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21.特別待遇

なかなか竜さまが出てきません。

 ニーノが水をガイオに差し出す。

「ガイオさん。私はそちらが好きにすることを(とが)めない。そちらもこちらが好きにすることを咎めないでもらいたい」

 淡々とニーノが説明する。

 ……ん? ちょっと待って。

「ニーノ、貴様って言いません!」

「貴様は黙れ、エーヴェ」

「ほら! エーヴェには言います」

 システーナに報告すると、にやにやしてる。

「まー、ガイオはこの中でいちばん長くここにいっかんなー! あたしはニーノに育てられたけど、ニーノはガイオに育てられたんじゃねーの?」

「ガイオさんと呼べ。ニーノはヒナのときから、引き離しても、すぐに竜の側に戻るのだ」

 思わず、いぎーっと言う顔になった。

「迷惑ですよ! ガイオ、悪い!」

「なんだと、お前! 俺が悪いだ?」

 ガイオはばんばん膝をたたく。

「ニーノはりゅーさま大好きですよ! 無理に離そうとするのは悪い!」

 とん、と肩に手が置かれた。

「エーヴェ、今はいい。それより、ガイオさん、よければ(やしき)に来ませんか?」

「えー!」

 ニーノの言葉にびっくりだ。

 振り返って見たガイオも、ビックリしてる。

 システーナやジュスタもびっくり顔。

 ペロは、特大ポップコーンを頭に乗せてリラックスモード。飲み込むのは諦めたのかな?

「何を言っている? 俺は竜の側には行かんぞ!」

 ――ニーノ! この()(もの)はうるさいのじゃ! ここに置いて行くのじゃ!

 お屑さまが不機嫌にぴこんぴこんした。

「お聞きください、お屑さま。――私たちは遠からず、竜さまと旅に出る予定です。留守の間、邸は閉ざしておこうと思っていましたが、ガイオさんがいてくれるならそれも良い」

「旅に出る? それで、お前達はそろって竜と出かけていたのか?」

「ガイオは、エーヴェたちがりゅーさまと出かけてるの知ってます!」

 竜さまへのストーカーかもしれない。

「ガイオさんと呼べ。俺は耳がいい。竜の羽音はすぐに分かる。さっきはシステーナの岩砕きの音に続いて、聞き慣れない爆音がしたから来たのだ」

 的外れだけど、付き人を心配して来たガイオ。ニーノが邸に招待するくらいだから、一応信頼できるのかな?


 そろそろ干し草がなくなったのか、スーヒがニーノの足下に寄って、ふんふん匂いをかいでる。

 そういえばと見回すと、ントゥは離れたところにいて、牙で何かをあぐあぐしてた。さっきシステーナが投げた干しサーラスが消えてるから、みんなの目を盗んで取っていったのかな。

「竜と飛ぶための船? 何なんだ、お前は! 船は水に浮く物だろう! なぜ飛ばす?」

 ジュスタが今回の砂漠行きについて説明したみたい。またガイオが混乱してる。

「お前たちと話すと頭がおかしくなりそうだ!」

「ガイオは頭が固いです」

「ガイオさんと呼べ」

 こだわりが強い。ちょっとお屑さまみたい。

「竜さまと旅するなら、飛んだほうがいいでしょう?」

「ガイオさん、私たちは竜さまと暮らしていますが、邸は人の居場所です。一度、見てみませんか」

「うまいもん食えるしさ」

 システーナも言う。

 むー。みんな、この頭が固いひげ面を、邸に招きたいのかな?

 なんでだろう?


「ふん! 竜の側になど行かん! さっき、そこにいたな! 勝負だ!」

 ガイオが立ち上がった。

 何日か前みたいに、竜さまとけんかするつもりだ。

 いいことを思いついて、立ち上がる。

「勝負ならボール遊びがいいですよ!」

「……ぼーる?」

 何か分からない、と無言で語るガイオに笑って、ジュスタが特大ポップコーンを持ち上げた。

「こういう感じです」

 ひょいっと投げ、システーナがぽんっと頭ではね上げる。私のほうに山なりに落ちてきたので、両手でぽんっと上げた。

「おおー!」

 みっしりしたビーチボールみたい。

 あんまり高く飛ばなかったのを、ジュスタが上にたたいて、ガイオのほうへ落ちる。

「ガイオ、地面に落としちゃダメですよ!」

「ガイオさん、だ!」

 叫びながら、ガイオがボールをたたく。


 ばん!


「うわ?」

 ――なんと!

 ポップコーンの三分の一がえぐれてしまった。

「ポップコーンが割れました! ガイオ、負けです!」

「負け!?」

 ――この痴れ者め! ボールを壊すとは何事か! 何の遊びにもならぬではないか! ガイオはまったくの痴れ者なのじゃ!!

 お屑さまがぴこんぴこんして、ガイオは()()になる。

「薄おしゃべりめ! お前はこの……()()()をうまく使えるのか!」

「お屑さまは上手だぜー」

 システーナがさっきジュスタが作った小さなボールを投げた。お屑さまはぴこんっと伸び上がって、打ち返す。

「おおー!」

 ジュスタと拍手する。

 ――見たか! わしの軽やかなボールなのじゃ!

 押し黙ったガイオは、さらに返ってきたボールに息をかける。

「なんと!」

 ボールはポップコーンの欠片で軽い。吹き飛ばされちゃう!

 でも、同時に、お屑さまもあおられた。

 ――ぽはっ! 風が吹いたのじゃ! 危なかったのじゃ!

 お屑さまは、無事にボールを突き上げ、ぴこんぴこんする。


 ガイオが舌打ちした。

 これはさすがにむっとする。

「ガイオ! 他の人がすることを邪魔するのは、悪いです!」

「ガイオさんと呼べ。だいたい、薄おしゃべりは人ではない!」

「他の人は、みんなのことです! 人でも、りゅーさまでも、ペロでも、スーヒでも、ントゥでも邪魔しちゃダメです!」

 ガイオは、お屑さまが失敗したら嬉しかったのかな?

 それは、とっても変な考えだ。

「ペロ? スーヒ? ――とにかく、俺にも、もう一度寄越せ!」

 負けず嫌いの発言に、ジュスタがひょいっと別の一個を投げた。

 今度はうまく飛んで、システーナが打ち返す。

「このボールを落とさなければ、俺の勝ちか」

「そうですよ!」

 決めたばかりのルールだけど。

 その瞬間、お屑さまに向けて投げられたボールを、ニーノが打ち上げた。

「――わ……」

 ――おお! 高く上がったのじゃ! ぽはっ!

 高く飛んだボールを見上げて、お屑さまははしゃいでる。

「お屑さまには専用のボールがあります」

 ニーノの眉間にしわが寄ってる。

「あぶないです! お屑さま潰れます! ガイオ、悪い!」

 指さすと、ガイオは胸を反らした。

「ガイオさんと呼べ。竜をかばうお前たちのほうが愚かしいぞ!」

 むー! 話が通じません。

 ジュスタがのんびりした様子で首をかしげる。

「それで、ガイオさんは竜さまとボール遊びをするんですか?」

「おう、勝負だ!」

 ガイオは意気揚々で答えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ペロ、ちょっと張り詰めた空気をほわっと緩めてくれる清涼剤、癒されます。 で、ガイオ。癖があるけど確かに悪いひとじゃないですね。いい人だ!!と言いきれない頑固さもエーヴェとの会話で可愛らしさに…
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