23.夕陽の最後の光
邸に帰ることになったけど、特大ポップコーンの箱はかさばるので、竜さまが乗せるのは難しい。くくった骨だけでもたくさんある。
「じゃあやっぱ、あたしとジュスタで運ぶかー? あたしだけでも持てっけど、はじけ菓子のあつかいはジュスタのほうがうまそーだ」
「賢明だ」
「へっへー、そーだろ」
ニーノの賛同(?)に気を良くしたシステーナが胸を張る。
システーナとジュスタが、走って帰る班。
「骨もシスさんと俺で運びましょうか? 竜さまはお骨さまと一緒に飛ぶんですから、早く邸に戻られたほうが」
「……お? りゅーさまは砂漠に行くとき、ゆっくり飛びましたか?」
竜さまを見上げると、お骨さまの真似をして、額の上にボールをのせてバランスを取ってる。
とっても素敵。
――ゆっくりではないが、もっと速く飛ぶことはできる。
こっちを見た拍子に、ボールが箱にころっと落ちた。
「お骨さまは問題ありませんか?」
――何じゃ?
お骨さまは落ちたボールと竜さまの顔を見比べてたけど、ニーノの言葉に振り返る。
「竜さまの背から、離れてしまうことはないのでしょうか?」
そうか、速く飛ぶと、同じ竜でも吹き飛んじゃうのか!
――分からぬ。初めてのことじゃもの。じゃが、わしは落ちても大丈夫なのじゃ!
――友のことはわしが気にかける。問題なかろう。
竜さまの言葉に、お骨さまがきょきょきょと骨を鳴らした。
――む? わしは誰と行くのじゃ?
「お屑さまはあたしと帰ろーぜ」
お骨さまでも離れることを心配されるんだから、お屑さまは絶対に吹き飛ばされちゃう。
――うむ! よいぞ! シスは光栄なのじゃ! ぽはっ!
お屑さまはぴこんぴこんする。ガイオがいなくなったせいか、ご機嫌だ。
――よし、では行くか。
竜さまが頭を上げた。
砂漠の時と同じく、竜さまにお骨さまが重なる。
――うぉっほ、うぉっほ!
お骨さまはやっぱりくすぐったいみたい。
きれいに重なったところで、ニーノと背中に乗った。スーヒとペロも一緒。ペロはお骨さまの骨伝いだと竜さまに乗れる。
「ペロ、よかったですね」
ペロは薄ーくなって骨を包もうとしては、ぷるっと元の形に戻る。なんだか嬉しそう。
眺めてたら、体の周りが何かふわふわするものに包まれた。手を伸ばそうとしたら、引っかかって動かない。
「何もないのに、引っかかります」
「網を張った。これで飛ばされることはない」
「おお! ニーノの魔法」
これなら、のんびりスーヒも安心だ。
「あ、ントゥはどこですか?」
――ントゥはわしの頭の下なのじゃ。
――うむ。そしてわしの頭の上である。
二人の間に挟まってるのか! とっても安心。
――さぁ、行くぞ。
竜さまとお骨さまは羽を広げた。
ここは地面が固いから、助走は要らない。
打ち下ろした羽の風圧で飛びそうになった骨を、システーナが慌てて押さえた。
「竜さま、お骨さま、お気をつけてー!」
「ジュスタ、シスー! また後でねー!」
声はあっという間に遠くなる。
地面は高い木の枝にさえぎられて隠れ、木の枝先もずっと下になっていく。
木の上に出ると、竜さまはゆっくりと旋回して高度を上げ、羽の膜を揺らす動きで風に乗った。
――うぉっほっほー! 速いのじゃー。風がすいーすいーと通り抜けるのじゃ!
お骨さまの気持ちが直接伝わってくる。
ニーノの魔法のおかげで、初めて竜さまの背中に乗ったときより周りを見る余裕があるからかも。しがみつくのも、普段竜さまの背中を登るときくらいで大丈夫。
――友よ。空の眺めはどうじゃ?
――友! 空の中におるぞ! 遠くまでたくさん見えるのじゃ。木がたくさんじゃ。鳥も見えるのじゃ。すごいのじゃ、ここが友の座なのじゃ!
「うわっ」
急に大きく傾いて、ビックリする。
――友よ、急に動くでない。
そうか、お骨さま、嬉しくて体が動いちゃったんだ。
――おお、すまぬ。今は友がわしで、わしが友なのじゃ。動かないのじゃ。
――待て待て、固まるでない。ただ乗っておればよいのじゃ。
右に左に傾きながら、竜さまとお骨さまはだんだんコツをつかんできた。どんどんスピードが上がる。
「おお、すごい!」
しがみついても引きはがされそうな重圧を感じる。
風はないけど、吹き飛ばされそう。
「ぅわ! スーヒ!」
スーヒがびゅっと飛ばされて、足をバタバタした。ネットに引っかかったみたいに、空中でもだもだしてる。
「ニーノの網です!」
よかった。森に落ちて行かずに済んだ。
でも、スーヒは混乱して、もだもだしてる。
ニーノが竜さまの背中から手を離して、スーヒの側に行く。何か伝えて戻ってきた。
「なんて言いましたか、ニーノ」
「何もしなくていいと言った」
もう一度見たスーヒは、ハンモックで寝てるネコみたいにおとなしくなってた。毛が激しくなびいてるのと、地面に対して縦向きなのが、奇妙な感じ。
「ペロは平気かな?」
一瞬見つからず、キョロキョロ探す。
ペロはずいぶん薄くなって、お骨さまの骨にひっついてた。
――うむ。分かってきたのじゃ。友よ、よいか?
竜さまの声が頭に響く。
――む? 分からぬが、よいぞ!
「ふぉっ!」
お骨さまが答えた途端、体が竜さまから引き離された。ふわふわ柔らかい何かに支えられて、遠くまで飛ばない。
「ニーノ!」
ニーノも平然とした顔で吹き飛ばされて、網に掛かってる。
「景色を見てみろ」
首を動かすと、景色が目に飛び込んできた。
近くの景色は次々移ろうから、自然に遠くへ目が行く。空気が澄んで、つやつやの空。飛行機ほど高くない。それでも、砂漠の黄色い地平線が、巨木の森の向こうにうっすら見える。一瞬で過ぎる木や花が見えそうで、思わず、何度も振り向いちゃう。
――エーヴェ、夕陽じゃ。
「おわー――!」
竜さまの肩越しに、座の向こう端の山に沈む太陽が見えた。
キラキラに輝いて、金色の光が空じゅうに広がってる。
「あ、あれはりゅーさまの洞です!」
夕陽の光でいつもより赤いオレンジシャーベットのテーブルマウンテンが見える。邸を探したら、見る間に近づいて場所がはっきりした。
「すごい! りゅーさま、とっても速い!」
――うむ。まだ速くなるぞ。
楽しそうな声で、竜さまがまた一度羽を振るう。
ぶわぉ
変な音が聞こえた。ニーノの網は音からも守ってるみたいだから、きっとすっごい音がしたんだ。
変な音の度に、洞も邸も近くなる。
――楽しいのじゃ。友、空は楽しいのじゃ。
うっとりしたお骨さまの声が聞こえたときには、竜さまはテーブルマウンテンの上でゆったり旋回を始めた。
圧がなくなって、網からふわっと竜さまの背中に戻る。結局、ペロはずっとお骨さまにしがみついてた。すごい。
竜さまは今までより慎重に羽を動かして、地面に降り立つ。
――着いたぞ。
夕陽の最後の光が、竜さまの金の目にキラッと映えた。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




