20.話が渦を巻く
会話ばかりの回です……。
ガイオが竜さまのほうへ手を向けたのに、さっとニーノが立ちふさがった。
「ガイオさん、今、昼食中です。ご一緒にどうぞ」
「何?!」
――うむ。わしらはボール遊びをしておく。
――うむ! 友とボール遊びなのじゃ。
竜さまが首を引っ込めたので、お骨さまも首を引っ込めた。ガイオが慌てる。
「待て!」
「まーまー、あんた、まーた食ってねーだろ」
システーナがトウモロコシ皮の敷物で、開いてるところをばんばん叩く。
「しかし――!」
「はい、これ、ガイオさんの分」
ジュスタにサンドイッチを渡されて、いつの間にかガイオはトウモロコシの皮の上にあぐらをかいてた。ニーノは竜さまとガイオの間に立ちふさがったまま。
今まで見たことないくらい、三人が連携してる。
――まったく、人騒がせなのじゃ! 腹が減っておるなら、ちゃっちゃと食えばよいのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんして、ガイオは面白くなさそうにそっぽを向いた。
「ガイオ、ご飯食べてませんか?」
お腹が減って、機嫌が悪いのかもしれない。
ガイオは片眉を上げて、こっちをのぞき込んできた。
「お前、この間来たばかりのヒナだな? 名前は何だ」
あ、そういえば、まだあいさつしてない。
「エーヴェだよ! こんにちは!」
「エーヴェか。俺はガイオ。お前より、ずっと前にこの世界に来た。敬意を払ってガイオさんと呼べ」
また口がぽかんと開く。
「何ですか、この人は? りゅーさまもニーノもそんなこと言いませんよ!」
「竜のことなど知らん。ニーノはきちんとしろ」
「何ですか、この人は? ニーノはきちんとしてますよ!」
「エーヴェ、落ち着け。ガイオさん、敬意の表し方はたくさんあります。エーヴェはヒナですが、敬意を表すことはできます」
ひげ面のガイオはニーノの言葉を聞いてるのか、もしゃもしゃサンドイッチを食べてる。
むっとして、また口を開こうとしたけど、システーナに干した果物を渡されたので、とりあえず口に含んだ。どうやら、クレの実だ。
「うむ。うまいな!」
薄汚れてるけど、味覚は正常みたい。
「ガイオはいつも何を食べますか? いつも旅ですか?」
「ガイオさんと呼べ! だいたい、ちっぽけなお前には関係がない。お前は竜の側で、ちゃんと食べられているか?」
「食べてますよ! おいしい物たくさんあります! なんでガイオはりゅーさまの側にいませんか?」
「俺は巣立ったからだ。巣立つ前だって、仕方なく、だ。お前たちもさっさと竜から離れろ」
お前たちも、から先は、ニーノとシステーナとジュスタ向けだ。
「離れる必要はありません。私は私のやりたいようにしています」
「ガイオも戻ってくりゃあいーだろ。ご飯がうまいぞー」
ひげ面ガイオは、ぎろっとシステーナをにらむ。
「ガイオさんと呼べ」
「ガイオさんも戻ってくりゃーいーだろ、腹減ってぶっ倒れてるとこ何回助けたと思ってんだよ」
システーナがへらへら笑う。
「シス、助けた?」
「なんかガイオは腹ぁ減ってどうしよーもねーと、あたしが通りそうなとこでぶっ倒れるらしーぜ」
「なんと! 迷惑です!」
ガイオは渡された二つ目のサンドイッチをむしゃむしゃする。
「ガイオさんはガイオさんのやりたいようにすればいい」
ニーノの言葉に、ガイオは鼻を鳴らした。
「竜の側で生きるなんて、気が知れん!」
むー。私は、ガイオのほうが分からない。
「……もしかして、ガイオは竜さまたちがきらいですか?」
「嫌いではない。敵だ」
サンドイッチを持ってた手を、ガイオは名残惜しげに眺める。
「かたき! ……なんで?」
「お前に話す必要はない。竜は人間に討ち果たされるべき存在だ」
――ふがー! ガイオは痴れ者なのじゃ! 人間が討てるものなぞ、せいぜい人間くらいなのじゃ! 変なのじゃ! べきなぞ、大仰に思い詰めておるのじゃ! 痴れ者め!
お屑さまがぴこんぴこんする。
「黙れ! 薄おしゃべりめ!」
「お屑さまの言う通りですよ! ガイオはどこかで間違って覚えました! 竜さまたちは偉大!」
ガイオは舌打ちして、嫌そうに顔を歪めた。
「まだ幼いのに、もう竜に毒されたか。お前こそ、どうして竜が偉大なんだ」
「ガイオは話さないのに、エーヴェは話しますか?」
「なんだと?」
さっきから立ったままのニーノが口を開く。
「エーヴェは、竜さまがかたきだという理由をガイオさんは話さないのに、竜さまは偉大だという理由をエーヴェは話すのか、と言っています」
「何を言っている! 敵だと言っただろう!」
「竜さまはかたきじゃないですよ! どうしてガイオは竜さまがかたきだと思いますか?」
「なんだこいつは! 生意気だな!」
「エーヴェは生意気じゃなくて、賢いんです。ガイオさん」
ジュスタに頭をなでられて、にこにこする。
「相変わらずお前らは、揃いも揃って頭がおかしい! 竜と暮らすとそういうことになる! 人間は自分で里を作り、生きることができる! なぜそうしない」
システーナから渡された干しクレの実を、ガイオはむしゃむしゃ食べる。
「うむ、うまい!」
やっぱり、お腹空いてるのかな?
「むー。人間だけでも暮らせますけど、エーヴェ、竜さまがたと一緒がいいです」
「どうしてだ!」
「エーヴェ、りゅーさまが大好きです!」
両手を上げて宣言すると、ガイオはぽかんとする。
「あわれな……。それほど毒されて」
「エーヴェは最初から竜さま好きですよ! 毒されてないですよ!」
あぐらの両膝を両手でがっつり押さえる形になって、ガイオはため息をつく。
「しかたない。俺が竜を倒せば、お前たちも目が覚めるだろう」
おかしい。話が噛み合わない。
「ガイオは頭が固いです!」
「ガイオさんと呼べ。お前、なぜ知ってる?」
「話してれば、分かりますよ!」
あれ? なんだか、お骨さまとお屑さまみたいだ。
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