表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

224/300

1.森に初めて響く音

 座に来てたっぷり、お骨さまはいろんな場所でントゥを呼んでは、感じ入ってた。羽を広げて同じ姿勢で固まってるから、ときどき鳥が止まったり、小さな動物が間違えて登って慌てて降りていったりする。いつものお骨さまなら大喜びで追いかけていくはずだけど、感じ入ることに忙しいみたい。

 竜さまはそんなお骨さまを眺めて、ときどき側に行ってどっしり座ってた。

 でも、だんだん調子が戻ってきて、洞から(やしき)までの道を走ったり、邸の屋根に顎をのせてくつろいだり、菜園に踏み込んでトウモロコシ畑をなぎ倒したり。

 今日から本格的に遊べそうだと思った二日目。朝ごはんの後、邸の前にお骨さまがいてびっくりした。

「お骨さま!」

「おはようございます、お骨さま」

 ニーノがあいさつすると、お骨さまは(きゆう)(くつ)そうに首を曲げて邸の入口に顔を近づける。かたわらには、ントゥがぐったり横たわってた。

 着いた直後は目を回してたけど、しばらくしたら気がついて、お骨さまと一緒にあちこち走り回ってたントゥ。

 ――ニーノ、ントゥの元気がないのじゃ。音が多すぎるのじゃ。

「音が多い?」

 耳を澄ましてみる。森からはいつものように鳥や動物の声が聞こえる。

「エネックはとても耳がいい。ここから、下の沢にいるカエルが水に落ちた音が分かるほどだ」

「え!」

 下の沢まではたぶん二キロメートルくらいある。そんな範囲の小さな音でも分かるなら、ひっきりなしに音が聞こえるはず。

「ントゥ、大変です」

「そうだな」

 ニーノはわたみたいな物を、ントゥの大きな耳に詰め込み、柔らかい布で頭ごとくるくる巻く。ターバンみたい。

「しばらく休ませましょう。徐々に環境になれるはずです」

 ――ントゥは元気になるか?

 ニーノが答える前に、ントゥの尻尾がふぁたっと動いた。

「体が違う環境に驚いているだけです」

 ――そうか! わしも友の座にはびっくりなのじゃ。ントゥもびっくりしたのじゃ。

 お骨さまは頭をあちらこちらと傾けながら、ントゥの様子をうかがう。ントゥはほそーく開いた目で、動きを追ってるみたい。

「ニーノ、ントゥは食堂に連れて行きますか?」

「いや」

 ニーノはいったん邸に入って、戻るとントゥを抱え上げる。

 歩き出したニーノを、お骨さまと追いかけた。

 菜園へ向かう途中の木の根元に、穴が開いてる。

「あ! これ、スーヒが掘った穴ですね」

「ああ。許可をもらった」

「お! エーヴェがやるよ!」

 穴の中にントゥを入れる。でも、ニーノだと狭くて動きにくいから、交代した。

 ぐったりしてても、ふかっとしたントゥの毛並みに少し感動する。

「よくやった。――似た環境ならば負担も少ないでしょう」

 ターバン姿になったントゥは、穴の中でくるっと丸まってる。お骨さまは穴に鼻を近づけて、首を上げ、ぱかっと口を開けた。

 ――よかったのじゃ。ントゥはちょっと休むのじゃ。

 お骨さまは穴の様子をうかがいつつ、ゆっくり邸に後退した。


 安心したお骨さまと一緒にお散歩する。

 邸から洞までの道は岩伝いで木や茂みがないから、お骨さまもひょいひょい歩ける。

 ――友の座はみずみずしいのじゃ。歩いておると、たくさんの水の粒が触れるようじゃ。

 お骨さまの周りにたくさん水の粒が浮いてるなんて、素敵だ。

「こそばゆいですか?」

 ――こそばゆくはない。……ちょっと、しっとりするのじゃ。

「お骨さま、しっとり!」

 すごく面白くてけらけら笑う。

 ――ふむ、なんじゃ? 尻尾の先がひやりとするのじゃ。

 お骨さまと一緒に見ると、ペロがくっついてた。

「ペロ! いつの間に!」

 ――おお、水玉なのじゃ。ぺったりくっつくのじゃ。

 尻尾をちょっと振ってみても、ペロは離れない。

 お骨さまはさらにびゅんびゅん尾っぽを振る。ペロは水玉形になってるけど、しっかりくっついてる。

 ――おお! 面白いのじゃ。離れない水玉なのじゃ。

「ペロすごーい」

 拍手する。ペロもお骨さまも楽しそう。

 

 ペロはお骨さまの頭の上に移動した。ントゥがいたら怒るから、珍しい光景。

 お骨さまはちょっと進んではあっちこっちと首を向けて、嬉しそうに口を開ける。お骨さまが見てる方向を見て、花や草や虫を見つけると、私も嬉しくなる。

「あ! りゅーさま!」

 洞の入口から顔を出した竜さまに手を振った。

 ――友ー!

 お骨さまがひょいひょい走り出すので、慌てて追いかけた。

 ――エーヴェ。おはよう。

「おはよーございます!」

 ――おはよーございます! じゃ。

 羽をバタバタするお骨さまに、竜さまも羽をバタバタして応える。

 ――友よ。先ほど朝のあいさつはしたぞ。

 ――うむ? そうであった。ントゥのことで忘れたのじゃ。

 ――ントゥは大事ないか。

「大事ないです! 今は体を慣らします」

 スーヒが穴掘り得意でよかった。

 竜さまが金の目を細める。

 ――うむ。砂漠とはずいぶん違うゆえ、仕方あるまい。

 ――ントゥは元気になるのじゃ。よかったのじゃ。


 きょきょきょきょきょ


 お骨さまが羽を鳴らす。森には初めて響く音。

 きっとみんなびっくりしてる。

 ――まもなく、シスとジュスタが戻る。エーヴェ、それまでに、友にどこか案内してはどうか?

「おお! はい! 案内します!」

 竜さまに頼み事をされた。これは張り切って案内するぞ。

「お骨さま、塩を見に行きましょう!」

 ――見に行くのじゃ!

 私は両手を上げて、お骨さまは羽を広げて、ペロはリラックスモード。三人で、洞の向こうの岩棚に向かった。

評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ントゥ、大丈夫だったけど大丈夫じゃなかったみたい。またお骨さまと一緒に竜さまの座を巡れるようになるといいな。 お骨さまが感じ入る姿にやっぱりジーンときます。それに感動は分かち合えるントゥがい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ