22.ボール遊び大会
トウモロコシの皮でつくった箱に、特大ポップコーンを詰めて運ぶ。箱はスーヒが三匹入れるくらい大きいけど、ポップコーンはかさばって、それが十個も必要だった。
箱に収める間、ガイオはシステーナとボール遊びをしてる。
「おお、よくボールを返したな! やはり、シスは動きが機敏だ」
「へっへー、そーだろ」
ほめられて、システーナは得意げ。ボールの扱いを練習するガイオはとっても真剣。
「よし! だいぶ分かってきた」
何度もやって自信が出て来たのか、胸を反らした。
……うーん、ガイオはよく分かりません。
「私が運んでおく。貴様らは先にボール遊びに行け」
ニーノに言われて、みんなを振り返る。
「ペロー! ントゥ! 行きますよー」
ペロとントゥはお互いに、緊張感のある距離を保ったまま見つめ合ってる。
ペロは追いかけられたから分かるけど、ントゥは今回初めてペロが変な生き物だと気づいた顔。それとも、ペロの頭にポップコーンがくっついてるからビックリしてるのかな?
「ペロー!」
もう一度声をかけると、特大ポップコーンをのせたまま、すささっとこっちへやって来た。ントゥは距離を保ったまま、そーっと歩いてくる。
「スーヒ!」
スーヒはしばらく干し草を求めてニーノにまとわりついてたけど、何か言い含められたみたい。私の足下に来て、鼻をふんふん鳴らす。
「エーヴェは干し草ありませんよ。邸に帰ったら、干し草あります」
大きな葉っぱをどかした道を、みんなで進む。
木の隙間にちらちら、竜さまの白銀の光が見えた。
何度か木の間をすり抜けて、竜さまとお骨さまのところに出た。
竜さまとお骨さまは、お互いにボールをパスして遊んでる。今は、木の枝を越えてボールを飛ばしてる。
「りゅーさま、すごい!」
人間よりずっと大きいとは言え、枝を越えるボールを上げるのはすごい。
竜さまは鼻先や尻尾で、上手にボールを打ち上げている。お骨さまは相変わらず体の穴にボールが落ちてしまうけど、尻尾がラケット代わりだ。特に、背骨に沿って落としたボールを、ぴょんっと尾っぽで弾くのがお気に入りみたい。
「りゅーさまー! お骨さまー! ガイオもボール遊びしますよー」
近くに行って、ぴょんぴょんはねる。
「ガイオさん、だ!」
――おお! エーヴェじゃ! みんなでボール遊びするのじゃ。
お骨さまが頭に乗せたボールが転げて、鼻の穴から顎を通過して落っこちた。
「さあ、勝負だ! ボールを下に落とすと負けだぞ!」
ガイオが竜さまに向けて宣言する。
――うむ。承知した。
竜さまは金の目を細めて、ボールをこっちに飛ばした。
ントゥはあっという間にお骨さまに駆け寄って、肩の上まで行ってしまった。
みんなで大ボール遊び会!
竜さまはとってもボール扱いが上手。ボールが軽いから、鼻息や羽の風圧で細かく動きをコントロールする。でも、頭でボールに触るときは、角に刺さないよう要注意。
お骨さまは空振りが多いけど、ときどきホームランみたいな打球を飛ばす。そして、誰がボールを打ち上げても喜んでくれるので、にこにこしちゃう。
それから、ガイオも思いのほか上手だ。身体能力はシステーナと同じで高く、ニーノみたいに空が飛べるから、変なところに飛んじゃってもすぐさまボールを追いかける。でも、目一杯でボールを打つから、最初みたいにボールが壊れないか心配。
「おちびー! そっち行ったぞ」
ふわっと打ち上がったボールが落ちてくる。ポップコーンだから軽くてスピードが出ないのはいいけど、形がいびつで落下の軌道がふらふらする。それが、ちょっとだけ難しい。
「――ふぁい!」
よろけながら、なんとか打ち上げた。でも、勢いあまって葉っぱに倒れ込む。
ボールはジュスタがうまくお骨さまにあげてくれた。
――エーヴェ、上手なのじゃ!
「うっふっふー!」
「――大丈夫か、エーヴェ!」
お骨さまにほめられて、にこにこしてたら、ガイオがすごい形相で駆けつけてきてビックリする。
「大丈夫ですよ! うまく返せました。ありがとー、ジュスタ!」
手を振ると、ジュスタも手を振り返す。
「竜のせいでケガをするなよ!」
言い捨てて、ガイオはまたボールに向かっていった。
「……何ですか?」
ガイオは謎です!
お骨さまが、ボールを背骨の上で転がして、ントゥがぽんっと横方向に突いた。
――あぁ! ントゥ、早いのじゃ。わしが尻尾で、ぽんとするはずだったのじゃ。
お骨さまはちょっと残念そう。でも、ントゥが頭のてっぺんに来てくるくる回ると、パカッと口を開けた。
「お骨さまー」
声とともにまた飛んできたボールを、今度こそ尻尾で弾く。
――うむ、よいぞ。友よ。
――よいのじゃ! わしはよい竜じゃ! ボール遊びは楽しいのじゃ。
竜さまにほめられて、お骨さまは、ひょいひょい飛び跳ねた。
――ニーノも混ざると良い。
ニーノが運んできた箱を積み上げると、竜さまがひょいっとボールをパスする。
片手をすっと上げるだけで、ニーノはきれいにボールを打ち返す。
ジュスタが取ろうとしたけど、ペロがキャッチして、そのまますささっと走り出した。
「ペロ、こっち、こっち!」
ジュスタの声に止まって、ペロはボールをほいっと投げる。
「ぅわ! ペロ、今、ボール投げました」
五センチメートルくらいだけど、ボールが浮いた。
――ぽはっ! ぺちょの応用じゃ! ちょっとボールが飛ぶのじゃ! 水玉もボール遊びできるのじゃ! ぽはっ!
お屑さまは見てるだけだけど、面白い展開に大喜び。
ホントに全員でボール遊びだ!
でも、スーヒだけは、トウモロコシ皮の箱の横でくつろいでる。
「待て! これは……、何だ?」
一生懸命ボールを追ってたガイオが、急に足を止めた。
ボールが、ほてっと葉っぱに落ちる。
何度もボールが行き来して、私やお骨さまは何度もボールを落としたけど、他のみんなはまだ一度ボールを落としてない。ペロはノーカウント。
「お! ガイオの負けです!」
「うるさい! お前、これは遊びだろう! 勝負ではないぞ!」
「遊びで、勝負ですよ」
ガイオは顔を真っ赤にして、地団駄踏んだ。
「だまされた! 俺は、竜と遊ぶ気はない!」
こんなに楽しく遊んでおいて、何言ってるんだろう、この人。
――ガイオはいつも、遊びに来ておる。
竜さまが首を傾けて、システーナが爆笑した。
「俺は勝負に来ているのだ! 遊びではない!」
「りゅーさまには一緒です」
「竜の気持ちなど知らん! お前、だますなどとんでもないな!」
ひげ面ガイオはかんかんで、指を突きつけて怒ってる。
「エーヴェ、だましてないです。ガイオ、楽しくなかったですか!」
「ガイオさんと呼べ! 俺は、竜に勝つのが楽しみなのだ」
だまされた、だまされたと嘆いて、ガイオはばっと飛び立ってしまった。
高い木の上に突き抜けて、一瞬で見えなくなる。
「え? ガイオー――!」
決まり文句は返ってこない。
「ガイオ、どっか行っちゃいました」
ニーノたちが邸に招待してたのに、来ないのかな?
「招待はした。気持ち次第で来るだろう」
ニーノは全然慌ててない。
「そろそろ移動しましょうか? 日が暮れますよ」
ジュスタがひょいっとボールをお骨さまに投げて、お骨さまは鼻先にぴたっとボールをのせる。
うまくバランスが取れて、ボールは落ちない。
「お骨さま、すごーい!」
システーナと一緒に拍手した。
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