2.身軽な骨
意気揚々と出発したけど、お骨さまは洞の後ろの出口を出られない。バラバラになって運び出すにしても、時間がかかっちゃう。
三人ですごすご洞の入口に引き返して、テーブルマウンテンを見上げた。
――友は軽いゆえ、斜面を伝っても向こう側に出られよう。
私たちの動きを眺めてた竜さまが来て、一緒にテーブルマウンテンを見上げる。
――うむ。そうするのじゃ。
「エーヴェもお骨さまにつかまっていきます!」
お骨さまの後ろ肢に取りついて登り始めると、お骨さまがくるりと顔を向けた。
――それがよいのじゃ。水玉がしっかりひっついておるゆえ、一緒にひっつくのじゃ。
顔を寄せてくれたので、えいやっとお骨さまの鼻に取りつく。そこから頭の上までよじ登った。ペロと一緒に座ると、一安心。
「わぁー! りゅーさまー!」
お骨さまが首を上げて、竜さまの顔が目の前。興奮して手を振る。
――エーヴェ、ペロ、友、落ちるでないぞ。
「はい!」
――はい! じゃ。
お骨さまは羽をバタバタ――実際はきょっ、きょっと鳴ってるけど――して、斜面をひょいひょい進んでいく。
「ふわー、高ーい!」
谷底までぐいっと見下ろせて、すごい景色。しかも、お骨さまがゆらゆらするから、高所恐怖症だったら吐くかもしれない。
――高いのじゃ。山なのじゃ。谷なのじゃ。
お骨さまはきょろきょろ見回しながら、でっぱりに上手に足を掛けて向こうの岩棚までたどり着いた。
「お骨さま、身軽です!」
――そうじゃ。骨じゃもの。
お骨さまは誇らしげ。次の瞬間、ぱかっと口を開け、首を下げる。
「うわ!」
急な動きで、びっくりだ。ペロにつかまっててよかった。
――これは、友の糞に見えるのじゃ。
「そうです。りゅーさまのうんこ」
白い砂の坂に、お骨さまは喜んで滑り出す。そりみたいに、さーっと降りていく。
「おおおー!」
――ちょっと砂漠に似ておるのじゃ。む? じゃが、すぐ下が土じゃから潜れぬ。
途中から木が生えてるので、お骨さまは引き返す。頂上に着いたと思ったら、また滑った。
「お骨さま、りゅーさまのうんこにはときどき生き物が入ってますよ」
頭から降ろしてもらって、ジュスタと一緒にしたみたいに探す。大きなトンボがつかまったのが見つかって、頭上にかざした。
――おお! トンボじゃ。つかまっておる。
「エーヴェたち、りゅーさまのうんこからガラスを作ります」
トンボをそっと地面に返す。
――ガラスとは何じゃ?
「邸にありますよ。後で見ましょう!」
お骨さまに見せる物がいっぱいあって嬉しい。
お骨さまとさらに歩いて、岩塩が出る岩棚に行く。
――おお、ここはよく混ざっておるのじゃ。
「お骨さま、すごい。分かりますか?」
――色がたくさんあるのじゃ。きれいなのじゃ。
見回してみるけど、きれいというほど色とりどりには見えない。前に、お屑さまに教えてもらったから違う種類の岩や石だと分かるけど、それだけだ。
そういえば、お屑さまも岩が混ざってるって興奮してた。
もしかしたら、竜さまたちには違う色が見えてるのかも。想像すると不思議な気持ちになる。
せっかく来たので、塩を探して拾った。お骨さまは岩を眺めたり、空行く鳥にあいさつを送ったり、崖をのぞき込んだりしてる。ペロはお骨さまの骨伝いに大冒険。ときどきお骨さまにびゅんびゅんされて、水玉形になってる。
ポケットいっぱいの塩を拾って、満足して立ち上がった。
「お骨さま、帰ります! エーヴェ、お腹すいた」
――お腹がすいたのか。それは急いで帰らねばならん。
一大事みたいに首を起こして、お骨さまはまた頭に乗せてくれる。ペロも頭の上に来て、安全対策ばっちりだ。
――急ぐのじゃ。
お骨さまはひょいひょい走り出した。途中の白い坂をちょっと滑ってから、駆け戻ってテーブルマウンテンの側面を渡りきる。
「お骨さま、すごいです」
森の中を通るのは、木の間が狭くて、しかも下にいろいろ生えてるからお骨さまは避けてるけど、これなら、森の木の上もひょいひょい走れるかも。
――お腹はだいじょうぶか?
お骨さまが頭を下げてくれたので、地面に飛び降りる。
「大丈夫です! きっとニーノがお昼ご飯くれます」
宣言したところで、洞の中が見えて口が開いた。
噂した人物の姿がある。
「ニーノだー」
――ニーノと友じゃ。
お骨さまと洞に入った。
洞の中はすごい匂いだった。
かいだことのある匂い。ニーノの薬の匂いだけど、数倍強い。
ニーノが竜さまの側で、すりつぶした薬草を布にぶちまけた。
竜さまが顔をこっちに向ける。
――戻ったか。
「戻りました!」
――友、これは何じゃ?
ニーノは肘まで薬草色に染まって、大きな布に薬草の山を押し広げてる。
――ニーノが手当てすると聞かぬ。
薬草を塗った大きな布を竜さまのお腹に貼り、どうやって作ったのかとびっくりする長い布でぐるぐる巻き付ける。
「りゅーさま、ケガしましたか?」
竜さまはやわらかく鼻息を上げた。
――友と重なったとき、いくらかあばらに刺さったのじゃ。少し傷むが大きなケガではない。
「なんと!」
竜さまのお腹に目をこらしてみるけど、血は出てない。打ち身みたいな感じかも。
ぽかんと口を開けたお骨さまの口を、竜さまが頭でそっと閉じさせた。
――傷むのか? わしが友を刺したか? なんと……。
――別に刺そうと思って刺したわけではない。速く飛んだゆえ、しがみつかねば皆振り落ちたであろう。初めてのことには、思いがけないことがよく起こる。
お骨さまは竜さまに首を絡めて、しょんぼりする。
私もしょんぼりだ。
骨は体の中にあるものだから、外から重なったらうまくいかないところもある。
「りゅーさま、ケガしました……」
金の目がこっちを見た。
――エーヴェ。生きておれば、たまにはケガもする。友と空を飛んだほうがよいのじゃ。
ちょっと涙が出そうになったけど、瞬きでこらえる。
「はい、分かりました!」
竜さまは偉大だ。
でも、これからは竜さまとお骨さまが重なって長く飛ぶことはないはず。きっとニーノが許さない。
お骨さまも一緒の旅を実はちょっぴり期待してたけど、難しいかな。
しんみりした気分で、竜さまの手当をお骨さまと見守った。
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