6.尻尾にかかった招待客
間隔が開きがちで申し訳ありません。
お骨さまとの木の上散歩は楽しい。お骨さまが近くに来ると、鳥が飛び立ったりサルやリスが逃げたりする。その度に、お骨さまはきょろきょろ辺りを見回して、嬉しそう。
――たくさん生き物がおるのじゃ。友の座はとても楽しいのじゃ。
「お骨さま、楽しいです。エーヴェも楽しいです」
――おお! エーヴェが楽しいと、わしも楽しいのじゃ。
システーナにおんぶされてるだけだから、わくわくしてるお骨さまの様子がたくさん見られるのも嬉しい。
「お骨さま、こっちに沢があるんで、そっちで降りられます!」
システーナが指さして、石がいっぱいの浅い沢に降りた。
お骨さまは思い切りよく、ひょいっと飛び込んでくる。骨がバラバラになりかけたけど、すぐに元通り。
そのまま沢をのぞき込んで、頭をカタカタ揺らした。
――おお! 水じゃ。水が流れておる。とても久しぶりなのじゃ。
お骨さまは沢の中に入り、足下を流れる水の様子に尻尾をうねらせる。流れの真似かもしれない。
「お骨さま、水は平気ですか?」
ントゥは岩に降りて、沢の水をぺろぺろなめてる。お骨さまは後ろ肢で立って、ひょいひょい跳ねた。水がキラキラ散る。
――うぉほ、うぉほ。久しぶりなのじゃ。なんとこそばゆい。冷たくてさやさやと流れるのじゃ。
お骨さまは骨になってから、ずっと砂漠にいるのかな。だとしたら、水の流れに触れるのは、想像よりはるかに久しぶりなのかもしれない。
きょきょきょきょきょ……
お骨さまの羽の軋みが、いつもと違って森の中に吸いこまれて消える。
ほぅほうほぅほう……
「あ、サルです」
お骨さまの羽の音を勘違いしたのか、サルの吠え声が返ってきた。
――おお! 誰かが羽を鳴らしておるのじゃ。
何度も何度も羽を振って、お骨さまはとっても嬉しそう。
「お骨さま、森の中にも来られました! いろんなことができます!」
――エーヴェもシスも賢いのじゃ。二人がわしを案内したのじゃ。
ぱかっと口を開けたお骨さまは、首をかしげてこっちをのぞき込んできた。次は何をするのか、わくわくしてる。
とんとーん、と軽いリズムでテーマイが茂みから飛びだしてきた。沢に大きな骨がいる様子に二、三歩引いたけど、ぷるぷるっと首を振ってその場に留まってる。竜さまの仲間だと分かってるみたい。
「みんなで沢遊びです!」
水をどのくらい見事に周りに散らせるか、競うことにした。
円を描くように、腕を振って水を飛ばす。うまくいくと水の橋が架かったみたいになる。システーナは高く跳び、二回転して落ちてきて、ぱしゃーんと水しぶきを上げた。テーマイはぱちゃんぱちゃん走り回って、ントゥはお骨さまが振る尻尾をタイミング良く跳んでかわして、気分がよさそう。
お骨さまは水面をかすめてぶーんぶーんと尻尾を振る。広い範囲がきらきらっと輝いて、やっぱりいちばん見事。
喝采してたら、お骨さまが首をかしげて、尻尾を振り返った。
「どうしましたか?」
――何か引っかかったのじゃ。
尻尾を上げると、べしょべしょにぬれた大きなかたまりが引っかかってる。
ントゥが吠え、テーマイは五メートルくらい離れた。
黒いかたまりには、頭が見える。
「あー!」
「ガイオじゃねーか」
システーナは呆れた声で言ったあと、げらげら笑った。
お骨さまがガイオを岸に上げてくれた。
「なんで水に溺れてますか?」
「まー……腹が減って川に倒れ込んだとか、そんなんだろ」
システーナは一切心配してない。
「仕方ねーなー――。ニーノはめちゃくちゃ忙しそーだから、あたしが連れて帰っか」
話しながら、気道確保して、拳一つで水吐かせてる。すごい。
咳き込んで息を吹き返したガイオを担ぎ上げた。
……やっぱり危なかったのでは?
「おちび、テーマイと一緒に邸に戻れっか?」
「お! テーマイ、一緒に帰れますか?」
テーマイは鼻を動かしただけで、特に反応なし。
――戻るのか? また木を渡るのじゃ。
お骨さまはがっかりした様子もない。頭にントゥを乗せると、羽をバタバタしながら木に登っていく。
システーナは、ガイオを担いだまま、軽々と跳躍して森を越えて行ってしまった。
「テーマイ、いこ!」
鍛錬の道の方向に走って振り向くと、少し考えてたテーマイが、ぽーんぽーんと跳ねて一緒に来てくれた。
「ニーノ、ガイオ来ましたか?」
邸の前で大声を上げる。テーマイは入口から中に入らない。でも、気配を感じたのかスーヒが走って出てきた。
二人がお鼻挨拶をしているのを横目に、食堂に駆け込むとガイオがご飯を食べてた。
「ぎゃ! ガイオです!」
ガイオが立派な眉毛を片方上げる。
「ガイオさんと呼べ」
「何ですか、この人は!」
ご飯食べさせてもらってるのに!
「少し早いが、貴様も夕食にするか、エーヴェ」
ニーノが葉包み焼きを持って来てくれたので、ガイオからいちばん離れた席に座る。
ガイオは服は着替えてるけど、髪はまだぬれてる。さっきまで溺れてたのに、勢いよくご飯を食べてて、あやしい。
「なんだ、お前。なんでそんなに遠くに座る。こっちに来い」
「いやですよ!」
「何?!」
「はっはー、嫌われてらー」
システーナもご飯を持ってやってきた。ガイオの前の席に座ったので、ガイオの近くに行かなくて済む。
「ニーノ、ガイオはお腹空いてましたか?」
切ったラオーレを持って来てくれたニーノに聞く。
「ガイオさんはたいてい空腹だ。私が招待したから、来てくれたらしい」
「そうなの?」
ガイオは眉を寄せて、でも口はしきりにもぐもぐしてる。
「お前たちが作った暮らしは大事なものだ。竜がいないなら、手伝ってやる」
うーん、よく分からないけど、竜さまは嫌いで人間は好きなのかな。
「エーヴェ、最近、菜園に行ったか」
「あ、行ってないです」
ジュスタが船にかかりきりだから、菜園を見る人がいない。ニーノが忙しくなるはずだ。
「明日、ガイオさんを案内して、作業を教えてやれ」
「え!」
「あ?」
ガイオも不服そうな顔。
「お前、ヒナ上がりのくせに、教えられるのか」
「お? ガイオはエーヴェをばかにしています!」
口を尖らせると、ガイオも口をへの字にする。
「ガイオさんと呼べ! できるのか聞いているだけだ!」
「できますよ!」
「では、任せた」
むっとニーノを見る。
……あれ? なんかうまく丸め込まれた気がするぞ。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




