19.小さいボールと大きいボール
ジュスタはさっそくポップコーンにナイフを入れる。
普通のポップコーンと同じで、中心は空洞があったりなかったり。トウモロコシの薄皮がカリカリになってくっついてる。白い部分は普通のポップコーンよりみっちりして頑丈。
「うーん、意外と加工は難しいかな?」
「え! 使えませんか?」
バランスボールみたいに乗っかって遊んでたけど、ジュスタのところに駆け寄る。ジュスタの隣では、ペロがポップコーンを飲み込もうとして、ずいぶん薄くなってた。
……うーむ。丸のみは難しそう。
「いや、使えるよ。ただ、きれいに切るにはコツが要りそうだ」
「刃が鋭くないと、押しつぶしてしまう」
ニーノが片手でポップコーンを支えて、しげしげと眺めてる。次の瞬間、ぱっとポップコーンが四つに切れた。
――ぽ! かまいたちなのじゃ! ニーノはいろいろできるのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
拾った断面はきれいに切断されてる。
ニーノ……、怖い。
「あ! エーヴェ、ちょっと食べてもいいですか?」
石の鍋を作り始めてだいぶ時間が経った。気がつけば、お腹が鳴ってる。
「ダメだ」
口に運びかけていたポップコーンを、さっと取り上げられてしまった。
「なんと!」
「貴様らも絶対に食うな。この森の物は不毛の地の影響を受けている。毒と思え」
「え!」
「そーなのか、お屑さま?」
ポップコーンの欠片に夢中だったお屑さまが、ぴこんっとシステーナを振り返った。
――分からぬ! わしはヒトではないのじゃ! じゃが、邪気が多い物を食らえば、ヒトは邪気に冒されるのじゃ! 不毛の地は邪気が多いゆえ、童は食わぬがよいのじゃ! それよりもジュスタ! そこの欠片は、わしの軽やかなボールになるのではないか? 作って見よ!
ジュスタは地面に落ちた欠片を拾い上げ、手早く球体にした。
「どうぞ」
うやうやしくボールをお屑さまに差し出すと、お屑さまはぽんっとボールを突く。ふわっとボールは飛んで、薄くなったペロに着地した。
「おおお!」
「いーじゃねーか」
――できたのじゃ! わしの軽やかなボールじゃ! ぽはっ! ぽはっ!
お屑さまは大喜び。
――ボール遊びなのじゃ! 皆でボール遊びなのじゃ!
両手を上げて賛成しようとしたけど、お腹がぐーっと鳴った。
鍋の前、葉っぱをのけた地面にトウモロコシの皮を敷いて、みんなで座る。
いつの間に作ってたのか、サンドイッチが手渡された。
「お! これは初めて食べます!」
トウモロコシパンの間に、潰した豆が固まった感じの物がはさんである。豆の味はほとんどない。塩とハーブで味付けされて、酸っぱい野菜と一緒にはさんである。柔らかくて、ハンバーグを食べてる気分。
「豆を発酵させたものだ」
「味ないけど、おいしいです!」
スーヒがトウモロコシの皮をかじろうとやって来て、ニーノに注意された。ふんすふんすしてたけど、干し草を渡されて、落ち着いてかじりはじめた。
ポップコーンが弾ける音が鳴り終わっても鍋を警戒してたントゥは、鍋の端を駆け回ってようやく納得したみたい。
こっちを見て、昼ご飯を食べてる様子をじっと見つめてる。
「ントゥ。お前もちょっと食うか?」
システーナが、干しサーラスを取り出して、ぴょいっと投げた。
ントゥは干しサーラスを見つめて、こっちを見て、またサーラスを見る。尾をくねらせてから、ぴょんと後ろに下がった。
――ントゥ、食べてもよいのじゃ。シスは悪い人間ではないのじゃ。
お骨さまの言葉に、ントゥはくるくる回って、でもこっちには来ない。お屑さまが言う通り、警戒心が強い。
ジュスタの隣で、ペロはポップコーンを飲み込もうとまだ頑張ってる。あのでこぼこが気に入ってるのかもしれない。
――友! わしはボール遊びがしたいのじゃ。前に遊んだボールより、大きいボールなのじゃ。
――なるほど、エーヴェの籐のボールであろう。あれはとても小さかった。
「どうぞ、使ってください」
ジュスタが一個投げ上げて、竜さまが上手に口でくわえる。
――少し友と遊んでくる。
――友と遊ぶのじゃ。
竜さまとお骨さまは、揃って木の向こうに姿を消してしまった。ご飯の後は、二人のボール遊びが見られそう。
――早く食べて、わしらもボール遊びじゃ!
お屑さまはわくわくしてる。
「はい!」
目の前の特大ポップコーンの山を眺めて、にこにこした。
「楽しみです!」
大きな森の底だから薄暗いけど、竜さまもみんなも一緒だととっても楽しい。
そのとき、頭上から何か降ってきた。
「大丈夫か! お前ら!」
ひげ面にびっくりする。
システーナよりは小さいけど、かなり大きな人だ。
お屑さまがぴこんと伸びた。
――ふがー! ガイオじゃ! この、痴れ者め!
薄汚れたひげ面は、お屑さまの腕輪に目を見張る。
目が深い藍色。
「ん? ガイオ?」
六番目の人だ! また会えました!
ガイオは居丈高に顎を上げて、こっちを見下ろす。
「ふん! 竜とは名ばかりの薄っぺらめ! お前に痴れ者呼ばわりされる筋合いはない!」
ぽかんと口が開いた。
「何ですか、この人、無礼ですよ!」
思わず、指さしてニーノに報告する。ニーノはとっても苦い顔。
「エーヴェの言う通りです。ガイオさん、竜さまへの無礼な言葉は聞くに堪えない」
――そうじゃ! そうじゃ! ニーノの言う通りなのじゃ! 竜は素晴らしいのじゃ! わしは薄くて美しいのじゃ!
「そうじゃそうじゃ!」
お屑さまのへりくつに断固賛成。
「薄おしゃべりはどうでもいい。何かひどい音がしたが、お前たちが竜に襲われていないか気になった」
開いた口がふさがらない。
「ガイオさん、竜さまが俺たちを襲うなんてありませんよ」
「あたしらがすっげー悪りいことしたら分かんねーけど」
ジュスタとシステーナも呆れてる。
――そうである。音ははじけ菓子じゃ。わしが立てた音でない。
ひょいっと竜さまが木の間から顔をのぞかせた。
ガイオはぎょっと身を引く。
――襲うとは何じゃ?
お骨さまもぱかっと口を開けて、のぞき込んできた。
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