表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/300

おまけ

軽い話なので、もしできれば次の話まで今日中に上げたいです(希望)。

「システーナ! 貴様!!」

 よく響く声で目が覚めた。

 ニーノだ。まだ、薄暗いのに、どうしたのかな。

 寝台の上でぴよぴよしていると、微かに変な匂いがした。

「なんか……くさい」

 なんだろう、知っている匂いだ。

 半分夢の中でうつらうつら考える。

 ――あ、思い出した。これ、温泉の匂い!

 はー……、懐かしい。あったかいお風呂なんて、この世界、ないもんなあ。

 川での水浴びや、くみ置きの水をかけてもらうくらい。

 ――でも、竜さまにくるまれて寝られるんですけどね!

 テンションが上がって、寝台の上でバタバタする。


 それで、目が覚めた。

「システーナ! 出ろ!」

 どんどんと戸を叩く音がする。

 寝台を飛び降りて、廊下をのぞき込む。ボサボサ頭のジュスタが部屋の扉から、顔を出した。ニーノはシステーナの部屋の戸を叩いている。

「あーい、はよーっす」

「貴様、まだ隠し持っているなら、出せ」

 あくびしながら出てきたシステーナに、ニーノがぴしゃんと言う。

「あー……、シスさん。こりゃ、やったなぁ」

 頭をかいているジュスタの側に行く。周りを見回していたジュスタが、私に気づいて抱き上げた。

「おはよー、ジュスタ」

「おはよ、エーヴェ」

「ニーノ怒ってる」

「うん、まあ、これはしょうがない」

 システーナはなんだか眠そうで、反応が鈍い。

「あんだってー?」

「とっとと()(おう)を出せと言っている」

 ――硫黄?

 システーナがようやくにやりとした。

「あーもう、さすがにねーよ。一回差し上げたらモロバレだもん。ぜーんぶあげましたあ」

「硫黄はやめろと言ったはずだ」

「だってーめっちゃ大きい塊見つけてさぁ。竜さまの大好物なのに、持って帰らねーとかありえねえよ」

 ――大好物!?

 ジュスタの顔を見ると、間違いないと頷く。

「それで、昨晩のうちに、竜さまに差し上げたのか」

「はい」


「えー――!?」

 二人の目がこちらを向く。

「りゅーさまが食べるところ、エーヴェ見たかった!」

 ニーノが厳しい顔で強く息を吐いた。

「これから二日は、竜さまに会えない」

 びっくりしすぎて声が出ない。

 ジュスタを見ると、これも間違いないと頷く。

 ――はぁあ?!

「竜さまが硫黄を召し上がると、強い(りゆう)()(すい)()ガスが発生する。これは、竜さまの意思でコントロールできるものではない。少なくとも二日は近づくな」

「食べた量によっては、もっとかかりますね」

 竜さまが大好物を食べるシーンを見られなかったばかりか、二日も竜さまに近寄れない、だと――?

「シス、わるい!」

 みるみる涙がこみ上げてくる。

「りゅーさまあぁぁぁ!」

「ま、まぁずっと会えねーわけじゃねーんだし……」

 近づいて来たシステーナをぽかぽか殴る。

「まあ、これはシスさんが悪いですね」

「えー……だってよー……」

「シス! わるい!」

「分かったよ。悪かった。今度はちゃんとちびにも言ってから、硫黄さしあげっから」

 抱っこされて揺すられると、なんだか気分が落ち着いてくる。

 ――しかし、それ、何も解決してなくない?

「……貴様は何が分かったのか」

 ニーノが私の内心を代弁し、深く息を吐いた。



 温泉の匂いがなくなるまでに、結局、三日かかった。

「私は、大変失望しております」

 竜さまの胸の毛にしがみついた私の対面で、ニーノが後ろ手を組んで、直立している。

「偉大な竜さまにとって我々卑小な人間との約束など、取るに足りないとは考えますが、システーナが硫黄を持ってきても召し上がらず、せめて私にお知らせくださいと、あれほどお願いいたしました。――にもかかわらず、一言すらいただけなかった」

 ――こ、これは怒ってるな。

 平静に言い募るニーノの隣では、システーナが面白くなさそうに立っている。

「竜さまのお側にいるのは我々の勝手でございますが、我々を追わないのも竜さまの勝手でございます。お互い、勝手の上にこの暮らしは成り立っている。しかも、竜さまが硫黄を食べた結果は、竜さまの周囲に広く影響を及ぼします」

「ニーノ……持ってきたのはあたしだろー? 竜さまはさぁ」

「貴様が硫黄を持ってきたことと、竜さまが硫黄を召し上がったことは別の問題だ」

「えー……」

 システーナがしょげている。


 ――ニーノ。

「はい」

 竜さまは金の目を細めた。

 ――硫黄はしゅわしゅわしておる。

 口を開けて、竜さまを見上げる。

「さようですか」

 ニーノの声は変化ない。

 ――ぱちぱちもする。口の中に入れると、噴火直前のマグマのように生きが良くてうまい。

 おお、竜さまの食レポ! レア!!

 ――腹に入っても、腐るような溶けるような独特な味わいがある。

 それ……、人間だと胃もたれに近くないですか?

 ――その味を思い出すと、思わず、食ろうてしまった。

 ふんす、と鼻息が上がった。


「……さようですか」

 すい、と竜さまが鼻先をニーノに寄せた。

 ――ニーノとの約束はずいぶん楽しい。しかし、食べるとき、すっかり忘れておった。

 沈黙が走る。


 うん、これ、どうなのかな?

 ニーノとの約束は竜さまにとって「ずいぶん楽しい」ことだから、取るに足りないものじゃない。でも、おいしい物が目の前にあったから、食べちゃった。

 そもそも、約束を守るというのも人間の価値観だから。

 システーナは竜さまの食事シーン独占があるから、うらやまし悪だけど。


 ――ニーノ、まだ失望しておるか?

「――いえ、竜さまがお好きな物を召し上がれてよかった」

 うん、そこがいちばんだよね。

 システーナが安心したように笑う。

「今後、周囲にできるだけ影響を与えずに、硫黄を召し上がっていただく方法を探します」

「あー、そーだよ! 初めからそっちで考えればよかったのに!」

 たしかに、好きな物が食べられないのはつらい。

 でも、竜さまの側にいられないのもつらい。


 ――硫黄かぁ。

 温泉が湧いてるところにある、黄色いやつ。あれを食べるとか、考えたことないなー。

 でも、なんか、あの色は……。


 その後、硫黄ふりかけ開発に関わることを、このときの私は知るよしもない。


評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 竜さまの好物が硫黄とは意外で面白い。ニーノが怒っている理由や竜さまとの約束事、硫黄のお味などクスッと笑えつつ、竜さまとエーヴェたちの暮らしについて理解が深まっていく気がします。 あと、なん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ