうに逃げた。


「お前ら、ちょっと待て。そのペロという生き物は何だ? まるで水のようだが……」

 そうか。ガイオ初めて気が付いたんだ。

「ペロはりゅーさまのよだれから生まれました」

「竜のよだれ――?」

「ニーノさんが、竜さまの涎を発酵させたら、たまたまこうなっちゃったみたいですよ」

 ジュスタがにこにこ言うのに、ガイオは目をパチパチする。

「ニーノは何を考えているのか!」

 いきなり足を振り上げてペロを踏もうとするので、ジュスタと二人がかりで押さえた。

「何しますか! ガイオ!」

「ガイオさんと呼べ! 竜の(けん)(ぞく)だろう!」

「いやいや、ガイオさん、落ち着いて!」

「ペロはただの水玉ですよ! りゅーさまのよだれだけど、全然竜じゃないです!」

 ペロは高速で逃げていったので、ガイオを離す。

 ガイオは息が荒い。びっくりだ。温厚なジュスタもさすがに眉をひそめてる。

「やめてください。ペロは船のアイディアをくれたり、俺のケガを治してくれたりしたんですよ」

「何?! 何か考えがあるのか? ますます危ない!」

「危ないのはガイオです!」

「うるさい。ガイオさんと呼べ!」

 何だ、この人! 竜さまへの(てき)(がい)(しん)が強すぎる。

 一人ぷんぷんしてると、ガイオの深い藍色の瞳がきらっと光った。

「ところで、ジュスタ、竜の骨を加工していると言ったか」

「え? ――はい」

「それは竜の骨を切るということか?」

 ジュスタが目を見張って、口を引き結んだ。

「そうです」

「お前! 良い物を作ったのだな! 俺にもその刃をくれるか!」

 ジュスタが押し黙る。

 ……何だ?

 二人の間に流れた沈黙にきょろきょろと顔を見比べた。

「ガイオさん。まさか俺が作った刃物を、竜さまに向ける気ですか」

 固い声にはっとした。

 考えたこともなかった!

 竜の骨を加工できるってことは竜さまを傷つけられるってことか!

 ばっと見つめたガイオの顔は、ちょっと驚いてるみたい。

 理由はすぐに分かった。

「ガイオさん。――あなたが竜を憎む気持ちをとやかく言うつもりはありません。でも、もし俺が作った刃物を使って、竜さまを傷つけるようなことがあれば、俺はあなたを二度と友人だとは思いません」

 こんなに怒ってるジュスタ、初めてだ。

 切れ味のいい刃みたいな緊張感に、足が震える。

「俺はこの世界にいる竜さまも、生き物も、大好きなんです」

 蜂蜜色の目は笑ったけど、ガイオも私もしばらくそこから動けなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ガイオ、打ち解けられそうで打ち解けられないのがもどかしいです。ペロを踏んづけようとしたのは許せない。あんなに愛らしくて和みの水玉なのに。でも踏んづけててもガイオの足がぎゅうっとなっただけかも…
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